惜別 前田智徳の引退

前田智は会見で「やっと終わったかという感じ。重圧というか、そういうものから解放されてホッとしている」と心情を語った。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130927-00000097-spnannex-base

 前田智徳が引退する。これに、おれなどが、なにか付け加えて述べることなどあるだろうか。そうすると、おれは前田智徳を神格化している部分もあるということだろうか。そうに違いない。かといって、そうでないところもある。ただ、そうでないところがあろうと思おうとも、前田智徳前田智徳であって、やはりなんというか、引退の報を聞いてうまく言葉にできない。せいぜい、今季序盤での骨折はなんとも残念であったと、思い浮かぶのは間近のこと。
 他人の言葉を思い出そう。2006年の7月14日に、野球のルールもろくに知らない女をつれて横浜スタジアムへ行った。おれが「あれがイチローも尊敬したとかしないとか言われる天才打者にしてカープの象徴、前田である」と説明しても、「ふぅん」と言うばかりであった。「井生のアルファベット表記はIOHだな」と言ったのと変わらぬ反応だ。
 ただ、前田がレフトの守備につくたびに、「苦しそう」、「辛そう」と言う。それ以来(7年も経つぞ!)、おれが前田智徳の話題をするたびに、「あの、暗そうな」と返す。おれは「そうだ」と言う。おれが前田健太の話をすれば「暗くない方の、マエケン君ね」と言う。おれは「そうだ」と言う。おれは、そう言わざるをえない。内心、どこか納得いかないところがあろうとも。忸怩たるものがあろうとも。「そうだ」と。
 前田智徳が会見で言った「重圧というか、そういうもの」。どんな表情で述べたのかわからない。しかし、それこそが、女の感じた「苦しそう」であり、おれが「そうだ」と答えるたびに感じていたなにかかもしれぬ。すこし、そう思った。
 引退後は、コーチでなく野球評論家になるという。いつかは打撃コーチ? いつかは監督? そんな先のことはどうでもいい。広島県外の人間には伝わりにくいという「明るい」前田の姿を見たいと思う。そんなふうに思う。
 さらば、カープの背番号1。

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……上の前田は、ブラウンが内野五人体制をひいた日の写真である。