そこで待ってて

転科試験に落ちてしまった。転科試験を受けたのは学校にわたしのことを好きになってくれる大人がいたら素敵だなと思ったからで、いまの学科にはそういう人を見つけられなかったので転科試験でそういう大人に見つけられたいと思っていた。でも落ちちゃって、来年また受けたら、なんて言われたけど、そういう気持ちにはこれっぽちもならなかった。わたしのことを好きになってくれないのならもう興味がなかったから。うぬぼれ屋さん。うぬぼれで食っていけたらなあ。うぬぼれとかなしみだ。わたしが確かに持っているもの。
なんだかわたしはすべてを過信していて、その根拠を持つことが持つ前から怖いと思っている。ほんとうに、ただはっきりと記憶が足りないことだけが分かる。
記憶が足りない。記憶というのは体験を伴うものと伴わないものとがあって、わたしの信じているものの一つに体験を伴わない記憶がある。それは確かにあったことだけど、わたし以外にそれを知る人がいないのでもう夢になってしまったようなイメージの群れ。そういうものにいつまでも浸かっていたいと思っている。甘えかな。甘いとよく言われる。わたしはうぬぼれ屋さんのあまちゃんだ。どうしたらいいのか分からない。色んな種類のものが目の前にきれいに並べられていて、決まったものを手渡されるだけの人も多い中で、幸運にもわたしはその全てからひとつを選べる立場にあるのに欲しいものがひとつもみつからない。どれもいいと思えない。わたしはあまちゃんだから妥協ってなんのことなのかよく分からないし、わたしにはもうこれしかないから、これを妥協してしまったらもうわたしは駄目になる。もうそういうところまではだかになっている。すごくさむい。すごくみじめだ。最初からプライドなんてたいそうなものはなかったけど、今はもうさむくて恥ずかしくて布ならなんでもいいから纏いたいくらいに疲れてしまった。面接を受けてるとき強姦されているような気持ちになった。みじめで恥ずかしくて返却されたポートフォリオのファイルを抱いてわんわん泣きながら帰った。面接の間もずっと泣いていた。自分のなかにすこしだけ残っていた美しい部分を取り出されてまじまじ見られたり粗雑に扱われたり、きたない手でべたべた触られているような気持ちだった。かなしみだ。それがいまでも消えない。くるしい。汚れてしまってくるしい。こうやってひとりで布団に入っているとかなしいことばかり思い出す。かなしいことは、どうしてこんなにかなしいんだろう。かなしいことは、ほんとうにかなしい。ひんやりとしている。暗い。だれも知らない。積み重なっている。
美しい人がいる。その人が死んでしまうことばかり考える。その人が死んでしまって、そのあとのことばかり考える。もう何度も、何度も何度も殺してしまった。死んでしまうことばかり考える。夜になると誰かが、突然死んでしまうことばかり、考えている。
ほんとうは学校をやめたい。学校をやめれば、美しくなれるんじゃないかと、ずっと思っていた。わたしは手遅れになりたい。いままで何もやめてしまうことができなかった。それにずっと負い目を感じている。わたしは手遅れになって、白痴のように美しく何もかも分からなくなって死んでいきたい。