不登校を克服したM子さん

 中学1年生のM子さんは、夏休みが終り2学期を迎えた9月、不登校に陥った。M子さんは、小学生のころから中学生になる日を楽しみにしていて、中学生になると学習や部活動に熱心だったので、担任や友だちはM子さんの不登校が信じられなかった。担任や友だちがM子さんの家に会いに行くと素直に応じて、授業や友達のことを話題にしてよく話した。
 しかし、M子さんの気持ちは不登校から脱することができないまま2学期を終えた。3学期になっても変化がなく、1年生を不登校のまま終了した。
 2年生。学校では、担任やM子さんと親しい友だちを同じクラスにして1学期がスタート。M子さんはそのことがわかると大変喜んでいたが不登校が続いた。友だちは交替で授業のノートを取り、M子さんに届けたり、放課後は近くの公園で一緒に遊んだ。
 それでも1学期は登校しないまま夏休みに入ったが、M子さんの心に変化が生じた。友だちがいつものように遊びに行くと「私、2学期から学校へ行けると思う」と自分から言った。丸1年ぶりにM子さんが登校するに十分な予兆であった。
 9月1日、確かにM子さんは友だちと一緒に明るい表情で登校した。1年間、M子さんと交流を続けてきた担任や友だちは感激しながら迎えた。先生方は、何が登校のきっかけになったのかを分析し合ったが、決定的なものは見い出せず、「本人に直接聞いてみよう」ということになった。M子さんは、作文にして書いてきた。
 私は、1年生の1学期が終わり夏休みに入ると、理由は分からないが「学校へ行きたくない」という気持ちになりました。先生や友だちがよく来てくれて、学校の様子などを教えてもらいうれしかったけど、登校しようという気持ちが起こりませんでした。「なぜだろう。なぜだろう」と何日も繰り返して考えました。すると、2年生の夏休みの頃、私は学校は義務で行くものと思っていたのですが、学校は私にとって必要なところなんだ、ということに気づきました。すると、気持ちが楽になり、学校が待ち遠しくなりました。これが登校することになった理由です。(要旨)
 M子さんは二度と不登校になることもなく中学校を卒業し、高校へ進学した。「私にとって学校は義務ではなく、必要なところ」に自ら気付いたM子さんにとって、真に不登校を克服したばかりでなく、惰性に流されることなく人生を切り拓いていく感性を身につけたことは何よりの学校教育であった。
 義務教育、という制度やことばに何の疑義も挟まずに学校生活を送ってきた私自身、遅まきながらM子さんの偉大さを思い知らされた次第である。これはある中学校で実際にあった事例である。