自分のポストのダイヤル錠を解錠するのに一ヶ月かかった男の話

goldhead2007-07-12

 アパートのポストが新しくなる。そんなお知らせが入った。なるほど、我がアパートの郵便受けといえば、サビだらけのボロボロで、周りにはその場に捨てられたダイレクトメールの類がボロボロ落ちている。放火されても文句は言えないような状況。入居の下見をしに来た人もよい印象は持つまい。

左へ2回7、右へ1回B

 で、お知らせには俺のポストの開け方として、上の暗号が記されていた。ワープロの文面に「左」、「右」、「7」、「B」のみが手書きであった。俺には意味がさっぱりわからなかった。俺は生まれてこのかた、ダイヤル錠とは無縁で生きてきた。
 しかし、自分の郵便物を自分で受け取らないわけにはいかない。なんとか解読しなくてはいけない。「、」で区切られているが、これは手順の経過だろうか、それとも二通りの開け方の併記だろうか。左へ二回回して7に合わせろという意味だろうか。起点「5」から回せばいいのか。しかし、起点に合わせるまでに回転する間に何かカウントされてしまうのではないのか。それとも、まず右回しで7に合わせ、それから……などなど。結局のところ、よくわからなかった。
 しかしながら、当初は何回か開いたのだ。ともかく、自分の仮説にしたがって回して、最後に「B」に合わせれば、開いたのだ。ただ、開いたり開かなかったりしたから、やり方に自信が持てなかった。いっそのこと、「B」に合わせたままにしようか、開けっ放しにしようかとも思った。
 と、悩んだのが悪かったか、ここ一週間くらいまったく開かなくなった。毎日チャレンジするけど、パカッといかない。あんまり長くがちゃがちゃやって通報でもされたらかなわん。嫌な汗をかく。中には葉書が見える。ダイレクトメールだろうが、やがてガス代の支払い用紙なども届く。どうしよう。頭の中はそれでいっぱい。でも、今さら大家に聞くのもためらわれる。「このアホは鍵の開け方が一ヶ月もわからず、さらに『最初のころは開けられた』などと見え透いた嘘をつく卑怯者だ」と思われるのがオチだ。でも、実際、ほとんどそのとおりなのだが!
 とはいえ、苦しめば神が降りることもある。ポーンっとひらめいたのは雨の中を歩いているときだった。そうだ、「左回しでぐるんぐるんと二回転で7を通過させ、右回転にしてBに合わせろということだ!」と。実際そうだったんだよなあ。よく気づいた俺。大家に恥ずかしい電話しなくて済んだぞ、俺。ああ、スッキリした。俺の脳は活性化した。
 中に入っていたのは、歯医者から「前回治療から一年経ちました。定期検診しませんか?」というお便りだった。俺の元にはその葉書が届いていたけれど、俺はそれを読めずに、勝手に銀歯を外し、歯医者に行ったのだった(id:goldhead:20070704#p1)。定期検診のお知らせをしたのに、「今朝銀歯が外れた」と来た患者を歯医者がどう思ったか知らない。