8期・6冊目 『狐火の家』

狐火の家

狐火の家

内容(「BOOK」データベースより)
長野県の旧家で、中学3年の長女が殺害されるという事件が発生。突き飛ばされて柱に頭をぶつけ、脳内出血を起こしたのが死因と思われた。現場は、築100年は経つ古い日本家屋。玄関は内側から鍵がかけられ、完全な密室状態。第一発見者の父が容疑者となるが…(「狐火の家」)。表題作ほか計4編を収録。防犯コンサルタント(本職は泥棒?)榎本と、美人弁護士・純子のコンビが究極の密室トリックに挑む、防犯探偵シリーズ、第2弾。

「防犯探偵・榎本シリーズとしては『硝子のハンマー』に続く第2作。
実質上密室となった現場で起こった殺人事件を、防犯コンサルタント・榎本径と弁護士・青砥純子が軽快でユーモア(本人たちはいたって真面目)なやり取りをしながらその謎を解いてゆく内容となっています。
収録されているのは4編。


「狐火の家」
古い民家で部活のために一人帰宅していた中学3年の長女が殺害された上に総重量30kgになる金のインゴットが盗まれていた。
家の鍵はほぼ施錠され、しかも玄関をはじめとして100m離れて農作業していた女性の視界に入る。唯一の死角にして施錠されていなかった二階北側の窓の下は雨上がり後の泥土だが犯人の足跡は見つからなかった。


「黒い牙」
ペット譲渡に関するトラブルの依頼を受けて青砥弁護士が向かった先はタランチュラをはじめとする毒蜘蛛を飼育していたアパートの一室だった。
そこで所有者が知悉していたはずの蜘蛛の毒で死んだこと、争っている妻と友人の言い分を聞いて、これは事故ではなく他殺ではないかと疑い、榎本のアドバイスを受けながら犯行の手口を探る。


「盤端の迷宮」
ホテルの一室で刺殺されていたプロ棋士
問題はドアが施錠されていただけでなく、チェーンも掛けられていたことだった。
犯人は殺害後に何らかの手段でチェーンを掛けたのか?それともチェーンを掛けた状態で殺害が可能なのか?


「犬のみぞ知る Dog Knows」
劇団「土性骨」の座長が撲殺される。
当日、自宅で劇団員と飲んでいたと思われるが、そのうちアリバイが無いのは三名。
ここでは獰猛な飼い犬の呑龍号がキーポイント。
一番犯行動機が強いが呑龍号に嫌われているために出入りが困難な二枚目俳優・飛鳥寺鳳也。
呑龍号には好かれているが強い犬アレルギーの力 八噸。そして同じく呑龍号には好かれていて、かつ犯行に障害がない松本さやか。
果たして犯人は?


この中では表題作が予想外の展開で一番良かったです。
「黒い牙」は珍しく青砥弁護士が主役。蜘蛛が苦手な人にはある意味ホラーかもしれない。
「盤端の迷宮」は被害者が悪者だったパターン。チェーンのトリックは盲点。
「犬のみぞ知る Dog Knows」例の劇団は話はなんか調子が狂う。
どちらかというと著者の作品は長編の方が傑作としての印象があるため、本作と次作『鍵のかかった部屋』のような短編集ですと読み物としてはやや物足りなさがあるのは否めません。
その分気軽に読めるシリーズではあるのですけどね。
とはいえ、物理的に鍵がかかった部屋だけでなく、様々な条件下で実質密室となりうることもある。いくつもの密室バリエーションが提示され、その解く過程を楽しませてもらいました。

8期・7冊目 『鉄道員(ぽっぽや)』

鉄道員(ぽっぽや) (集英社文庫)

鉄道員(ぽっぽや) (集英社文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
娘を亡くした日も、妻を亡くした日も、男は駅に立ち続けた…。映画化され大ヒットした表題作「鉄道員」はじめ「ラブ・レター」「角筈にて」「うらぼんえ」「オリヲン座からの招待状」など、珠玉の短篇8作品を収録。日本中、150万人を感涙の渦に巻き込んだ空前のベストセラー作品集にあらたな「あとがき」を加えた。第117回直木賞を受賞。

浅田次郎の作品はいくつか読んでますが、今年は『蒼穹の昴』を始めとする清朝末期シリーズを読んでみようかと思っていたところです。
でもその前に高倉健主演の表題作の映画は見たものの、原作は未読だったことに思いついて本作を手に取ってみた次第です。
収録作は以下の通り。

娘を亡くした日も、妻を亡くした日も、駅に立ち続けた鉄道員・佐藤乙松。定年退職を間近に迎えた正月の夜、故郷帰りらしき少女に出会った。乙松は少女に亡き娘の面影を重ねてしまう。

  • ラブ・レター

留置所から出所したばかりの吾郎のもとに、偽装結婚した出稼ぎの中国人女性が若くして病死したとの知らせがあった。戸籍上は妻であるが、一度も会ったこともない女性からの手紙を読み、なぜか吾郎の心が揺れ動く。

  • 悪魔

新しく来た家庭教師の大学生の男は「僕」には”悪魔”に見えた。
そして家庭教師が来て以来、裕福だった家に禍々しい影が落ち始めた。

会社の送別会の帰り、繁華街で幼少の頃に自分を捨てた父の姿を見かける。しかもなぜか別れた当時の姿のままだった。

  • 伽羅

トップセールスを誇っていた営業マンの主人公だが、紹介されたブティック「伽羅」の女性オーナーに惹かれて、営業マンらしからぬ行動を取ってしまう。

  • うらぼんえ

夫側親戚の中では唯一可愛がってもらった義祖父の新盆のために夫の帰郷に付き添った妻。しかし舅・夫らは子もできず仕事も辞めない妻と別れさせ、妊娠した浮気相手の若い看護婦を後釜にすえようと画策していた。

  • ろくでなしのサンタ

クリスマスイブに留置所から出所した三太(さんた)。口下手で不器用なために割を食って母と妻子を残して禁固刑に処せられるであろう留置所仲間の北川のことが頭から離れない。

幼馴染同士で結婚したが今は別居状態で完全に冷え切っている夫婦のもとに故郷の映画館の最終興業の招待状が来る。二人は故郷に帰り、昔と変わらない佇まいのオリヲン座にて過去の自分たち、そして今を見つめなおす。


主人公が小学生である「悪魔」を除けばほぼ中高年男女が主な登場人物、なおかつ描かれる時代も昭和の色合い濃く、まさに中高年向けの短編集と言えるでしょう。
特に故郷や家族がキーワードになっているので、作品によっては自分自身に投影させて想いがこみ上げることもあり得ます。
抒情溢れる描写の心温まるストーリーが多く占めていますが、短編だけにすんなり感情移入できるか、それとも展開が唐突に感じてしまうかは読む人によって分かれるかもしれません。
私個人で言えば、前者は「鉄道員(ぽっぽや)」や「オリヲン座からの招待状」であり、後者は「ラブ・レター」や「ろくでなしのサンタ」でありました。