34,35冊目 『ブルボンの封印(上)・(下)』

ブルボンの封印〈上〉 (新潮文庫) ブルボンの封印〈下〉 (新潮文庫) 
作者: 藤本ひとみ
出版社/メーカー: 新潮社
発売日: 1995/11
メディア: 文庫

絶版ということで諦めかけていたのですが、AMAZONマーケットプレイスでユーズドを入手することができました。
上下2巻ですが、読むうちに続きが気になって、思ったより早く読み終わってしまった感がありました。


時は17世紀フランス、ブルボン王朝の初期です。
フランス国内の政治情勢として、宰相リシュリューの尽力により中央集権体制が整ったばかりで、政治は宰相を中心とした官僚に握られ、王は政治から遠ざけられているのが実態として冒頭に描かれています。
時の国王ルイ13世の死の直前に、重大な秘密の使命を帯びたマザランリシュリューの後継者)の行動から物語が動き出します。
マザランの使命とは、わずか5歳の子供をフランス国内からイングランドへ移すことなのですが、ちょっとした偶然によって赤ん坊まで同行者になってしまいます。
その後の展開を、かなりおおざっぱに言うと、その子供が長じて次期国王ルイ14世に瓜二つの容姿を持った青年ジェームズ、そして肩に百合の紋章の刻印を持つ赤ん坊だった少女マリエールの二人が、自らの出生の謎を探る内にフランス王室をめぐる陰謀に巻き込まれていくといった内容です。


二人は育った地で淡いながらも相思相愛の仲になるのですが、やがて運命に翻弄されロンドンとパリに離れ離れになってしまい、更に立場的に敵対といっていいほどになってしまうのです。しかも最後までお互いに相手のことに気づきません。
たとえ離れても、相手を強く想いつつも、そばに彼(彼女)に想いを寄せる人物がいて、次第に気持ちが傾いていってしまうという、まさに波乱のラブストーリー的な面があり、政治的要素を極力排し*1、恋愛の行方が気になってしまうあたりは歴史が苦手な人でもはまりそうな気がするのですが。
ただしそれだけでなく、マリエールの出生の秘密に過去の疑獄事件が絡んでくる謎解きと、王室を巡る陰謀・政治的駆け引きまで贅沢に盛り込んだ内容ですね。
フランスにおける鉄仮面伝説の解釈までうまい具合に付加されています。


著者はライトノベル出身ということですが、当作品についてさほど軽さを感じさせないのは、登場人物の感情の動きや当時のフランスの世俗の様子がきっちりと細かく描写されているからでしょうか。
よく調べているなぁと読中に感心しつつ、主な人物達の思惑が収束していって、急展開を見せる最後の章は、最高の盛り上がりを見せます。


興味が湧いて、史実を調べてみたのですが、作品中の理想に燃えるジェームスとマリエールの想いとはかなりギャップを感じます。
そこは作者のキャラクター造形や史実との隙間の肉付けのうまさと、現実との落差でもあるんでしょう。思春期に読んでいたらかなり影響されそうな作品ですね(笑)


漫画版(画:森川久美)も出ています。最初はどうかと思っていましたが、読んでみたい気がしてきましたね。

*1:作品が描かれたルイ14世の治世前半だけでも内憂外患が相次いで大変な時代だったらしいです。なんとか国家として乗り切ってこられたのは有能な官僚の手腕によるのですが、そのあたりは大胆に切り捨てています。