4期・68冊目 『プラチナタウン』

プラチナタウン

プラチナタウン

内容紹介
総合商社部長の山崎鉄郎は、一寸したつまずきから出世街道から外された上、150億もの負債を抱えて平成の大合併からも爪弾きされた故郷・緑原町の町長を引き受ける羽目に陥ってしまう。鉄郎のビジネススキルを当てにする故郷の人々。しかし、町長に就任してわかったことは、財政再建団体入りは不可避といえるような、想像以上にひどい現実だった。(以下略)

官に民間のノウハウを、というのはよく聞く話ですが、この主人公ほど切羽詰った話は無いでしょう。誰も町長のなり手がいない莫大な負債を抱えた破産寸前の東北の町。それと実質片道切符である関連会社への出向。難しい選択ですが、実際のサラリーマンの多くは未知と困難が待ち受ける世界へ飛ぶこむよりも後者を取ることでしょう。
ところが、主人公・山崎鉄郎は自らのミスが原因とはいえ出世が閉ざされた不満を酒の勢いで漏らしてしまった為に、あれよあれよという間に町長へのお膳立てが進められ後に引けない状況に追い込まれてしまいます。


特筆すべき産業もなく、若者は町を出て行く一方で高齢者が占める割合が増えるばかりの典型的な過疎の町。雇用創出の名目で作られたものの、利用者が少なく赤字を垂れ流す立派なハコモノの数々。
このままでは早晩破産して財政再建団体の容赦無い管理に委ねてしまうであろう町をどう救うかが見所になります。
誰もが考え付くであろう思い切った人員削減や給与減額に事業の縮小といったリストラ策は、町議会の猛反発を浴びることが予想されて中途半端な形でしか実施できない。
そこで、主人公が起死回生の策として考え付いたのが、工場誘致に失敗して手付かずとなっている広大な更地に定住型老人ホームを中心として従業員用の住宅や娯楽施設を含めた街作りプロジェクトを立ち上げ、自分がいた商社と協力して作ってしまおうということなんですね。


いざ、企画が進むに連れて現代日本が抱える高齢化社会の問題点が浮き彫りになっていくのがとても興味深かったりします。私自身はまだ先とは言え、今現在安心できる材料などありません。団塊世代の定年で本格化するこの問題に社会は一体どう対処すべきなのか?
そこで主人公である山崎町長が導いたのが、老いてからこそ人生を楽しみ医療などの心配なく老後を過ごせ、かつ人を呼び寄せることで町を活性化させて過疎の問題までを一挙に解決しようとする妙案であったわけです。
僻地であることのデメリットに対しては、土地代がかからないことによる低価格と恵まれた自然環境に囲まれての充実した生活をアピール*1。商社が本腰を入れるだけに施設のサービスの方にも抜かりはありません。
こんなプラチナ・タウンならばぜひとも余生を送ってみたいと思わせる内容に仕上がっていく様が楽しい。


ただ、主人公の前に立ちはだかるであろうと思われた町議のドンは結局尻すぼみ。田舎行きを嫌がっていた主人公自身の妻は途中でまったく出なくなってしまうなど、物語に刺激を与えるであろうキャラが思ったよりも立っていなかったので小説としての面白みに欠ける部分がありましたね。

*1:そこで利用者低調だった立派な町立施設が活きてくる