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関内関外日記(跡地) このページをアンテナに追加 RSSフィード Twitter

2015ねん12がつ30にち

あなたにおすすめする、おれが今年観た映画5本

 おれはあまり記憶力がいい方ではない。かなり重症じゃないかというくらい記憶力がない。記憶力というか、記憶というものを軽んじて生きている。軽んじているどころか、疎んでいるといっていいくらいだ。とはいえ、おれが観たり読んだりした体験が、まったくの暗闇に落ちていって無くなってしまうのはもったいないと思う。おれはケチからだ。だから感想文を外部記憶、すなわちこの日記に記す。そして、たまには沈めてある記憶の断片を浚ってみたくもなる。

 ……というわけで、今年観た映画からよかったものピックアップする。あ、今年観たといっても、映画館で観たというとすさまじく数が少ないので、借りて観たものも含める。だから、2015ベストというより2014あたりのベストという可能性もある。

 ちなみに、だいたい50本くらい観ている。365日のうち1/7……ということは、だいたい一週間に一本、映画ファンを名乗れはしないが、そういうレベルの人間にしては観ているほうだろうか。

そこのみにて光輝く

 ……え、結局記憶力ないから最近観たばっかのやつじゃん? ということになる。でも、思い返すに、これ以上に重い映画はなかったなあと思うのである原作含めて一見価値ありと、おれなりの自信を以て言いたい。

『6才のボクが大人になるまで』

 ……え、これも12月に観たやつじゃん? ということになる。まあ、制作過程からして興味深いが、その制作過程(実際に6歳の子供が青年になるまで撮り続けた)だけで「ふーん、そういうやつ」と思って観てない人がいたら、「いやいや、『ネブラスカ』くらい面白いですよ」といいたい。え、『ネブラスカランクインさせりゃいいじゃん。

バトルシップ

バトルシップ [Blu-ray]

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 バカで名高い(ほめてる)映画である戦争ものSFも何本か観たが、これの主砲に敵うものはなかったといいたい。戦艦が簡単に沈むか! それでいい。

ドライブ

ドライヴ [Blu-ray]

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 もうほとんど完璧じゃないかと思った一作。そして、同監督の他作品を観てみたら、ことごとく退屈だったという稀有体験をもさせてくれた一作。たとえばおれはコーエン兄弟が好きだったり、クリント・イーストウッド監督作品が好きだったりするが、かれらの作品の中にも好き嫌いはある。が、このニコラス・ウィンディング・レフン監督については、現在のところ『ドライブ』だけ完璧で、あとはみなほとんど完全アウト(おれには)という状態である創作物というのは不思議ものだと思う。

アメリカン・スナイパー

 まあこれはもう、言うまでもない名作だし、投げかけてくるものに答えは出ないでしょう。

番外編『マッドマックス 怒りのデス・ロード4DX

 これがなぜ「番外編」かというと、この映画4DXで観たあと、女と飲んだんだけど、そこで別れ話よりひどい話になってしまって、おれはもうそれを思い出すのが苦痛になって、その件とは関係ないインターネットから姿をくらますことになってしまうくらいで、どうしても『マッドマックス 怒りのデス・ロード』を思い出すと、それがセットでついてきてしまうので、おれは非常に苦しくて、無邪気に唇を銀色に塗ったり、輸血用素材として車の先頭にくくりつけられたりできないのだ。生まれてはじめての4DX、そしてすべてをぶち抜くような『デス・ロード』、観終えた瞬間は最高だったのだ、本当に。映画とは関係ないトラウマになってしまって、また観られる日がくるかわからない。正直、これを書いていてもつらい。

 ……あとは右上の「過去ログからジャンル映画」で。つーか、映画館あんまり行ってないな。行ってもアニメばっかりで、それで「すげえいい!」というのが少ないな。まあひとつ挙げるなら「ガルパンはいいぞ」ということになるだろうか。……以上!

佐藤泰志『きみの鳥はうたえる』を読む(あるいはインターグランプリについて)

きみの鳥はうたえる (河出文庫)

きみの鳥はうたえる (河出文庫)

「きみの鳥はうたえる」(とインターグランプリについて)

ふたりでいるあいだ、静雄がたとえ、ひとことも口をきかなくても、僕はあいつの肉体が植物のように苦にならなかったろう。女といてもそんな気持ちはめったに味わえなかった。だから、静雄は、ぼくの友達だったのだ。

 主人公と、同居する友人と、一人の女の奇妙な三角関係が描かれている。三角関係というより、おれの大好きなNTRではないかという気もするが、そういう感じも薄く、奇妙な関係しか言いようがない。とはいえ、その奇妙というのも、登場人物たちの淡々とした、どこか決定的にすれ違っているような印象の中にあって、ひどく感情的に爆発しているというものでもない。逸脱というのか、脱落というのか、よくわからない。クールなのかもしれないし、枯れているのかもしれない。あるいは、作者の頭の中で良きものとして想像創造)された人間関係というものかもしれない。そこが佐藤泰志の味なのだろうとも思う。地の文で会話が始まってから「 」に行く佐藤泰志流のやり方も見られた。あるいは、『そこのみにて光輝く』に通じるような部分もあった。

 そしておれは、あまり本編とは関係ない、こんな箇所をメモしておく。

僕ら三人が、夏が終わってもこんなふうで、週末に混雑した競馬場のなかを歩いている光景を思うと、それだけで気持がよかった。あれこれ予想をねり、ゲートがひらくと観覧席から身を乗りだして、声をからし、僕らが肩入れした馬を声援する。最後のコーナーをまがり、直線にさしかかると、行け、行け、と僕らは叫ぶ。そうでなければすでに結果の見えてしまったレースがっかりして溜息をつく。馬たちは走り、ゴールを突っきる。僕らの周囲でおこるどよめき。ラジオの実況中継に熱心に聞き入る男。ニ―四だ、ニ―四だ、と叫んで喜ぶ男たち。騎手を罵る声。オッズ板に配当金がでるとふたたび、どっとあがるどよめき。

 こいつ(作者)は競馬をやっているな、と思わずにはいられない。ドラマ映画競馬シーンなどで、観戦者が揃いも揃って「行け、行け」などと最後の直線で叫んでいる手抜きの演出を見ると白けてしまう。そうだ、最終コーナーで絶望するやつは一言も発さない。ため息ついてどうでもいいやという気になっている。それに、「そのまま!」と叫ぶこともあれば「差せ!」と叫ぶこともある。いろいろなのだ

 さらにはこんな記述がある、

 「日曜日地方都市で開催されたレースで、強い馬が走ったよ。馬体が五百キロの、黒い、みるからに強そうな馬だ。誰がみてもそいれは一着でくるという馬だよ。当然、一番人気さ。それは大きなレースを勝ち抜いてきた馬なんだ」サラブレッドの話になると静雄はいつも生き生き話した。

 「あんたはそれを買ったの?」

 「いや、その馬は、春の大きなレースで一着、勿論、次のダービーにも出走したけど、このときは着外さ。でも今度のレースでは、他の馬と比べて格が違う、というのが予想屋たちの意見だった。無論、そうだろう。他の馬はほとんどダービーにも出走できなかった馬たちだからね。雨が降って重馬場ならなおさら、という予想だ」

 「あたしならその馬にするわね」

 さて問題です、「その馬」の名前はなんでしょう?

 答え。

 「でも僕は違う。一枠に、インターグランプリという馬がいたよ。デビュー当時はみんなに期待された素質馬だ。でも勝てない。オープン馬にもなれない。五百キロの一番人気馬が同じ四歳馬で、才能を開花させた馬なら、この馬はまだ開花できない馬だよ。僕はこう考えたんだ。きっとこのレースで、インターグランプリが勝つと思った。ここで勝って開花するんだ。今日はそのためのレースなんだ、と思ったのさ。でも結果は、その五百キロの馬が直線で差し込んで一着、インターグランプリは二着さ」

 「残念だったわね」と佐知子が静雄をじっと見つめていった。「あたしも、そんな馬の選び方なら、競馬が好きになりそうよ」

 「静雄のは感傷馬券というのさ」と僕はいった。

 というわけで、みなさんお分かりの通り、「五百キロ」の馬は……って、おれも検索しなきゃわかんなかったさ。

ハワイアンイメージ1977年5月22日 - 1990年10月14日)とは日本の競走馬である1980年皐月賞に優勝。ほかの重賞勝ち鞍にラジオたんぱ賞福島記念がある。八大競走に連なる路線よりも、ローカル開催[注 1]やダート競走を転戦した異色のクラシックホースである。最高570キログラム台の巨体の持ち主で、ダート・重馬場を得意としたことから重戦車」の異名を取った。主戦騎手増沢末夫

 ダービーではオペックホースの14着。皐月賞馬が福島ラジオたんぱ賞に出るのは珍しい。して、インターグランプリとはどのような馬であったかネット上にもその情報は多くない。ただ、種牡馬になったことは確認できる。

脚元が弱く大成できなかったが、新馬戦では7馬身差の圧勝

旧4歳夏のラジオたんぱ賞では皐月賞馬・ハワイアンイメージの2着がある。

門別で供用されていた。

 はたして、佐藤泰志インターグランプリに己の姿を投影していたのかどうか、おれにはわからない。だが、そうであってもおかしくはないように思える。かたくなにハワイアンイメージの名を出さず、インターグランプリの名だけ出した。インターグランプリタイトルを獲れなかったが、種牡馬にはなれた。佐藤泰志もなんども芥川賞候補になった(「きみの鳥はうたえる」もそうだ)が、重賞には勝てなかった。ただ、映画海炭市叙景』を、『そこのみにて光輝く』を生み出した。もっと佐藤泰志死後のことではある。

「草の響き」

 近づくと雀は地面からすばしっこく飛びたって巣から落ちた仔雀でないことを知らせたが、もうひとつの生き物が短い雑草の根元でもがいていた。走り抜ける時一瞥すると羽を一枚もがれて腹を見せている蝉だった。今おまえを襲っているものめぐりめぐって僕にまでやって来る。だからこうやって朝晩僕は走っていなくちゃいけないのさ。

……蝉はもがいていた。片羽で地面を叩いていた。ランニングシューズの爪先で、草の奥へ入れてやった。それで、雀か鴉に見つからない可能性がふえるかどうかはわからなかった。

 こちらは「左翼政党日刊新聞を発行している印刷所の文選作業場仮名屋の仕事」をしている主人公が、自律神経失調症になり、その治療のためにひたすらに走る話である。これも著者の佐藤泰志自律神経失調症であったことからリアル背骨があるといっていいと思う。思うが、やはり佐藤泰志の描く人間関係というものは、理想にすぎると思えてならない。なぜならば、人間関係というものほとんど構築できない双極性障害(とはジプレキサを処方するための仮の病名で、とりあえずなにか広範囲にわたる精神障害ではないかと思っているのだが)のおれが、「このような人間関係であれば、いい」と思えるからだ。あまりにもそう思えるがゆえに、ある種のリアリティがない。それはよくもあり、悪くもあり、だ。

 それにしてもランニングの話である。どうしても村上春樹のことが頭に浮かぶ。村上春樹佐藤泰志。おれには評論の真似事すらできないが、対比してみてもいいだろうか。というか、佐藤泰志にはどこかしら村上春樹っぽさもある。ただ、村上春樹が非現実のなにか、無意識に広がるなにかを扱うのに対して、佐藤泰志はひたすらに現実的だというように思える。佐藤泰志の全作品を読んだわけじゃないけど、今のところそう思う。

 いずれにせよ、先の競馬シーンではないが、佐藤泰志も走ったのだと思う。おれもたまにジョギングするからわかる。……とかいって、ぜんぜん競馬もしないし、走ってもいなかったら、それはそれで見事なものだ。高村薫は一日競馬場取材に行っただけで、『レディ・ジョーカー』のみごとな競馬場のシーン(アジュディケーターが勝った日だったか?)を描いてみせた。小説家というのはそういうものだ。とはいえ、自律神経失調症自律神経失調症である。そして、死は死である。失われるものは失われる。佐藤泰志はすでに失われたものである。と、同時に残された作品はあり続ける。読むものがあるかぎり失われないのだ。

なぜ彼が走っているか、など。くる日もくる日も、なぜ、走る必要があるか、などと。

佐藤泰志『そこのみにて光輝く』を読む

 おれは少し前に映画そこのみにて光輝く』を観た。

 かなりいい映画だった。そして、『海炭市叙景』のときと同じく、原作も読まねばと思った。思ったから読んだ。

そこのみにて光輝く (河出文庫)

そこのみにて光輝く (河出文庫)

 本書は第一部「そこのみにて光輝く」と、第二部「滴る陽のしずくにも」から成っている。べつにネタばらしというわけでもないだろうから書くが、時系列的に映画の先にあるのが第二部だ。とはいえ、第二部の内容も映画には組み込まれている。主人公の設定も変わっている。映画では採掘場の技師であったという背景があるが、小説の方では造船会社ドックで働いていたのが、ストライキを機にやめてしまったという風になっている。

原作は24年前のバブルの時期にかかれていて、達夫は会社ストライキ仕事を辞めたという設定ですが、今はストライキ自体ほぼないですもの

『そこのみにて光輝く』呉美保監督インタビュー

 ということだ。そのほかにもいろいろの組み換えが行われていることに気づく。映画で拓児が達夫にあげる花はホタルブクロだったが、小説ではミネズオウ(ミネゾウ)だったりする。まあ、それはどうでもいいが、いろいろの改変、再編集映画によって行われているのに気づく。そして、それのどれも的確で、話をきちんと構成させていると思う。思わずにはいられない。それは上に引用した時代背景などの問題にとどまるところではない。映像作品小説とを比べるのはなにか不毛なことかもしれないが、正直なところ映画がすばらしい構成になっている。優れているといってもいい。おれはそう思った。

 とはいえ、小説文章でできている。ハッとするような場面も少なくない。

 誰かが追いかけて来る足音が聞こえた。拓児だろうと思った。振返ると千夏だったので、まぶしかった。大急ぎで追いかけて来たのだろう。花柄ブラウスボタンをはめながら、草の中に入って来る。達夫は、外へ一歩出た時から、拓児の家を見捨てるように歩いて来た、と思った。

 いい小説だ。ただ、映画が良すぎる。もちろん、その背骨を作り上げたのは佐藤泰志だ。土台を作り上げたのは佐藤泰志だ。バブルの時代にこれを書いていたというのがすごい。そういうことなのだ。そして、映画化は本当に成功したといっていいだろう。おれにはそれ以上のことは言えない。

>゜))彡>゜))彡>゜))彡>゜))彡

……生活に突き刺さる映画―『そこのみにて光輝く』 - 関内関外日記(跡地)

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海炭市叙景 (小学館文庫)

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……絶望を描くことの希望、『海炭市叙景』 - 関内関外日記(跡地)

……小説『海炭市叙景』を読む - 関内関外日記(跡地)