『誇りは永遠に』 ギャビン・ライアル 早川ノベルス

誇りは永遠に (Hayakawa novels)

誇りは永遠に (Hayakawa novels)

ランクリン大尉シリーズ第四作。

そしてライアル最後の作品。


本書のベストセリフ

「いかにもふさわしい人間が暮らし、

いかにもふさわしい内装が施されたような部屋は、

ただ気楽に仕事をさぼるためのものである。

真の仕事がなされる部屋というものは、

あらゆるものがちぐはぐで、臨時の仕事場にしか見えないものである」


形だけそれらしい外見のみカッコ良いプロより、

ちぐはぐで無様でも真の仕事をするプロとの違いを伺わせる、

ライアルの小説作法にも通じる名文ですね。

打てない時は如何にかっこよく三振するかを考える長島と、

上半身が泳いで無様なフォームになっても腰砕けにならずにきっちりホームラン打つ落合との違いですなw

社会常識の外見、規定のみに拘る奴は、

ありふれたキャラのよくある物語しか紡げないよな。

マンネリを避けようと真摯に考え続けたライアルが、

ジェンダーものとしても傑作になるのは当然ある。

ついに、ジェンダーものとして主人公が女装に目覚める素晴らしさ!

ライアルが生きていればホモの男同志のセ○○スも書いたに違いない。

ライアルを越えた冒険スパイ物はまだないのか?

ライアルは時代を100年超越していたよねぇ。

『もっとも貴ゲイなゲーム』とか、

『ゲイの誇り』とか、

『ゲイ少佐の尻』とか、

生きていれば書いただろうに惜しいよねぇ。

ライアルさえ2年に1冊の執筆ペース。

現存する小説家の方は誰でも書くような同じような小説を量産せずに、

プロの誇りを胸に良い仕事して欲しいざんす。

『裏切りの国』 ギャビン・ライアル 早川ミステリ文庫

裏切りの国 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

裏切りの国 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

主人公は売春婦買っても殺人事件に巻き込まれてセクースする暇が無く、

メトロポリタン美術館の美人キュレイターと知り合いになっても、

売春婦を買った事がバレて嫌われてまたもセクース出来ず、

相変わらずエロ無しで上品なのがいい。

女性の未婚既婚情報の開示問題というジェンダーテーマも埋まっているのも良い。

結末は一番シビアでハードだろう。

他の作品の主人公にも祖国に裏切られ捨てられた男がいたのだから、

ユダたちの国という題にした方がよかったと思う。

『死者を鞭打て』 ギャビン・ライアル 早川ミステリ文庫

死者を鞭打て (ハヤカワ・ミステリ文庫)

死者を鞭打て (ハヤカワ・ミステリ文庫)

冒険小説と言うよりハードボイルドジェンダーミステリ。

ミステリの要素が強いが、事件の真相を推理出来る者はいないであろう。

殺人の動機が素晴しいジェンダーテーマになっている。

こんな悲劇が起こらない為に我々はジェンダーについて深く考えねばならない。

『ちがった空』 ギャビン・ライアル 松谷健二訳 早川ミステリ文庫

ギャビン・ライアル のデビュー作で、

プロットはヘタクソ過ぎるが、

主人公の人生観が素晴しい!

女より飛行機が好きな運び屋が主人公。

インド・パキスタン分裂時に失われたインド王室の秘宝を探す話だが、

金を欲しがる理由が、

『シャドー81』 や「戦闘マシーン ソロ」 のように感動的。

金は手段に過ぎない。

女に金を注ぐ奴が如何にくだらないか理解出来る

爽やかな感動を呼ぶ大人の為の小説。

女にしか興味が無い男はチンチン立たなくなったらどうする気なんだw

ヤバイ橋は渡らずに静かな老人になるのが人生の目的ざんす。

『シャドー81』 ルシアン・ネイハム 早川文庫NV

シャドー81 (ハヤカワ文庫NV)

シャドー81 (ハヤカワ文庫NV)

6ヶ国語を操るエジプト人

アメリカ人を主人公にして書いた冒険小説の傑作。

ただし、アメリカの偽善も暴いているので、

アメリカではほとんどヒットしなかったらしいw

表紙からは航空冒険小説に思えるが、

海や陸での作戦も描かれます。

これよりスケールをでかくするとSFになるしかない

最大スケールの冒険小説。

本格推理としてもなかなかのもの。

本書がやらなかったネタは、

山田正紀 の『謀殺の翼747』 でやってますので、

本書のアイデアに物足りないと思った人は、読め!

『謀殺の翼747』 山田正紀 中公文庫

謀殺の翼747 (中公文庫)

謀殺の翼747 (中公文庫)

武装の旅客機747が戦闘機F-16を撃墜する

芸のあるシーンはあるのだが、

ラストでP国のテロリストが米国のコマンドと戦う必然性に疑問。

素直に逃げれば良かったと思う。

それなりに面白いが、普通の冒険小説である。

『戦闘マシーン ソロ』 ロバート・メイスン 雨沢 泰 訳 新潮文庫

戦闘マシーン ソロ (新潮文庫)

戦闘マシーン ソロ (新潮文庫)

ニューロコンピュータにより学習能力を持つ人間型ロボットのソロは、

訓練中に人間に殺されると誤解して脱走、

ニカラグアのジャングルに潜伏した。

そこは敵と教えられた共産主義者どもの住む所だったが、

バッテリーをチャージしないと自分が死んでしまう。

ソロは毒蛇に襲われている人間を救い、味方だとアピールし、

彼等の為にコントラと闘うようになる。

アメリカのエージェントもソロを回収する為に動き出す。

かくして、知性を持つロボットと人間との間で知力と科学力の戦いが開始された!

ソロが頭のイカレタ神父(神父とは頭のイカレタ存在である)と出会い、

神父が

「君は私に危害を加えるつもりか?」

と尋ねて、否定したソロに対して、

アシモフのロボット工学の三原則で、殺人は出来ないんだな」

と言った時、ソロは

「そのアシモフというのが何者なのか知らないが、私は今までに三十人ほど殺している」

と答える箇所は痛快である。

頭の固いSF作家には絶対書けないセリフである。

ロボット(人工知能)SFの最高傑作、ホーガンの「未来の二つの顔」には、

もちろんかなわないが、感情を持ってしまい、友情も愛情も理解したソロが、

最後に選んだ、知的生命体としてもっとも大事な生きる目的とは何か?

ラストに感動出来ない奴は、ケダモノ以下のパープーである。

せいぜい、友よ、愛する者の為に俺は戦う!と、

永久に戦い続けて死になさい。

「君たちは本物の知的生命体か!?」

『わたしはロボット』 アイザック・アシモフ  伊藤 哲訳 創元文庫

序章 (Instroduction)

1 ロビイ (Robbie)

2 堂々めぐり (Runaround)

3 われ思う、ゆえに…… (Reason)

4 野うさぎを追って (Catch That Rabbit)

5 うそつき (Liar!)

6 迷子のロボット (Little Lost Robot)

7 逃避 (Escape!)

8 証拠 (Evidence)

9 災厄のとき (The Evitable Conflict)


何十年とアシモフとクラークはどちらが優れたSF作家か?と悩んでいましたが、

最近やっと結論が出ました。

それはアシモフである。

クラークがアシモフに劣る点として、

合作者、共作者のせいもあるが、

つまんねえ人間ドラマに色気を出した駄作がけっこうあるということがあげられる。

アシモフは最後まで、性欲がどうたらというくだらない人間ドラマは書かなかった。

ハードな科学的思考による論理の面白さがアシモフの魅力である。

本書はロボット工学三原則というネタの宝庫を明確にした

アシモフの代表作、基本中の基本の短編集である。

第一条 ロボットは人間に危害を加えてはならない。また、その危険を看過することによって、人間に危害を及ぼしてはならない。
(A robot may not harm a human being, or, through inaction, allow a human being to come to harm.)

第二条 ロボットは人間にあたえられた命令に服従しなければならない。ただし、あたえられた命令が、第一条に反する場合は、この限りでない。
(A robot must obey the orders given to it by the human beings, except where such orders would conflict with the First Law.)

第三条 ロボットは、前掲第一条および第二条に反するおそれのないかぎり、自己をまもらなければならない。
(A robot must protect its own existence, as long as such protection does not conflict the First or Second Law.)

で、三原則をどう破るかが、というか破られたと思わせて守られていたと証明するのが、

アシモフの論理の面白さである。

SFというより、推理小説、パズル的な面白さがアシモフの持ち味だが、

くだらねえ人間ドラマよりは科学的で面白く、一流のSFと言っていいだろう。

本書のベストはやっぱ、「嘘つき」でしょうな。

三原則を守った結果、とんでもない嘘つきロボットが出現してしまうという傑作。

次は、三原則の矛盾に追い込まれ、

論理の袋小路が行動として現れ、

進むことも、戻ることも出来なくなって、

オブジェクトの周りを同じ距離を保ったまま、

永遠に回り続ける破目になるロボットの話「堂々めぐり」でしょうな。

純粋たる知的遊戯、知性の巨人がアシモフである。

もうひとつクラークより優れている点を上げると、

アシモフ作品にはふざけた宇宙人は出て来ない。

地球人以外に知的生命体はいないのが科学の常識である。

宇宙生物が出てくるのは少しあるが、

それはあくまでも、化学ハードSFとして、

メタン呼吸系生物とか珪素構成系生物とかを考察しているに過ぎない。

ネタとして思考実験を楽しんでいるのがアシモフの作品からは読み取れるが、

クラークは、宇宙人が通信してくると信じていたキ○ガイであるw  

『もっとも危険なゲーム』 ギャビン・ライアル 菊池光訳 早川ミステリ文庫

もっとも危険なゲーム (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 18-2))

もっとも危険なゲーム (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 18-2))

ストイックなプロの運び屋を主人公にした珠玉の作品。

美人の色仕掛けにも金にも見向きもせず、

依頼人を裏切らない主人公が素晴しい。

依頼人は相場を知らない金持ちの素人なのに、

依頼人が出す金を多すぎると半分返すのもかっちょええ!

主人公はパイロットなのに、やくざや警官やスパイと戦う羽目になるが、

大ピンチに女に助けられたりして、

ジェンダー観も素晴しい傑作。

悪党は無法者ではない、

悪のルールを正直に守っているのだという、

ピカレスクノワールを馬鹿にした視点があるのもデラかっちょええ!

これが本物の自立したプロの男である。

冒険小説作家はやっぱライアルが一番私に合います。

星5付けたいくらいだが、

アクションシーンにもう一捻り欲しかったので星4.。

『本番台本』 ギャビン・ライアル 菊池光 訳 早川ミステリ文庫

冒険小説なのに、危険な事が嫌いで、

冒険しない男を主人公にした斬新な作品。

朝鮮戦争で敵機を撃墜したこともあるが、

厭戦思想に目覚め、

軍は辞めて輸送機ダヴで運び屋になった男。

人殺しはもちろん、ギャンブルもしない真面目な彼だが、

カリブの某独裁政権と革命軍の争いに巻き込まれ、

愛機ダヴを取り返す為に、

オンポロのB25でジェット戦闘機を駆逐しなければいけない羽目になる。

飛行場に駐機しているところを爆撃すれば、

人殺しせずに目的は達成出来る。

だが爆弾は官憲に見つかり押収される。

戦後民間輸送機に改造されたB25なので機銃は撤去されている。

正規の四分の一の発射速度しかない機銃を一丁据え付ける事は出来たが、

目標の戦闘機は12機。

主人公は任務を果たすことが出来るのだろうか?


航空機の細かい知識の書き込みが、

『もっとも危険なゲーム』 や『ちがった空』 より多くて、

私は『深夜プラス1』 の次にこれが好きですらー。

珍しくヒロインと恋仲になるが、

セ○○スシーンは描写されてません。

例によって女よりも金よりも飛行機が好きな魅力的な男が主人公である。

車は幼稚な男のセックスシンボルだという視点もイイ!

プロのパイロットだから車の運転がヘタでも

恥ずかしいとは思わない主人公はとても魅力的。

彼の男の面子を潰したかと誤解したヒロインが、

彼に自分のスポーツカーを運転させて

名誉挽回させようとするシーンがあるんだが、

彼は平然と助手席に座る。

パイロットとしての自分の教え子のスポーツカーに乗った時も、

教え子の運転速度が速すぎて耐えられないと

降ろしてくれという素晴しさ。

男は車をかっちょよく猛スピードで運転出来なくてはならない

という古臭いジェンダー観を否定した、

時代を超越した傑作である。

『拳銃を持つヴィーナス』 ギャビン・ライアル 早川ミステリ文庫

拳銃を持つヴィーナス (ハヤカワ・ミステリ文庫)

拳銃を持つヴィーナス (ハヤカワ・ミステリ文庫)

全ての美術ミステリは

この作品の一エピソードにしかすぎない究極の美術ミステリ。

ミステリ=殺人=拳銃ということで、

拳銃と美術ネタが完璧に融合した見事なトリックが出てくる

美術ミステリの完成形。

美術ファンは他の芸術ファンも兼ることが多いが、

音楽ネタでパブロ・カザルスが出てくるのも文句無し!

ゴヤを生んだ世界一の美術大国のスペイン人女性が、

ニカラグア大統領になる為に美術館を建てようとする話である。

展示品購入費用は2億5千万£!

主人公のチームは絵の買い付けにヨーロッパ中を駆け巡る!

大金に惹かれ危険な奴等が来る!

ラストの大ピンチに拳銃が無い状況に追い込まれており、

弾丸から自作始める場面は、

デズモンド・バグリィ の『高い砦』 を彷彿させ大興奮しました。

直裁なセ○○スシーンは無いが、

男女が共同して食器を洗うシーンがあり、

例によってジェンダー観も素晴しい!

フランシスコ・デ・ゴヤ・イ・ルシエンテス や

ピカソやミロやポール・セザンヌ

モネやゴッホレンブラントフェルメール

ダ・ヴィンチやラファエルロの話題とともに、

ティツィアーノ(チチアン)がなんども出てくるのが、

ジョルジョーネの幻の絵画「拳銃を持つヴィーナス」への

伏線になってるのが巧いです。

小説タイトルは暗喩だと誰もが思うが、

固有名詞だったとは憎いねぇ。

このネタを超えるには、

「核ロケットランチャーを背負うモナリザ」ぐらいしかありえないが、

そんなもん贋作だと誰もが判るので、

この作品が美術ミステリとして上限ということです。

ライアル全15作品でこれが一番好き!

ところでライアルは元新聞記者だが、

マイクル・コナリーやガルシア=マルケスもそうだね。

元新聞記者の小説家は素晴しい!というMY法則を確立したいが、

元新聞記者の小説家、他にもいたら教えてチョンマゲ。

日本の新聞記者はダメポだろうけどw