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2012-07-15 書評:争うは本意ならねど -日本におけるドーピングとスポーツの問

書評:争うは本意ならねど -日本におけるドーピングとスポーツの問題-

| 00:38 | 書評:争うは本意ならねど -日本におけるドーピングとスポーツの問題-を含むブックマーク 書評:争うは本意ならねど -日本におけるドーピングとスポーツの問題-のブックマークコメント



もう間もなくオリンピックロンドンで開催される。

オリンピックになると最近ではドーピング疑惑から戻ってくる選手もいれば、大会中ドーピングで去る選手もおり、後日メダルを剥奪される選手も登場することはここ数十年毎度のことだ。


日本で知られたケースとしては、ベン・ジョンソンマリオン・ジョーンズの短距離選手、もしくは優勝した選手のメダル剥奪による金メダル獲得の室伏広治のケースだろうか。


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多くの事例が海外選手のためか、日本人のドーピングに関する知識や関心はそれほど高くないと言えるだろう。

それだけ現場の指導者や選手達が真面目に取り組んでいる証拠ともいえるだろう。

しかしだからだろうか、いざドーピングの実例が飛び出すと当事者もマスコミも協会もみんなアタフタしてしまう。

そしてその結果、きちんと問題が検証され、またその後対応もされない。

この本の内容はその結果犠牲になってしまった一人の男の名誉挽回の軌跡とそれに協力して立ち上がったJリーグのチームドクターたち、無知なマスコミサッカー協会/Jリーグ幹部、そして不慣れなフロント対応の実話である。

詳しくこのことを知らなかった私は自分を恥じた。

ニュースとして知っていたものの、その事実の深さと大切さに気付かなかったことが情けない。


始めに、この本は私が最近で最もインパクト、いや引き込まれた一冊だ。

お金や保身などに惑わされずに名誉と正義のために巨大な組織に立ち向かう男のストーリーに何度読みながら「スゲェー本だ」と思ったことだろう。

スポーツの本を読んでいるというよりかは、山崎豊子の小説を読んでいるような錯覚、テレビドラマならハゲタカを見ているような緊張感と重みに吸い込まれる一冊だった。


著者は「オシムの言葉」で有名な木村元彦氏。

オシムの言葉―フィールドの向こうに人生が見える

オシムの言葉―フィールドの向こうに人生が見える


ただどちらかといえば、今回の作品は彼のユーゴスラビアサッカー事情を描いた作品群にスタイルは似ている。


悪者見参―ユーゴスラビアサッカー戦記 (集英社文庫)

悪者見参―ユーゴスラビアサッカー戦記 (集英社文庫)

誇り―ドラガン・ストイコビッチの軌跡 (集英社文庫)

誇り―ドラガン・ストイコビッチの軌跡 (集英社文庫)



さて、主人公は誰といったらいいのだろう。。。

当然当時川崎フロンターレに所属していた元日本代表FW我那覇選手はそのうち一人である。

しかしながら、彼のために、そして将来の日本のサッカー選手達のために立ち上がったJリーグのチームドクター、特に浦和レッズの仁賀チームドクターは、この話の主役といっても過言でないかもしれない。


内容は、激しいポジション争いを川崎フロンターレ内で繰り広げている中、我那覇選手が激しい体調不良でチームドクターから点滴治療を受ける。

翌日サンケイスポーツに「我那覇に秘密兵器、にんにく注射でパワー全開」の記事が掲載される。

にんにく注射はあきらなかな違反になるのだが、実態は全く違った誤報であり、サンケイスポーツの記者は直接事実を確認した訳でもなかった上に、フロンターレ番記者がその日取材に来れず、ピンチヒッターの担当記者が書いた内容だった。

この報道にあせったJリーグは現状をきちんと検証せずに、我那覇に違反通告を与える。


しかし、事態を重く見たJリーグの全チームのドクターたちが立ち上がる。

この違反通告は、Jリーグルールに則っても不備があり、さらにFIFAWADA(世界アンチドーピング機構)の定めた定義に則っても不備があったのだ。

現場の医師たちはこの違反通告は他人事ではなく、現場を預かるものとしても受け入れられない通達だった。

ここからドクター達が立ち上がるのだが、当の本人我那覇選手はまだ事態を把握しきれていない。

しかし、汚名返上を晴らすには時間が刻一刻となくなっていた。


多くの人の勇気ある行動と志により、やがて我那覇選手も事実を知るべく、そして息子に自分はドーピングをしていないと胸を張って言えるべく立ち上がる。

たった一人で何千万円もの費用がかかるCAS裁定Jリーグの判断を申し立てするのだ。

つまり自分の勤め先の協会を相手に戦いを挑んだのだ。

その裏側で元Jリーガー新人国会議員や、沖縄サッカー関係者、川崎フロンターレのサポーター、スタッフ、Jリーグ選手会そして先日引退した当時の選手会長藤田俊哉など多くの人のバックアップがあった。

争うは本意ならねど、最大の敵はサッカー協会会長、川淵三郎に全面バックアップされた、JFAスポーツ医学委員長Jリーグドーピングコントロール委員長の青木氏。

ドーピングの世界情勢に疎いこの人物は、弁論上手だった。

そして役職を兼務することで正常な統治体制が欠如していたサッカー協会の暗部にこの事件は発生してしまった。


ここから多くの人間を巻き込み、そして多くの人間の協力を得ながら我那覇選手は信念と事実を知る戦いに挑む。

そして一選手とチームドクターが巨大勢力に挑んだ戦いは、数多くのドラマと奇跡が生まれ、最終的には勝利で終わる。


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しかし6試合も出場停止処分をくらってしまった我那覇選手はその後代表から遠ざかり、川崎フロンターレがリーグに支払った制裁金1000万円も返却はされていない。

本の最後は当時のJリーグチェアマン、鬼武氏へのインタビューと我那覇選手のインタビューで締め括られている。

青木氏はインタビューを拒否し、現在は横浜市スポーツ医科学センター長を務めているそうだ。

そして我那覇選手は現在出身の沖縄FC琉球に所属し、Jリーグ入りを目指している。

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アスリートの勝利への渇望は信じられないほど強いものがある。

ましてやマイナースポーツなら、メダルを取る取らないは生活に関わる重大な深刻な問題だ。

メジャーなスポーツでも生活が掛かっていることには変わりはなく、激しいポジション争いが人を誤った方向へ走らせてしまうかもしれない。

日本ではスポーツが体育と結びついて発展した歴史があり、ことドーピングに関してはその影響が良い方向へと出ているといえるだろう。

しかしその一方で、我々はこの問題に対する認識と理解が著しく低く、重大性もわかっていないと言えるだろう。

本来ならば部活動できちんと教育されるべき問題であろう。

我那覇選手の問題ほど取り上げられなかったが、ラグビー日本代表選手があごひげをかっこ良くしようとして増毛剤を使用したら、ドーピング違反で引っかかり、2年間の出場停止処分を現在果たしている。

我々スポーツファンは、若き司令塔を一人あまりの認識不足のために失ったに等しい。

今最も必要としているのは啓蒙活動かもしれない。

あまりにも物議を醸すアイディアかもしれないが、華麗なる一族ハゲタカ白い巨塔をプロデュースしたスタッフに、この我那覇医師達の現実を描いて欲しい。

我々スポーツファンもドーピングに対する正しい認識がないと、我々が最も楽しみにしている選手の活躍が見られないのだ。

協会や関係者共々二度とこの過ちを犯して欲しくないものだ。

いずれにせよ、一度は汚名を受けてしまった我那覇選手の沖縄での活躍を願うと共に、多くの人にこの本を読んでもらいたい。


【特別対談前編】完全なる冤罪、我那覇和樹のドーピング事件とは何だったのか?


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