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2012-06-14

安心社会から信頼社会へ  山岸俊男

最近「安心」や「安全」が日本からなくなってきているという意見を耳にしたり、そういう雰囲気を感じている方がいらっしゃると思います。特にテレビなどで大々的に犯罪が報じられると社会が悪くなっていると不安になる方も多いかもしれませんが、実際には少年犯罪は減少傾向PDF)ですし、他の犯罪も平成22年の犯罪統計PDF)を読む限り犯罪が大幅に増えている犯罪は少なく、むしろ減少傾向な犯罪が多いのが実情です。今回はこれを社会学的に分析するのではなく、安心社会から信頼社会へという視点からわれわれが普段感じている安心という部分と、信頼という定義の違いからどのように現代社会を見ていけばいいのかという一端を紹介します。 


本書は1999年に書かれた本ですが、2012年になった今でも本書の内容が色あせていません。しかし内容は社会心理学の実験を多く行なって社会科学的証明を行ない、その上言葉の定義もはっきり決めて論理的に進めているのでちょっと読みにくさを感じることが多々あります。例えば信頼という言葉にもカッコのついた「安心」と「信頼」に分けて定義します。


・・・「安心」とは、相手が自分を搾取する意図をもっていないという期待の中で、相手の自己利益の評価に根差した部分です。・・・これに対して「信頼」は、相手が自分を搾取しようとする意図をもっていないという期待の中で、相手の人格や自分に対して抱いている感情についての評価にもとづく部分に限られます。 p.21


ここの「安心」と「信頼」を理解するために登場するのが社会的不確実性という言葉です。社会的不確実性と聞くと何かの危険に晒されているというイメージだけが浮かびがちですが、広範囲の意味では自分の利益になる可能性も含まれています。この社会的不確実性が存在している状態でも相手を信用できる(例えば相手の人間性)ことが「信頼」になりますが、「安心」の場合ではそもそも社会的不確実性が存在しない状態が基準になっているのです。そして日本では安定した集団や内部の関係を保つために社会的不確実性をなくして「安心」を得ていたのではないかというのが本書の主張です。


そこで著者が考えるのが「信頼の解き放ち理論」です。この理論を説明するのにコミットメント関係の成立からどのようによそ者が信じられなくなっていくかを説明します。社会的不確実性が大きな状態ではこれからの予測がつかないので、社会的不確実性を減らすために特定の他人とコミットメント関係ができます。特に社会的不確実性が大きい状態では特定の相手とのコミットメント関係の形成が促進されますが、しかし特定の相手とのコミットメント関係必ずしも望ましい状態になるとは限りません。なぜならそのコミットメント関係から「機会費用」が発生して、個人にとって損をする(または得をする)機会が発生するからです。しかし「取引費用」はコミットメント関係が形成されて社会的不確実性が低下すればするほど取引費用も減少していきます。


ここで重要なのは特定の相手とのコミットメント関係を続ければ続けるほど、よそ者が信じられなくなっていくという実験結果が紹介されていることです。特定の相手とのコミットメント関係を強く作っている人ほどよそ者が信じれなくなり、コミットメント関係を解消して自分にとってプラスになるかもしれない「機会費用」を得ようとすることができなくなって、コミットメント関係の呪縛に縛られて抜け出せなくなります。

そして現代日本ではコミットメント関係の維持にともなう機会費用が増大しているのではないかと考えます。今までコミットメント関係の中で培われた取引費用の減少が、機会費用の増大よりメリットが少なっているのではないか。そこで「信頼の解き放ち理論」は一般的信頼の役割の大切さを主張します。


さらに社会的知性の一般的信頼感が高い人は、人間性検知能力もすぐれていることも紹介しています。相手が信頼出来るかどうかを見抜く社会的知性を「人間性検知能力」と呼び、集団内での人間関係に敏感に気づく能力を「関係性検知能力」と定義して実験すると、”1,社会的知性の二つの重要な側面であると考えられる人間性検知能力と関係性検知能力とがほぼ独立なかたちで存在していること、2,人間性検知能力の優れた人は一般的信頼の程度が高く、他人との関係に対して楽観的な態度を持っているに対して、関係性検知能力が優れた人は、あまり親しくない人との関係を避けようとする社会的びくびく人間”だというのです(p.187-8)。

この文章を読んで僕は間違いなく関係性検知能力型の典型的な日本人だなと思わされました。そして自分自身の殻に閉じこもらず、他人に対して前向きに付き合っていこうという気にもなりました。みなさんも自分自身がどちらのタイプか考えてみてください。


安心社会から信頼社会へ―日本型システムの行方 (中公新書)

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