13期・55冊目 『転生貴族は大志をいだく! 「いいご身分だな、俺にくれよ」』

転生貴族は大志をいだく!  「いいご身分だな、俺にくれよ」

転生貴族は大志をいだく! 「いいご身分だな、俺にくれよ」

内容(「BOOK」データベースより)

高橋修は、妹がやっていたゲーム世界の貴族であるアイザック・ウェルロッドに転生した。侯爵家という高い身分、それに加え、母は子爵家出身とはいえ第一夫人ということで侯爵家の継承権の順位も父に次いで高く、将来安泰かと思われた。しかし、アイザックは長男ではなく次男だった。しかも長男のネイサンは侯爵家出身の第二夫人の子で、周りの多くの人々は、今は継承権の順位がアイザックよりも低くても、いずれはネイサンが侯爵家を継ぐのだと考えていて…。自分の明日のため、今日もアイザックはお菓子作り、簿記といった前世の知識やリーマンスキルをフルに活用して奔走する!第6回ネット小説大賞受賞作。

小説家になろう」で好評連載中の『転生貴族は大志をいだく! 「いいご身分だな、俺にくれよ」』(web版)の書籍化作品となります。
男性向け恋愛シミュレーションゲームとして、いわゆるギャルゲーというジャンルがありますが、その女性版が乙女ゲームといい、一般的には貧乏なヒロイン(実はある貴族の隠し子という設定もあり)が貴族ばかり通う学園に入学して、王子を始めとする多くのイケメンと恋する。場合によっては逆ハーレムを築くルートがあったりするようです。
しかし、ヒロインを嫌う貴族令嬢たちが障害として立ち塞がってくる。
貴族令嬢たちはターゲット男性を落とすライバルになるし、中でも王子の婚約者である身分が高い令嬢が嫌がらせの首謀者というボス的な存在だったりします。
小説家になろう」ではいわゆる悪役令嬢モノがありますね。
ゲームの中で最終的にヒロインに蹴落とされてしまう悪役令嬢に転生して、ストーリーを先読みしたり、時にヒロインの主人公補正と戦ったりして、最悪処刑される暗黒の未来を防ぐべく奮闘するという作品が多かったりします。
悪役令嬢が実は全然悪役じゃなくて、ヒロインの方が自分勝手で傲慢だったりするのがポイント。
悪役令嬢モノは他のジャンルと比べてそんなに多く読んでいる方ではないのですが、いろいろと派生作品があるようです。


そんな中、本作もゲーム世界に転生したのが女性ではなくサラリーマン男性*1で、転生先も侯爵家という高位貴族の次男・アイザックではあるものの、ゲーム的にはモブ扱いというのが特徴であります。
実際に物語としては3歳頃からスタートするのですが、問題は第一夫人である母親が子爵家出身で第二夫人よりも低いため、すんなり後継ぎになれるかわからないという不安な状況なのです。
身分の差が絶対として確立している貴族社会ゆえに過去の経緯で第二夫人に甘んじていながらも侯爵家をバックにしていること。先に男子であるネイサンを生んだことから後継者争いとしては兄ネイサンとその母メリンダ側に後れを取っている状況。
メリンダの根回しのあって周囲も兄の方にすり寄っていくため、同い年で同性の友人が一人もいないというのが不憫すぎます。
その分、乳姉弟であるリサや従姉妹のティファニーといった可愛い女の子がそばにいますが。


中身は成年男性、だけど外見は幼いままなのでできることは限られているが、不審に思われない程度にアイザックは行動し始める。自身が兄によって邪魔者として排除されないために。
途中でヒロイン役であるニコルと出会ってロックオンされてしまうという展開もありますが、やはり悪役令嬢的な存在のパメラに一目惚れしてしまったのが大きいでしょうか。
まずは実家での後継ぎという立場を盤石とするために周囲の好意を集め、兄の評判を貶める行動。
そして将来的にパメラと結ばれても問題ない地位まで登りつめることを決意するまでとなります。


本作の特徴としては、ゲーム世界のつもりで神童の名を欲しいままに行動したアイザックが現実の壁にぶつかりながら成長していく過程を丹念に描いているということでしょう。
中身が大人だからといって決して万能ではなく、失敗が多いことも転生もの主人公らしくないとも言えます。
だけど、そこからの挽回していくのが良いのです。
プロローグで学園卒業のシーンが流れている通り、物語のメインとしてはゲームイベントがある学園(15〜18歳くらい?)編でしょう。
web版ではようやく入学しましたが、そこに至るまでが長いです。波乱万丈で、決して飽きはしなくて面白いのですが。
最初からweb版と書籍版ではストーリーやキャラクターに違いが出ると明記されています。
そういった点では1巻はまだ序章といった感じで途中までは大きな差異は目立たなかったですが、ニコルとの接点(母同士が友人に設定変更)で早まったことや、彼女の性格が若干違うようです。
そういう意味ではweb版読者であっても、書籍版の今後が楽しみですね。
アイザックの今後にニコルやパメラがweb版以上に絡んでくるのではないかという期待があります。
特別編が三話追加されていたのも良かったですね。
第二夫人のメリンダが息子を後継ぎにしようとしている背景に自身の過去が関係していることががわかります。
そしてニコル視点。
アイザック以外に妹が転生しているのではないかと予想されていましたが、それがニコルであることはほぼ決定じゃないでしょうか。
そのことが互いにいつわかるのかも気になりますねぇ。

*1:妹がプレイしていたので内容はある程度知っていた