(149)初秋

初秋 (ハヤカワ・ノヴェルズ)

初秋 (ハヤカワ・ノヴェルズ)

離婚した夫が連れ去った息子を取り戻してほしい。―スペンサーにとっては簡単な仕事だった。が、問題の少年、ポールは彼の心にわだかまりを残した。対立する両親の間で駆け引きの材料に使われ、固く心を閉ざして何事にも関心を示さない少年。スペンサーは決心する。ポールを自立させるためには、一からすべてを学ばせるしかない。スペンサー流のトレーニングが始まる。―人生の生き方を何も知らぬ少年と、彼を見守るスペンサーの交流を描き、ハードボイルドの心を新たな局面で感動的に謳い上げた傑作。

ミステリガイドで見かけてあまり解説文読まないで借りてみて裏表紙見たらハードボイルド物であることにその時に初めて気付いた一冊。ハードボイルド物はあまりいいイメージなかったので正直期待してなかったのだけど結果からいうと読んで大正解。非常に面白くて一気に読んでしまった。ストーリー自体はそれほど捻りはなく探偵であるスペンサーのキャラクターも典型的なハードボイルドなキャラクターなんだけど、会話のテンポや言い回しが非常に上手い。ストーリーに文章そのものが勝った好例。例えれば村上春樹がハードボイルドを書くとこうなりますみたいな。村上作品が好きな人は多分大丈夫。むしろこっちのほうがストーリー分かりやすい...。ハードボイルドへの抵抗が無くなった作品になった。かと思ったけど今読んでるチャンドラーの「さよなら、愛しい人」の頁をめくるペースがそれほど上がらないのでこの作品だけ例外なのか。とりあえず他のスペンサーシリーズも数作読んでみようかと思ってはいる。ちなみに狭義でのミステリ要素はほぼゼロ。ていうかここまで読んで気付いたけどハードボイルド物といえば「テロリストのパラソル」読んでたな。あれは面白かったので別にハードボイルド物苦手にする理由も無い気がしてきた。
【採点】
★★★★★★★☆☆☆(7)

(148)11枚のとらんぷ

奇術ショウの仕掛けから出てくるはずの女性が姿を消し、マンションの自室で撲殺死体となって発見される。しかも死体の周囲には、奇術小説集『11枚のとらんぷ』で使われている小道具が、壊されて散乱していた。この本の著者鹿川は、自著を手掛かりにして真相を追うが…。奇術師としても高名な著者が、華麗なる手捌きのトリックで観客=読者を魅了する泡坂ミステリの長編第1弾。

ミステリと奇術の親和性の高さに本作を読んで初めて知った。そして読んでる途中又は読後にマジックを覚えたくなる不思議なミステリー作品。実際にネットでコインマジックをいくつか調べて実践してみたのだけど動画で見ると全然分からなくても実際やってみるとシンプル且つ意外に強引なものだったりすることが多く本作における作中作である「11枚のとらんぷ」の各トリックというか奇術のタネ明かしされたときも同じような印象を受けた。作中作ってあまり面白くないことが多いのだけど本作はトリックが分かりやすくテンポも良くて面白い。そしてその作中作が見事に作中のメインの事件と交錯する。見立て殺人にする根拠が若干弱い気もするけどそれほど気にはならないか。ただ本作を読むのは実は2回目だったりする。1回目は「11枚のとらんぷ」の途中で止めてしまった。殺人が起きるまでが少し長かったせいもあると思うが個人的にそれほど奇術のくだりに興味が持てなかったのもあると思う。マルドゥックスクランブルのカジノシーンを読んだときも思ったけどそれほど専門的な知識の説明とかに強い関心を寄せれない傾向がある。自分が興味を持ってない分野は特に。今回読んだときは一気に読めたのだけど読み返しの点で個人的には減点。
【採点】
★★★★★★☆☆☆☆(6)

(147)九マイルは遠すぎる

九マイルは遠すぎる (ハヤカワ・ミステリ文庫 19-2)

九マイルは遠すぎる (ハヤカワ・ミステリ文庫 19-2)

wikiamazonで作品紹介が見つからなかった...。典型的な安楽椅子探偵物。というより安楽椅子探偵物の代表的な作品(だと思う)。序文でも作者本人が書いていたように推理そのものには関係ない人物描写や心理描写を出来るだけ省いており、純粋に推理をパズル的に楽しめる内容になっている。ある程度ご都合主義的な展開もあるので実践的な作品が好きな人にとっては気になる点は多いかもしれないけど、個人的には結構好き。久々にホームズ作品を読んだような気分。一つ一つがページ数が40ページ未満なので非常に読みやすい。そして結末も説明し過ぎなくて潔い。パンクロックみたい。ただタイトル作が一番シンプルで面白かったけどそれが最初なので作品の並び方としてはどうなんだろとか思ったりはしたが。
【採点】
★★★★★★★☆☆☆(7)

(146)女には向かない職業

探偵稼業は女には向かない。ましてや、22歳の世間知らずの娘には―誰もが言ったけれど、コーデリアの決意はかたかった。自殺した共同経営者の不幸だった魂のために、一人で探偵事務所を続けるのだ。最初の依頼は、突然大学を中退しみずから命を断った青年の自殺の理由を調べてほしいというものだった。コーデリアはさっそく調査にかかったが、やがて自殺の状況に不審な事実が浮かび上がってきた…可憐な女探偵コーデリア・グレイ登場。イギリス女流本格派の第一人者が、ケンブリッジ郊外の田舎町を舞台に新米探偵のひたむきな活躍を描く。

洋ミスの各ランキングでは軒並み上位にある作品だったのでかなり期待して読んだのだけどそこそこの作品というのが感想。読んで損はしない良作といったところか。内容以上にタイトルが秀逸。本作品の評価としては女性探偵の活躍というエポックメイキング要素も強いんだろうか。そういう意味では「ハンニバル」や「検屍官」シリーズを読める現在としてはそれが評価のポイントにはならないよなと思ったり(正確には探偵じゃないけど)。本作品の真の見せ場はコーデリアとの活躍ではなくダルグリッシュとの対決なのだろうけど横になりながら半分寝ている状態で読んでいたせいかあまり感じ入るとこがなかった。個人的には感情の爆発や吐露するシーンは好きなので本来ならハマりそうなシチュエーションなのだけどコンディションの問題かもしれない。もう一度読み返せば感想は変わるかもしれない。

【採点】
★★★★★★☆☆☆☆(6)

(145)春にして君を離れ

春にして君を離れ (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

春にして君を離れ (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

優しい夫、よき子供に恵まれ、女は理想の家庭を築き上げたことに満ち足りていた。が、娘の病気見舞いを終えてバグダッドからイギリスへ帰る途中で出会った友人との会話から、それまでの親子関係、夫婦の愛情に疑問を抱きはじめる…女の愛の迷いを冷たく見据え、繊細かつ流麗に描いたロマンチック・サスペンス。

「ただいま、ロドニー、やっと帰ってきましたのよ」

しかし、ああ、どうか、きみがそれに気づかずにすむように。

素晴らしい。アガサクリスティ凄すぎる。栗本薫の解説も含めて最高だと思う。途中でジョーンが反省し始めたところでは生温い結末を少し危惧したのだけど全くそんなこと無く最後の最後まで容赦無い。「怖ろしい」「哀しい」という感想も非常に納得出来るのだけどそれ以上に作品としての「完成度」「美しさ」がそれらを上回る。とはいえ読み手のバックグラウンド次第で共感の有無が変動するとは思うのでかなりパーソナルな作品かもしれないが。ミステリ作品ではないにも関わらず個人的にはクリスティ作品の中で現時点で一番好きな作品になった。因みに本作品は当初メアリ・ウェストマコット名義で発売されたらしいが「クリスティ名義で本を出した場合ミステリと勘違いして買った読者が失望するのでは配慮した」という説明が「ノン・シリーズ」の紹介でされていた。最近ミステリから純文学に徐々に転向している作家もちらほら見るからそのエピソードが「ミステリの女王」としての自覚と気高さを余計感じる。

【採点】
★★★★★★★★★☆(9)

(144)キドリントンから消えた娘

キドリントンから消えた娘 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

キドリントンから消えた娘 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

2年前に失踪して以来、行方の知れなかった女子高生バレリーから、両親に手紙が届いた。元気だから心配しないで、とだけ書かれた素っ気ないものだった。生きているのなら、なぜ今まで連絡してこなかったのか。失踪の原因はなんだったのか。そして、今はどこでどうしているのか。だが、捜査を引き継いだモース主任警部は、ある直感を抱いていた。「バレリーは死んでいる」…幾重にも張りめぐらされた論理の罠をかいくぐり、試行錯誤のすえにモースが到達した結論とは?アクロバティックな推理が未曾有の興奮を巻き起こす現代本格の最高峰。

モース警部シリーズ、というよりコリン・デクスター初読。本作の感想だけど2転3転どころか10転ぐらいしてるんじゃないのか。目まぐるしいまでの推理とその否定、トライアル&エラー。特に後半は凄い。また探偵役であるモースのキャラクターもユニークで秀逸。その推理手法は妄想警部といっていいんじゃないだろうか。粗野であるようで優しさもあり、女好きであるようで少し奥手という人間臭いキャラクター。とりあえず2枚目の手紙の真相に関しては実際に「オイ!」と声に出してしまった。随所で見られる言い回しもハードボイルドとコメディの中間な感じで結構好き。「ペンは剣より強し」のもじりは単純で下らないけど少し笑った。最後の最後がそれほど綺麗に落ちなかった(ように見える)のが若干残念。でも面白かったので余裕があれば次は「森を抜ける道」を読んでみようかと思ってます。
【採点】
★★★★★★☆☆☆☆(6)

(143)Yの悲劇

Yの悲劇 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

Yの悲劇 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

家族皆が変人奇人で有名なハッター家で起こった毒殺未遂事件。しかし、それはその後の殺人劇の前奏曲に過ぎなかった。元舞台俳優の名探偵ドルリー・レーンが、この謎に挑む。
http://ja.wikipedia.org/wiki/Y%E3%81%AE%E6%82%B2%E5%8A%87

名作の看板に偽り無しの一作。本格物としては割りとオーソドックスな仕掛けかもしれないが結末がとにかく秀逸。正直解答編まではそれほど面白いとは思わなかった。終盤までレーンの煮え切らない推理が少し苛々させるものすらある。前作に該当する「Xの悲劇」を読んでないためレーンへの愛着がないせいもあると思うけど段々糸がほどけていくような気持ちよさはそれほど無いので読んでて少し不安があった。ただそれも解答編を読めばすべて納得出来る。犯人はたしかに意外なのだけどそれ以上にその先の結末が本作品の肝といえる。ネタバレ的な感想としては人を殺す人間を"犯人"とするなら本作の完全な犯人当てはほぼ不可能だろう。その結末はかなり好悪が分かれのかもしれないけど自分は大好きです。「ハサミ男」を読んだときにも感じた黒い美しさ。ただ完全にネタバレな突っ込みをするならば5感のうち3感が無い人間は残りの感覚が鋭敏になるという前置きがあったのに夏場に数日経っている牛乳を混入されて全く気付かないのはどうかしてるぜ。まぁ別にいいけど(笑)
【採点】

★★★★★★★★☆☆(8)