10期・56,57冊目 『キャリアーズ(上・下)』

キャリアーズ〈上巻〉

キャリアーズ〈上巻〉

キャリアーズ〈下巻〉

キャリアーズ〈下巻〉

内容(「BOOK」データベースより)
インドネシアスマトラ島で謎のウイルスが猛威!女性ジャーナリスト、ホリー・ベッカーは現地にいる双子の娘の身を案じて、アメリカ陸軍のカーメン・トラヴィス中佐はウイルス殱滅を期す探査隊を率いて、それぞれ“災厄の島”へ向かう。そして、カーメンのもとに送られてきた一通のアメリカ軍極秘文書のコピー…。幾重にも錯綜した謎が、スマトラのジャングルとアメリカの時空を越えて、結びついたとき、正体不明のウイルス“九日目の悪魔”の真実が明らかになる…。

インドネシアからアメリカに輸入された実験用のサルたち、そして同国からイギリスに帰国したばかりの植物学者が出血性の熱病によって死亡。
関係者の迅速な対応により周囲に広まることなく収束しましたが、その二つを繋ぐのはインドネシアスマトラ島、そのジャングルの奥地にあると判明します。
そして現地の町では謎の感染病によって次々と犠牲者が出て住民たちは逃げ出し、町から町へと不穏な空気が広まっていたのでした。
アメリカ陸軍伝染病医学研究所(USAMRIID=ユーサムリッド)のカーメン・トラヴィス中佐はサルを死に至らせた謎のウイルスの根源を調べるために探査チームを率いてスマトラ島に赴きます。
一方、女性ジャーナリストのホリー・ベッカーは元夫のもとでバカンスを楽しむ双子の娘エマとルーシーに会うためにスマトラ島に到着したのですが、なぜかキャンプのある地への道路が軍によって封鎖されており、途方に暮れるのでした。


スマトラ島のジャングルを舞台に謎のウイルスの宿主を追うアメリカ陸軍の探査チーム、双子の娘の元へ向かうために手を尽くす母親。
彼女らがウイルスに冒されることなく無事目的を果たせるのかが気になってしまう上に、もう一つの視点として過去に遺棄されたアメリカ国内の軍事施設から入手した断片から解き明かされていく過程で三者が交わっていくというミステリ的な展開も秀逸。そして終盤に驚きの展開が待っているのです。


USAMRIIDにおいて危険性の高いウイルスに冒された検体を扱う緊張感溢れる描写やエボラ出血熱に関する説明、更にヒロインの陸軍中佐が職業上の使命・責任と母親として家族を思う気持ちに揺れる立場など、以前読んだ『ホット・ゾーン――「エボラ出血熱」制圧に命を懸けた人々』を彷彿させる部分が随所に見られます。
これは刊行の時期的に先の作品を参照して書かれたのではなく、取材先が重複したためであろうと訳者あとがきにありました。
『ホット・ゾーン』が実際に起こったエボラ出血熱がなせる恐怖が存分に描かれていたのに対し、本書は起こり得るかもしれないパンデミック、そしてその根源を辿る複雑な道筋が興味をそそる内容であり、秀逸なミステリとして仕上がっています。
まぁタイトルと紹介文がそのままずばりネタバレしちゃっているんじゃないかという気がしますが、そこはご愛嬌ですかね。


ここで登場する謎のウイルスは感染して九日目に身体中がボロボロになった上にあらゆる箇所から出血して死亡するという、“九日目の悪魔”の異名通りエボラ出血熱と同様の恐ろしい感染病です。
作中で実際にインドネシアからイギリスに移動したように九日間あれば広範囲の移動が可能であり(事実上動けるのは5、6日程度だろうが)、簡単に国境を越えて広まるわけです。
ただ強力すぎて宿主を死に至らしめる症状が早いために返って収束しやすいという点があります。
むしろ作中で描かれたようにパニックによる社会崩壊や経済への影響の方が脅威でしょう。ここでは先進国では最小限に抑え込まれたために平穏が保たれましたが、一歩間違えれば世界中が大混乱に陥っていた可能性もあるんじゃないかなと思いましたね。