深町秋生『アウトクラッシュ 組織犯罪対策課 八神瑛子II』を読む、あるいはメキシコについて

 さっそく届いたので、さっそく読んだ。ノンストップだ。最近なにかと話題の夜のスラッガーたちや、本書で一番人間味ある描かれ方をしている灰皿テキーラ関係なあの人なんかが出てきて、まさに同時代的! と思う。ここのところおれは大正時代のアナーキストだの、2.26の将校の遺書だのばかり読んでいたので新鮮だ。『支那革命外史』読むのはとりあえずやめだ。気が逸れた。
 しかし、同時代、そう、同時代。ただ、おれは直接その空気を知ってるわけじゃねえし、ニュース越し、ソーシャルブックマーク越しの出来事だ。ただ、ここのところ記憶がめっきり悪くなっているとはいえ、こんな世界もある……のかどうかはしらん。しらんが、ああ、古い古い時代から、小説というか(「小説」というのはそんなに古くねえのか?)、物語というのは、その時代時代のものをその時代その時代の語り部や書き手が残してきたもんなんだな、となんかわからんがそんな気になった。いや、なんかわからんというよりも、少なくともおれは灰皿テキーラ的なあの人がモデルだってはっきりと分かるけど、これが10年、20年、50年、100年経ったらどうなんだろうって、ふと思ったんだ。まあ、五十年後にも瑛子さんに警棒でぶん殴られたいやつはいると信じたい。おれは冷水、いや、冷たい目くらいでいいです。
 それはそうとメキシコである。メキシコからの暗殺者である。メキシコといえばおれには四つのことが思い浮かぶ。一つにはジミー大西のギャグであり、この四文字を見るたびに頭のなかで「メキシコ、メキシコ〜♪ 虫を採るのは、虫取りアミーゴ!」という歌が自動再生される。いま、すごく書かなくてもいいこと書いたと思うが、そうなのだから仕方ない。
 二つ目は関内の地下にあるメキシコ料理屋のことである。前に日記に書いただろうか。

 書いてた。この後、また一度行ったが、最初に行ったときに出てきたメキシコ人のおばちゃんがいなくなっていた。かわりに、やけにガタイのいい、それこそバウンサーだかボディガードだかのような屈強なメキシカンがおり、なにかヤバイところに間違えて入ってしまったのかと思ったくらいだった。対応も不慣れで、おまけにお得なランチメニューもなくなっていたので、それ以来行っていなかったが……。と、上の記事のリンク先にこんな記述。

マリアの体調が少々優れないため、2009年12月27日で閉店させていただきました。

 とある。そして、「関内 メキシコ料理」などで検索すると、たぶん同じ場所でボディビルをやってるメキシコ人がやってる料理屋が出てくる。陽気そうだ。あのときなにか不慣れな対応は、まだ普通に不慣れだっただけなのかもしれない。まあ機会があればまた行ってみよう。ただ、やべえ、なんか怖ええ、と思ったのも事実だったんだ、あんときは。なんかメキシコの暗さみたいなものを少し感じたのだ。
 三つ目はなにかといえば、ネットを通して入ってくるメキシコ麻薬組織の殺人写真や動画(アンコウの吊るし切りみたいなやつとか)の数々だ。メキシコをよく知ってる人には、「こんなのはごく一部のことだ」というかもしれないけれども、やはり麻薬組織が尋常じゃないほどの武力を有しているというようなニュースを見ると、それはもうどういうことなんだろうと思わざるをえない。「どういうことなんだろう」というのは、本当に想像がつかんということだ。ソマリアのような情況でもなく、それでもそうなっていると。一方で、F1がらみで知ったが、世界一の金持ちといわれる人間(wikipedia:カルロス・スリム・ヘル)が居たりもする。アメリカとの国境付近では馬肉を食ってるアメリカで四番目の金持ちがいるかもしらんがな(アメリカ人馬肉食わない - 関内関外日記(跡地))。
 四つ目は、すばらしいメキシコサッカーだ。とはいえ、おれはメキシコのことはよく知らない。知らないが、ワールドカップやオリンピックで見るたびに、その試合が楽しくてたまらない。もちろん日本代表の試合は応援という意味も出てくるので注目するが、縁もゆかりもないし、サッカー知識もないくせに、なぜかメキシコのサッカーはいい。おれでも名前を知ってるような選手のいる、ヨーロッパの押しも押されもせぬ強豪国なんかよりも、メキシコ代表の試合を見ていたい。これは不思議なことだ。おれは常々日本以外ではアルゼンチン(いつかのトヨタカップで見たテベスがいたから)を一番に贔屓し、次がメキシコと言ってきたが、最近では完全に逆転したようだ。あの地道にパスをつないでいく堅実なサッカー。それでも、ハッとさせられるような動きを見せる若手もいて、それがドス・サントスだったり、ヘスス・コロナだったりするのだが……。
 と、ここでようやく『アウトクラッシュ』の話に戻る。おれがあの刺客に重ね合わせたのは、ドス・サントスやヘスス・コロナだった。若く、しなやか肉体を持ち、躍動する彼ら。もし、生まれた場所が少しずれていたら……といった勝手な想像。「虫捕りアミーゴ」の陽気さと同居するメキシコの闇。読みながらそんなものを想起していたのだ。
 そしてストーリーはといえば、『グラップラー刃牙』の最強トーナメントではないけれども、「こいつとこいつが戦ったらどうなるんだろう?」みたいな期待感をどんどん盛り上げていって……という具合であって、その決着にも満足。もちろん八神さんも例によって生身の身体と狡猾な立ち回り、目的のために手段を選ばぬ黒い快傑さを見せてくれて満足。署長のヘタレっぷりにも満足。といった具合だが、結局まだ二話が終わったところであり、今度は「つづきは今頃ティファナを経ったころだろう」と書いて〆られぬところがもどかしい。おしまい。

>゜))彡>゜))彡

……なんかAmazonだと文字化けしたりするので。