脚立の回送マニアとマニアになりきれない俺

 こないだ、二宮に行ったときのことだ。俺の乗ってる電車が終点の大船にすべりこむと、ホームですぐに近づいてくる影があった。ドアから出てみると、それは脚立を持った駅員……ではなく、ガキだった。小学校高学年か、中学生。車両に脚立を寄せると、「回送」になった行き先表示をコンデジで撮影。せわしなく脚立から降りると、なぜか片足裸足のまま脚立を持ってぴょんぴょん跳ねて、またべつの獲物を撮りに行ってしまった。

 回送マニア……。ではない、たぶん、電車マニア。電車マニアの中の……回送マニア? よくわからない。よくわからないが、ひとりであそこまでやってのける行動力というものには恐れ入る。正直、俺にはそこまでなにかひとつに打ち込めるものというのがない。俺の趣味はなんですか? 競馬や自転車や、いろいろだ。いろいろだが、どうも分散している。ほかのすべてを抛って、これ一筋というところがない。どうもそこに、引け目がある。そして、惜しいと思う。全部の趣味が一点に集まっていれば、なにかが見えるようなところまで行けるような可能性、そんなものを感じることができたのではないか。そう思わないでもないのだ。
 むろん、脚立マニアのガキも、ほかにたくさんの趣味があって、その中のひとつが、駅のホームで片足スキップすることかもしれない。それはわからない。わからないが、俺があそこまで、人になにかをやっている姿というのは見せられん。そう思う。

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