G★RDIAS このページをアンテナに追加 RSSフィード

2007-09-02

[][][]精神世界のゆくえ

精神世界のゆくえ―宗教・近代・霊性

精神世界のゆくえ―宗教・近代・霊性

精神世界のゆくえ―現代世界と新霊性運動

精神世界のゆくえ―現代世界と新霊性運動

 宗教学者島薗進さんの『精神世界のゆくえ』新版(2007年7月、秋山書店刊)を読了した。私は旧版(1996年、東京堂出版刊)を図書館で借り、読み進める途中で新版を購入したが、新版には訂正・加筆がなされ、巻末に索引が追加されている。いまから読む/買うなら、新版を勧めます。

 本書における島薗さんの基本的な主張は、

「新霊性運動」が1970年頃からグローバルに展開した

 というものである。


 現代日本では、既成の宗教(キリスト教・仏教などの「歴史宗教」、近代日本で成立した「新宗教」)にコミットすることなく、「スピリチュアル」な事柄に関心を寄せる人々が増えている。島薗さんによれば、こうした最近の現象は1970年代からはじまった「新霊性運動」の流れに位置づけることができるという(参照、新版のまえがき)。

 「新霊性運動」とは何か。島薗さんの定義を引用する。

 以上のように、これらのグローバルな運動群の全体を流れる基調の一つに、「宗教」に対するものとしての新しい「霊性」という観念があるという理由から、筆者は一九九一年以来、これらを「新霊性運動」(new spirituality movements)とよんできた。その後、調査研究を続け、また国内国外の学会で報告を重ねる過程で、この用語が妥当であるという印象は強まっている。

 ここで手みじかに新霊性運動の指すものを限定しておこう。それは個々人の「自己受容」や「霊性の覚醒」を目指すとともに、それが伝統的な文明やそれを支える宗教、あるいは近代科学と西洋文明を越える、新しい人類の意識段階を形成し、霊性を尊ぶ新しい人類の文明に貢献すると考える運動群である。事実、伝統的な宗教とは異なり、固定的な教義や教団組織や権威的な指導体系、あるいは「救い」の観念といったものをもたず、個々人の自発的な探究や実践に任せる傾向が強い。また、信仰と科学を対立的にとらえることなく、科学的な認識と霊性の深化とが一致できると考え、比較的、学歴にめぐまれた層に支持者が多い。近代社会のなかで、これと似た考え方や実践の形態はさまざまに現れたが、新しい意識や文明への移行が近いという多くの人々の期待を集め、大衆的な規模をもつ運動群として展開したのは、一九七〇年頃からである。この大きなうねりが生じてから、そのうねりに加わろうとしている運動群を新霊性運動とよび、それまでに展開してきた近代のさまざまな霊性運動は部分的にそこに吸収されたものと見る。(p.50-1)

 四部構成の本書は、内容から判断すると前半(第一部、第二部)と後半(第三部、第四部)に分けることができる。

 前半は「新霊性運動」にカテゴライズされる諸現象(アメリカの「ニューエイジ運動」、日本の「精神世界」など)の紹介である。私は「ニューエイジ」「精神世界」の関連本はまったく読んだことがなかったので、大変に興味深い内容であった。

 後半は「新霊性運動」が生じた社会背景の分析である。なぜ従来の諸学問(特に、近代合理主義の方法論にもとづく自然科学)や宗教が新しい世代の関心を惹きつけなくなったのか。なぜ「新霊性運動」と名づけうるような新しい知のパラダイムに魅了される人々が増えてきたのか。こうした疑問について、島薗さんは宗教学社会学心理学の諸研究を参照しながら、考察を行う。後半部が本書の読みどころである。

 本書で「新霊性運動」の事例として言及されている著作、事件を年表にした。

1975   セオドア・ローザク『意識の進化と神秘主義

1977   平河出版社が『ザ・メディテーション』を創刊。「精神世界」の語を通用させる(この出版社は、阿含宗の関連企業)。

       ケン・ウィルバー『意識のスペクトル』(邦訳、1985年)

1978・6 新宿・紀伊國屋書店がブックフェア「インドネパール精神世界の本」を開催。

       この年以降、「精神世界」のコーナーが、書店に設置されるようになる。

1979   『ザ・メディテーション』第六号が「精神世界の本・ベスト800」を特集。

       雑誌『たま』再刊。

       雑誌『アーガマ』創刊。

       フリッチョフ・カプラ『タオ自然学』の邦訳

1980   『別冊宝島16 精神世界マップ』、JICC 出版局

       マリリン・ファーガソン『アクエリアン革命』(邦訳、1981年)

1983   シャーリー・マクレーン『アウト・オン・ア・リム』

1983   梅原猛『日本の深層』

1984   岩田慶治アニミズム時代』

1986   湯浅泰雄『気・修行・身体』

1990   元山茂樹・宝島編集部『ニュー・エイジの600冊』

1991   宝島編集部『精神療法と瞑想

1991   栗本慎一郎『人類新世紀終局の選択 「精神世界」は科学である』

1991   鎌田東二津村喬『天河曼荼羅 超宗教への水路』

1991・3 NHKスペシャル「立花隆リポート臨死体験 人は死ぬとき何を見るのか」

1991・3 オウム真理教がダンス・オペレッタ『死と転生』を上演

1992   サングラハ心理学研究所の設立

1993   ジェームズ・レッドフィールド『聖なる予言』(邦訳、1994)

1993   岡野守也「問題提起『霊性と宗教の統合に向けて』、所収・鎌田東二他『宗教・霊性・意識の未来』

1994〜  ブッククラブ回精神世界総カタログ』の刊行

1995   オウム事件

1995   『FILI別冊保存版 ニューエイジ ワークショップカタログ』

1996   森岡正博『宗教なき時代を生きるために』

2002   「スピリチュアル・コンヴェンション」の開始。

2002   特番「天国からの手紙」の開始。

2005・4  「オーラの泉」(テレビ朝日)放映開始。

 年表に「オウム事件」を挙げたことに、奇異な印象を受ける人がいるかも知れない。島薗さんは「新霊性運動」の一角をなす「精神世界」の運動とオウムとの間には密接な関連があるという。オウム真理教の入信者には、もともと「精神世界」への強い興味を抱いた人が少なくないらしい。

 七人の元信徒に突っ込んだインタビュー調査を行った精神医学者・歴史心理学者、ロバート・リフトンによると、そのいずれもがオウム真理教にふれる前、精神世界にかなりの親しみをもっていたという。筆者は自ら接した元信徒の語りや事件後の報道や当事者の著述・証言からも、彼らが精神世界に近いところにいたという印象を強めている。(p.19)

 スピリチュアルブームを解読する本の刊行が、このところ続いている。本書の面白さは、宗教とは別の形で「スピリチュアルなもの」に関心を深める現代人の心性を、宗教史、精神史、文明史のなかに位置づけようとする視点にある。島薗さんには、本書に関連する著書が何冊かあるので、少しづつ読んでみたい。

 本書の魅力は「あなたにとって、宗教とは何ですか」「あなたは宗教とどんな関わりをもって生きてきたのですか」といった問いかけを読者に迫ってくる点だと思う。私は「ニューエイジ」「精神世界」が流行した80年代の後半、東京で大学生活を送った。しかし、これらの本にはそれほど興味が湧かなかった。反対に、新霊性運動の支持者たちが見捨てた伝統宗教への関心を深めた。学生時代のことを、いろいろ思い出しながら、本書を読み終えた。