7期・27冊目 『タイム・トラベラー―時間SFコレクション』

タイム・トラベラー―時間SFコレクション (新潮文庫)

タイム・トラベラー―時間SFコレクション (新潮文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
流れるだけが時間じゃない!強者SF作家たちが腕によりをかけた時間料理の数々…。朝、目をさますと4日先の新聞が配達されてきた―。ファーマーの異色作「わが内なる廃墟の断章」の他、ラジカセ片手に若きアマデウスが活躍する話題のサイバーパンク「ミラーグラスのモーツァルト」、失われたバビロンの都が未来に甦るワトスン「バビロンの記憶」など、きわめつきの時間SF全13編。

本格派時間SFの短編集です。収録作品は以下の通り。
しばし天の祝福より遠ざかり/ソムトウ・スチャリクトル
時間層の中の針/ロバート・シルヴァーバーグ
遥かなる賭け/チャールズ・シェフィールド
ミラーグラスのモーツァルト/B・スターリング&L・シャイナー
ここがヴィネトカならきみはジュディ/F・M・バズビイ
若くならない男/フリッツ・ライバー
カッサンドラ/C・J・チェリイ
時間の罠/チャールズ・L・ハーネス
アイ・シー・ユー/デーモン・ナイト
逆行する時間/デイヴィッド・レイク
太古の殻にくるまれて/R・A・ラファティ
わが内なる廃墟の断章/フィリップ・ホセ・ファーマー
バビロンの記憶/イアン・ワトスン


タイムスリップ小説は今までよく読んできて、いろんなパターンがあることは知っていましたが、こんなアイデアがあったのか!と驚かされるほど様々な内容が盛りだくさん。
逆行ネタ(「逆行する時間」)あり、
コールドスリープ(「遥かなる賭け」)あり、
歴史介入(「ミラーグラスのモーツァルト」)あり。
一種のパニックものとしてユーモアと悲哀に包まれていたのが「わが内なる廃墟の断章」。ある日起きたら4日目の日付だった。主観では時間が進んでいるはずなのに過去に戻ってゆく世界。体は歳を経ているのに精神は若返っていく不思議。何十年と続いてゆくところが笑いごとではありません。
また、老人として誕生し、どんどん若返っていく男の奇妙な人生を描いた作品があって数年前に映画化もされましたが、*1逆に世界がどんどん過去に逆行していく中で本人だけが時が止まったままなのが「若くならない男」。アイデアものと言えそうですが、世界が退行してゆくさまを抒情たっぷりに描かれていてつい引き込まれました。
中でも時間遡行によって記憶を改竄されてしまった男が愛する人のために自らも過去に溯って賭けに出た「ここがヴィネトカならきみはジュディ」「時間層の中の針」が一番のお気に入りですね。ストーリー構成もオチも秀逸。

*1:「ベンジャミン・バトン 数奇な人生」

7期・28冊目 『リセット』

リセット (双葉文庫)

リセット (双葉文庫)

内容紹介
ぼんやりした不安と不満を抱え、それでも平凡に暮らしていた三人の女性が、突然、高校時代にタイムスリップさせられてしまう。”未来の想い出”がリプレイされる毎日は、彼女たちの意識を少しずつ変えていく。そしていま、再び新しい人生へ! 人生は変えられるかもしれない……読んだあと、景色が違ってみえるような、不思議と元気になれる長編小説。

高校の同級生と結婚し、大学生の息子と高校生の娘を育て上げた専業主婦の知子。
システムエンジニアとして副部長の地位にあり、バリバリ仕事をこなしている独身の薫。
ナンパされた末に妊娠して高校中退するも、流産して仕事を転々としながら独身のまま暮らしている晴美。
高校の同級生であったその三人が偶然東京で出会い、そのままの流れで食事した地下のお店で30年前の自分自身にタイムスリップしてしまうというお話です。


よくある過去の自分自身に戻るタイムスリップものと違うのは、それぞれ立場も考え方も違うただの同級生だった三人が秘密を共有しながらまったく違う道を選んで人生をやり直すという点にあります。
知子は片っぱしからオーディションを受けて夢だった女優の道を進み、逆に薫は前の人生では知子の夫だったはずの浩之と結婚し、かつパートで始めたスーパーで店長に出世する。安定した生活を手に入れるべく晴美は不良から足を洗って女子大卒業後医師と結婚し子供を出産する。
本人視点とそれを見ている仲間の視点で綴られる違いもそうですが、大人となった目に映る家族像と高校三年時の回想との対比が非常に興味深いです。男女の違いはあるでしょうが、もし自分が30年前にタイムスリップしたら両親はどういう印象なのかが気になります。と同時に当時の自身のふるまいがとても恥ずかしく思うことでしょうね。
また本人が人生の選択を変えたことで周囲の人物が影響を受けることもお約束としてあります。本来知子と結婚するはずだった浩之が薫と結婚したことで彼の夫としての立場がまったく変わってしまったのがなんだかショックでしたね。*1


そしてやり直した結果、幸せになれたかといえばそんな単純ではなかったりします。
前の教訓を生かした選択とはいえ、そう簡単にうまくいくとは限らないのが人生なのかもしれません。
そんな三人が再び店に集い選んだのは全てのリセット。つまりタイムスリップ直前に戻ることでした。
でも30年分余計に積んだ人生経験は無駄にはならず、それぞれ行き詰っていた問題を打開して明るい結末に向かっていったのが心地よかったです。まぁ多少都合よすぎる感がありますが、そこは物語として許せる範囲でしょう。
それにしても、男女雇用機会均等法が施行されたのが1986年。社会における男女格差を是正しようという動きが出てきたとはいえ、渦中の主人公たちの目に映るのは男性優位の色濃く残る社会であり、彼女らの親や上司にあたる世代は女は結婚して子を産むのが当たり前という考え方ばかり。*2それに対して三人が新たな人生でどう行動するか、男の私としても気になったものです。そこはあえてバラバラな性格の三人を登場させることで一方的な流れとならずに物語として深みが出た気がしますね。

*1:浩之自身は決して印象良い人物では無いのだが一応同じ男として

*2:曰く女に学歴は要らない、責任ある仕事は任せられない等