川内優輝と常識の差

2月14日の日経新聞スポーツ面に、記者による「クールダウン」というコラムが掲載されている。
タイトルは
「諦めの悪さ、共感も呼ぶ」
何の記事かと言えば、マラソンの五輪代表選考に関しての記事である。
内容は、過去の五輪選考と比較して、選手が再挑戦することが目立つことに注目している。
そのきっかけは埼玉の公務員、川内選手で釣られるかのように女子の尾崎選手も名古屋への出場も決めたと。
記者はこの流れに基本否定的なスタンスである。

以下引用

仮に好走しても五輪本番に向けた調整期間が短くなるし、追試の結果だけを見てもらえるわけでもない。狙った試合で結果を出せないようなら所詮本番もおぼつかない。

川内の我が道を行くスタイルや尾崎らの諦めの悪さは共感を呼ぶ部分もある。引き際の美学とは対照的だが、とことん戦い抜こうとする姿が突破口を開くと感じさせるのだ。

この記者の記事は日本人は狙ったレースを絞り、そこに照準を合わせることを前提に書かれているといってもいいだろう。


さて一方で当の本人、川内選手は限られた練習環境におかれた自分にとって、ハーフマラソンやマラソンの連続出場は最高の舞台で練習も行えて一石二鳥だ、というようなコメントを多く残している。



さらに、ロンドン五輪男子マラソン優勝の最有力候補、パトリック・マカウ選手のナンバーの記事を読んでみると、

09年の初マラソン以来、毎年2レースずつフルマラソンを走ってきた

さらに近年の優勝歴だけでも見てみると (wikiより)

ベルリンハーフマラソン - 2007, 2008
ラアス・アル=ハイマハーフマラソン - 2008, 2009
レディングハーフマラソン - 2008
CPCデン・ハーグハーフマラソン - 2008, 2010
ロッテルダムハーフマラソン - 2008
ロッテルダムラソン - 2010
ベルリンマラソン - 2010, 2011


そう、随分とレースを走っているのだ。
そして随分と優勝もしている(笑)
もちろん彼の場合は、日本の実業団所属選手と違い、家族のため、そして貧困脱出のためにロードレースに出場して賞金を稼がないとならないモチベーションと事情はある。

「トラックで結果を出すには多くの練習が必要で、時間が掛かります。私には、その時間を費やす余裕はありませんでした。」

だからといって、ハーフなどを含めたレースに年に1本とかだけ走っているわけではないのだ。
多くのレースに出場していることが読み取れる。







さらに、皮肉にも同じ日経新聞の1月17日のスポーツ面での陸上男子100mの元記録保持者、朝原宣治
選手のコラムを紹介したい。



タイトルは、
「世界での転戦 糧に」

引用したい

世界は広い。
ドイツ留学は、これまでの自分とは異なる考え方や価値観、生活、文化があること、そしてそれらを受け入れることの大切さを教えてくれた。
自分の世界しか知らないで自分のやり方に固執すること、他の世界を知った上で自分のスタイルを貫くことの違いにも気付かされた。
試合の間隔が長い日本では長期的な練習をして試合に臨んでいたが、大会数の多い欧州では海外のトップ選手と同じように転戦した。
試合に出場しながら、ターゲットとする大会に向けて調整すると、ベストタイムが上がり、年間を通して記録が安定した。


ひょっとすると、種目は違えど、川内選手が行っていることは、これと全く同じではないだろうか?

この後朝原氏はこうも綴る

主要な大会(欧州グランプリ)にも参戦でき、世界ランキングも上昇。これが大きな自信となり、その後4回連続の五輪出場につながったのだと思っている。


川内選手はマカウや朝原氏が行ったように、海外では当たり前のことを日本で実践しているだけなのではないだろうか?
もちろん無意識のうちかもしれないし、市民ランナーである以上これしか選択肢はないのかもしれない。
しかし手法が同じであるかもしれないことに、とてもアイロニーを感じるのは私だけだろうか?


こうみていくと、日本における習慣、常識が海外ではかなり違う可能性が充分にありえる。
日本のマスコミ(この場合日経のクールダウンを書いた記者)も国内の常識に囚われて、再挑戦をさも調整失敗かのような文面で書いてしまっているが、実はこれこそが朝原氏のいう、
「他の世界を知った上で自分のスタイルを貫くことの違い」に気付いていないことを露呈してしまっている可能性も高い。
それでは世間の常識のレベルも残念ながら下げてしまっていることになる。
それが新聞記者としてあるべき姿だろうか?
事実を調べ、伝え、その上で人々に希望と高みを目指す記事が書ければベストなのだろうが、残念ながら世界では当たり前の、しかし日本では異端な存在を引きずり降ろしてしまっている可能性が高い。


結果的に今日の東京マラソンにおいて川内選手は好成績を残すことはできなかった。
本人も「選ばれると思っていない」とコメントを残している。
しかし、彼の挑戦は失敗と決めつけてはいけないのではないだろうか?
ひょっとすると市民ランナーが世界の常識を日本の陸上界に突きつけたのかもしれない。
ひょっとするとこれを機に川内選手は、マカウのようにロードレースを転戦することでプロランナーになれるかもしれない。
ちなみに東京マラソンの優勝賞金は800万だとか。
2位の藤原氏は400万勝ち取った。
もやは日本はマラソン王国とは言えないだろう。
お家芸や自国特有の慣習の名残に酔うのもいいが、この市民ランナーの存在が発信しているメッセージにマスコミも陸上界も表層の部分だけでなく、注意深く耳を傾けるべきかもしれない。
何故なら、今日東京マラソンで2位を飾った藤原選手も、日本のマラソン界の常識と慣習を破った男だから。
そろそろ変革の時なのだろう。
マスコミもたまには変化を好意的に受け入れる必要もあるかもしれない。


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