介護ダイアリー (終) さよなら
今朝6時半、チェリーは死んだ。
安楽死を選ばず、しかしターミナルケアも効果を発揮しないまま、凄絶な最期の姿をみせて旅立った。
二日前から一睡もできないままチェリーに麻酔注射を何度か打ったが、激痛はチェリーを眠らせない。転げまわり、かすれた叫び声をあげながら痛みを訴えた。今朝になって、わずかに残った麻酔剤に効果があるとも思えず、獣医のIBさんに「最後の処置」をお願いしたいと携帯メールを送った。9時には来れるという返事が、すぐにきた。
コーヒーでもいれようと台所に立つと、チェリーの異様な叫びが聞こえ、急いで部屋にとってかえした。そのとき、これが最期かと直感した。
チェリーはクッションのうえでからだをのけぞらせ、頭をうしろに引き、のどから胸、腹までが一直線になって口を大きく開けひと声うめいた。そして、波がひくように崩れた。
最後のちからをふりしぼって、空にむかってジャンプでもしようとするかのようなその姿に、場違いながらぼくは感動した。病気に冒されたとしても、いのちの限りを一点の行為に集中して最期にのぞんだその姿に畏敬の気持ちさえいだいた。
苦痛から自由になった表情はとてもおだやかだ。顔を両手でつつんでしばらく声をかけていた。
最後まで自力でたたかってくれたことに感謝の気持ちでいっぱいだ。
今朝は6時に、丁稚のダルビッシュが兄の結婚式のために帰省した。その直後の出来事だったのもありがたく思った。かれの出発前の出来事になっていたら、ダルビッシュも動揺せずにいられなかっただろう。
「なにかあったら携帯にメールを送ってください」といって、かれは出発した。
ふたりのスタッフに電話すると、すぐに駆けつけてくれた。土葬の準備をお願いしたのだ。穴を掘り、チェリーを埋葬した。
病気になってから、多くのひとに気をつかっていただいた。大いに励まされ、物心両面でささえられた。あらためて、感謝の言葉をここでささげたい。
こころから、お礼もうしあげます。
sumio さんの作品を墓標につかわせてもらった。
きょうは一日チェリーのことを考えていた。
いい犬に出会え、ほんとうによかったと思う。2001年7月22日生まれ、難産のすえのひとりっ子だった。
数日前の朝。おだやかに朝日を浴びていたが、この直後から激痛に襲われた。
もし可能ならば、チェリーにひとつ聞きたいことがあった。
「生きているあいだで、いちばん愉快だった経験は?」と。
こたえはもちろん知っている。風をきってバイクに乗った思い出だろう。いつでも得意げな顔をみせ、からだじゅうで喜びをあらわしていた。
その思い出のよすがに、一枚の写真を最後に掲げておきたい。
ありがとう、チェリー。さようなら!