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John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています/※場合により、語る対象の「ネタバレ」も在ります。ご了承ください 

『森達也「下山事件」に重大疑義?捏造?』の続報。事実関係まとまる

http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20061108#p4
にて書いたエントリ(ご参照を)に、コメントがいくつか寄せられた。

# 巣の 『ちょっと下山事件に関しては、コメントが見当違い過ぎですよ。読んでみては? 面白いから。』


# つか 『森本(註「森の本」の意味?)は疑義とかじゃなく捏造確定』


# gryphon 『下山事件<確定か疑義か、あるいはどちらを読むべきかはともかく、まあ観ていきますよ。紹介したスレッドの最新の書き込みを見ると文庫本にはやはり「付記」がついているそうですね。』


# ◎ 『森達也の騒動ですが、間違いなく、あれは捏造ですよ。
文庫本の付記にあるような、ただの「勘違い」で、あんな証言をゼロから文字で再現できるなんてありえません。ぜひ読んでみてください』

と、非常に活発な議論を呼ぶほど話題の下山事件(シモヤマ・ケース)。

下山事件(シモヤマ・ケース) (新潮文庫)

下山事件(シモヤマ・ケース) (新潮文庫)



最初の情報源であるhttp://book3.2ch.net/test/read.cgi/books/1160894864/も侃々諤々の中スレが終了、
新スレになっている。

http://book3.2ch.net/test/read.cgi/books/1164817139/-100
このへんがだいぶ議論の末に、形がまとまっている。
そして手元には文庫版の実物もある。


さてリンク先は膨大なので転載はし切れないが、一部を。

森達也による「下山事件」証言捏造問題の簡易まとめ】(詳細は>>2以降参照)
  2004年、森達也がノンフィクション「下山事件(シモヤマケース)」を出版。
 同書では、当時を知る関係者が下山事件矢板玄らによる犯行である旨断言したり、犯行に使われたのではないかと言われている亜細亜産業の車について車種を断定する証言が書かれていた。
    ↓
  ところが、その後作家であり、証言者らの肉親である柴田哲孝が「下山事件 最後の証言」で森の書いた証言は捏造であると指摘。
    ↓
 森はそれから一年以上沈黙していたが、このたび発売された 「下山事件」文庫版の付記で捏造の件に初めて言及。自分の記述に錯誤があったことは認めたが、「克明に取材の記録をメモしていなかった」とし、あくまでもミスで、意図的な捏造ではないと主張している。また、記憶どおりに書いたのだから本文の書き換えはしないとし、「謝罪はしない。なぜなら自分が間違ったことをしたとは思っていない」としている。
 また、森はネット上での反響として、2ちゃんねるの「森達也スレ」の書き込みを5つ引用しており、自身のスレッドを見ていたことも明らかにした。




2 :無名草子さん :2006/11/30(木) 01:21:48
佐野眞一による「下山事件」解説の書き換え】

下山事件」文庫版の解説(佐野眞一)は、単行本が出た頃に「波」2004年3月号に書かれた以下の記事がもとになっている。
http://www.shinchosha.co.jp/shinkan/nami/shoseki/466201.html

ところが、森の捏造発覚等をふまえ、何箇所か書き換えが成されている。そのうち、後半部分が以下のように書き換えられている。


 「波」2004年3月号版解説(森の捏造発覚前)
 本書とほぼ同テーマの作品が、著者と共同で作業した新聞記者によりすでに上梓 されているのは、本書同様、不幸なことである。その顛末に関しては、冒頭でも述べたように、著者自らがこれ以上ない正直さで明らかにしているので、もう問わない。


 2006年10月発売文庫版解説(森の捏造発覚後)
 本書とほぼ同テーマの作品が、著者と共同で作業した雑誌記者によりすでに上梓されている。また、その後も情報提供者の「彼」によって同じテーマのノンフィクションが刊行されている。それは重ねて不幸なことである。それについては、この本の著者がおそらく一番気にしていることなので、もう問わない。





まるごと捏造だと指摘された証言を以下に引用。森は記憶違いだとか、作為的な捏造ではないとか言い訳してるが、これだけ詳細に書いてて記憶違いもへったくれもない。

 キャノンの部屋がライカビルにあったのよ。キャノン機関は知ってる?占領軍の有名な謀略機関だって新聞で読んだことがあるわよ。鹿地事件(プロレタリア作家の鹿地亘が自宅 近くで誘拐され一年余りにわたって監禁された事件。後に解放された鹿地自身の口から、米軍謀略組織であるキャノン機関による誘拐事件であることが明らかになった)の時よ。
 その謀略機関のボスだったキャノンと、亜細亜産業の総帥の矢板さんとは大の親友でね、いろいろと一緒に仕事をしていたのよ。大きな声では言えないような仕事よ。密輸の片棒よね。キャノンと一緒に、例えば朝鮮半島からゴムとかアルミとか、そんなものを こっそり輸入していたらしいのよ。キャノンの部屋があったのはライカビルの確か三階か四階よ。下山さんが三越から失踪したその日のことははっきり覚えている。
 兄も矢板さんも佐久間も、とにかく誰も出社してこなくてね、確か次の日も誰も来なかったはずよ。下山さんが行方不明になったというラジオのニュースを聞いて私は妙な胸騒ぎがしていてね、次の日の朝、轢死体で発見されたと朝刊で読んで直感したのよ、これはみんながやったんだって。
 (森達也下山事件」単行本P26)


【引用者註】ちなみに今、実際に手元にある文庫本を見てみると、P37-38が該当部分になる。

森氏は、これに答え「文庫版のための付記」を加えている。
ちょっと写してみよう。

寿恵子の証言については、柴田は僕に語った人であり、僕は語られた人である。
そしてこんな場合、おおむね語られた人よりも語った人の記憶のほうが正しい。さらに彼女は柴田の血縁であり、下山が轢死体で発見される前後の亜細亜産業の描写については柴田は何度も聞いているはずだ。つまり僕は圧倒的に分が悪い。確かに寿恵子の言葉として、この本に記したように柴田から聞いた記憶があるけれど、それは糺されねばならないだろう。(400-401P)


メモや録画、録音は無かったのかとの問いを当初自分は持っていたが、「この頃の僕は自分が後に文章で発表することになるとは予想すらしていなかった。いずれキャメラの前でインタビューという形で収めようと考えていたから、克明に取材の記録をメモしてはいなかった。だから思い違いや錯誤はあると思う。それは認めねばならない」(401P)



となると、事実として、森氏に別の著書「下山事件 最後の証言」を書き、森氏を批判した柴田哲孝氏のほうがおそらく「どう言ったか」という点では正しいだろう。実際、メモもテープもなしに交わされた会話を、正確無比に再現するというのはいうほど簡単ではない。

では問題はというと、「これは錯誤か、意図的な捏造か」ってことになる。
これは本日公判が始まる「村上ファンド」の総帥が争う争点が「ライブドアの社長や幹部が『ニッポン放送株を買い占める』と言ったのを聞いて・・・・・・・・1・これは信憑性ある、買占め予告だと思ったか、2・単なる夢想、夢物語だと思ったのか−−−であるのと似ていて、”森氏の内面”を問う話になる。


【仮の結論】
内面は村上被告の例もふくめ、究極的にはだれもわからない。
だから裁判でも本の評価でも、あとは一般的な判断、常識、通念にしたがって、「こっちのほうが不自然ではない」と軍配を上げるしかない。そこで救済されないものも出てくるだろうが、それ以外にそもそも方法が無いのだ。


そこで、森氏の内面に関する小生の評価だが、

「メモもテープもなしに交わされた会話を、正確無比に再現するというのはいうほど簡単ではない」
のも事実ではあるが、
「記憶の中で、細かな描写は別にして、趣旨が正反対になる変形が行われるのもいうほど簡単ではない」
のもまた事実だと思う。
だから、柴田氏の方の言い分に理があると個人的には判断する。


あるいは、こう言い直したほうがいいかな。
「捏造か記憶違いかに関わらず、結果として事実と違う描写を森氏は本に書いてしまった。
意図や内面を云々する必要も無く、その『結果責任』が重大だ」と。
これはたぶん、森氏も認めているだろう。これならその問題はひとまず棚上げにしておける。そのへんを落としどころに、って俺は派閥のフィクサーか。


ただ、こういう形で記憶違いであれ捏造であれ、森氏が「僕はこう聞いた」と書いたものが事実でない可能性が高いなら、映像や音声データの裏づけが無いところで交わされた対話の再現部分は、彼の著作すべてで「?」をつけて、眉につばをつけて接しなければならなくなるかもしれない。
それは不幸な話ではあるが。

作品の評価は読んだ人がすることだ。「見苦しい言訳だ」と感じる人はきっといるだろう。「潔くない」と思う人もいるだろう。それは覚悟している。これ以上は書かない。この付記も含めて、評価は読者であるあなたがすることなのだから。(405-406P)

と、森氏はこの文庫版付記を結んでいる。



直接の言及が無いところにTBを張るのは原則好ましくないが、
たぶん興味を持たれるだろうな、と思うので

「愛・蔵太の少し調べて書く日記」
http://d.hatena.ne.jp/lovelovedog/20061129/zapping20061129


murmurブルログ
http://blog.livedoor.jp/mumur/archives/50694864.html
にTBを送った。


【補足】http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20070214#p2に続報