書評:フットボールサミット 第5回 拝啓、浦和レッズ様 -ビッグクラブの迷走と再生-

フットボールサミット第5回 拝啓、浦和レッズ様 そのレッズ愛、本物ですか?

フットボールサミット第5回 拝啓、浦和レッズ様 そのレッズ愛、本物ですか?


浦和レッズの観客動員数が1000万人を突破した。
もちろん Jリーグ最速。
最盛期には平均4万7000人もの数字を叩き出し、少ないシーズンでも3万後半の動員数を誇るこの日本最大のビッグクラブは誕生から今まで常にドラマをはらんだ人生を歩んでいる。
だからこそ愛着が生まれ、だからこそ熱いサポーターがいるのかもしれない。
この本はそんなやんちゃなクラブの歴史と現在を見つめる一冊だ。



まず知られざる誕生秘話だが、ほんの少し歴史の歯車が違う刻みをしたならば、レッズは浦和に誕生しなかったかもしれない。
元々Jリーグができる時に、和光市に工場を持つHONDAが浦和にクラブを持つ予定で話が進んでいた。
既存のHONDAのサッカー部を浦和に移し、そのままJリーグクラブへと移行するはずが、社長の交代により急遽針が逆に振れ、この話は飛んでしまった。
次に、元祖ベルマーレスポンサーであったフジタも手をあげてきたが、間一髪川淵氏の仲介もあり、本拠地を探していた三菱と浦和が出会ったのだ。
最初の話し合いは西が丘サッカー場近くのすかいらーくだったそうだ...
今も存在しているようなので、レッズファンはそこにお守りでも置くといいかもしれない(笑)


さてその三菱だが、元々サッカー部は三菱重工のものであり、その後三菱はJリーグ参入に向けてサッカー部を三菱自動車に移管し、現在のレッズの原型が出来上がってくる。
そんな三菱だが、ホームタウン制度を打ち出すJリーグのいくつかの規定に苦しんでいた経緯がある。
1万5000人以上を有する競技場の確保に苦労していたのだ。
そのため府中や江戸川陸上競技場などを検討していたが、Jリーグが地域密着を打ち出すために東京にクラブを置くことに対して後ろ向きだったこともあり、浦和とのセレンディピティが起きたのだ。


さてJリーグ開始早々から万年最下位のスタートを切るこのクラブ。
それでも地元のサッカー熱とクラブのマーケティングの妙などもあり、観客は減ることはなかった。
J2が出来た99年には降格するものの1年で返り咲き、その後クラブの絶頂期への足固めが始まる。
このクラブの歴史を紐解くと、単純な比例作用がみつかる。
フロントがしっかりしていると勝つのだ。
まずはオフトを呼び、クラブとしての土台を築くと、共にヨーロッパのスポーツクラブを肌で知る人物2人が社長をこなし、黄金期を全うする。その後Jリーグの会長を務めた犬飼氏、そしてサッカーの知見がある藤口氏だ。


犬飼氏が社長時代にオープンしたサッカー場、キャンプ場、テニスコートなどが揃った総合スポーツランド
レッズランド


途中さいたまスタジアムが完成し6万人規模の集客が可能になったことも後押しし、クラブは拡大路線を敷きつつも、着実に成果も残し、ACL優勝、そしてクラブワールドカップでも3位という成績を残す。
当時のクラブの規模は70億円台というかなりの規模のものだった。
しかし藤口氏が退任し、その後継者の橋本氏が就任すると元のゴタゴタに戻ってしまった。
ここからは皆さんのご存知の通り、フィンケを呼んだものの主力とのお家騒動が勃発、監督経験のないペトロビッチを起用するも全く振るわず、岡田、西野というトップ日本人監督に逃げられた結果、サンフレッチェで結果を残していたペトロビッチを招聘し、やっと今年は安定した戦いをしている。


この本は、そんな浦和の歴史を数々のスター選手のインタビューを交えながら詳細に追っている。
登場人物は、
ミスターレッズこと福田正博
ポンテ
ワシントン
細貝萌
岡野雅行
ら選手と前述の両元社長


それぞれが辿りつく結論は、経営がしっかりさえしていれば勝てる。
おもしろいぐらいにそこに尽きる。
しかし経営規模もダントツで、集客もダントツなチームがお家騒動ばかり繰り返していてはおぼつかない。
昔NYヤンキースもお家騒動が日常茶飯事に起きた時代があり、ブロンクスの動物園とマスコミに呼ばれた。
当時はスタインブレナーという名物オーナーが監督やGMを取っ替え引っ替えしていた。
スタインブレナーのご乱心について詳しく知りたい方はポッドキャストへどうぞ
浦和も動物園かのようなまとまりのなさを露呈している場合ではない。
なぜなら、このクラブには大きな責任があるからだ。


中庸で特色のないクラブが増えているJリーグ
成長戦略が描けないJリーグ
アジアで勝てなくなってきているJリーグ
人材が流出しているJリーグ
今このリーグが必要としているのは、圧倒的パワーを誇るビッグクラブなのではないだろうか?
NYヤンキースも80年代こそは動物園だったが、お家騒動が減るとプレイオフ常連のチャンピオンチームへと変貌した。
浦和にも同じ道程を歩んでもらわないと困る。
なぜなら、このままだとJリーグが盛り上がらないのだ。
ビッグバジェットのビッグクラブがトップダウンで無理矢理にでも引っ張るぐらいのパワーが欲しい。
そのためには憎たらしいほど強くなってもらわなければならない。
Jリーグの予算規模だと小さいチームで10億円前後になる。
レッズはざっと5倍。


フィンケを招聘した理由はわかる。
引き締めようとしたこと及び若手にシフトしようとした。
しかしこれはビッグクラブの戦略ではない。
ヤンキースを見てみるがいい。
大金はたいて選手を獲得してもその分儲かることに関する自信が揺らぎないから動揺はない。
さすがに優勝やプレイオフから遠さがると問題だが、その心配も今のところあまりない。
今こそ浦和レッズを通して夢を見ることがJリーグは必要としている。
日本のビッグクラブが世界に堂々と通じる姿を見せる必要がある。
時間はなくなってきている。
中国のクラブは大金を投入して施設、指導者、そして選手を獲得している。
この流れに押し流されるがままACLで惨敗をしている場合ではない。
内向的になりつつある今のJリーグに風穴を開けられるのは浦和だけかもしれない。
目指すはNYヤンキース
日本サッカーという大局観に立って、ペトロビッチの采配と浦和レッズを応援したい。
そのためには、何よりも世界に通ずるサッカー経営が必要だ。
NYヤンキースもそこから変身したのだから。


ポッドキャストダルビッシュと名物オーナー

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