INVISIBLE Dojo. ーQUIET & COLORFUL PLACE-

John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています/※場合により、語る対象の「ネタバレ」も在ります。ご了承ください 

「アニメ絵、世界を制す」…のか?この不思議な文明圏の拡大を「君の名は。」海外ヒットで観察する

…ここで、定義を設けておきたい。
文明は「たれもが参加できる普遍的なもの・合理的なもの・機能的なもの」をさすのに対し、文化はむしろ不合理なものであり、特定の集団(たとえば民族)においてのみ通用する特殊なもので、他に及ぼしがたい。つまりは普遍的でない。

文明の場合、そのやり方と道具をそろえさえすれば、たれでも参加できる(普遍化する)のである。簡単なとりきめだけで、万人が参加できて、しかも便利であるものを文明と考えたい。

 異文化(エスニック)もまた文明材になるときがある。たとえばジーンズは二十世紀のはじめ、デトロイトの自動車工の労働服だったという点で特異かつ少数者のものであったのが、アメリカ内部の普遍化作用のなかで吸いあげられ、世界にひろまったとき、あたらしい文明材になった。

(いずれも、司馬遼太郎の各種のエッセイより)


さて、ところで

君の名は。』中国で大ヒット!その規模の大きさと現地の様子について - Togetterまとめ http://togetter.com/li/1055592

という。そりゃめでたい。

で、「君の名は。」の絵柄はというと、言わでも、であります。



この言葉もすでに陳腐かつ、定義が曖昧すぎてなんとも言い様がないが…ほかに何というべきか…やはり、この言葉でくくるしかない。
「アニメ絵」
ですよね?

で、両者とも作中の設定はともかく、やっぱり絵柄の描かれ方としては美男美女であり、逆に言うと読者、視聴者のこちらは、彼らの顔の描かれ方が「可愛い」「かっこいい」と認識するようになっている。
この経緯については、数年…あるいはそれ以上のレベルでずっと気になっていました

「かわいい」の科学−−あるいは日本漫画の不思議な進化について http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20080821/p5
 
日本漫画・アニメの可能性と限界。いわゆる「アニメ絵」が受け入れられる文化圏の拡大について http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20091002/p5
 
日本漫画における「美人・ハンサム」の描き方が、今のようになった経緯の仮説(日曜民俗学) -http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20131013/p6


これが気になるのは、たぶん、自分たちの世代が、つまり「君の名は。」的な絵柄が、スタンダードになる「経緯」を見てきたという実感が、ほんのちょっとだけあるからだ。

こち亀」で「島雪之城」という、ややマイナーな準レギュラーキャラがいたのだが、その描かれ方が「少女漫画風」であるのがギャグになっていて、恋人役はさらに少女漫画風で…文中には、少女漫画的テイストのあった、当時の少年漫画の最先端を「恋愛ゴッコ漫画」と呼び注釈では「身の毛もよだつ」と書いてあったりした。
(注釈をつけるのが「なんとなく、クリスタル。」という当時のヒット小説のパロディだった)
髪型が、紙を切ったような「紙切り頭」であり、それが「サイボーグ009」が元祖だという注釈も、何気に重要だ。


しかし、実のところ、それだけ描けるのは秋本治氏が、当時の少年漫画家としては例のないほどに少女漫画に詳しく、親和性があったからなんだけど。その後もしょっちゅう少女漫画をネタにしてて、これで「伊賀のカバ丸」とか知ったものな(笑)




おそらく、「アニメ絵」というのは少年漫画より少女漫画の系譜だと思うのだけど、違うかな?
エリア88」の新谷かおる氏なんか、すごく今の現状に貢献したのだと思うけど、その前の松本零士氏が…だがそもそも、その世代は少女漫画を描いていた第一世代で…あー、考えるほど迷宮にはまり込んでいくなあ。


ここに、漫画家自身(正直、個人的にはそうは感じないが、客観的には彼らも相当な影響をシーンに与えたのだろう)が絵柄の系譜を語る貴重な証言の対談がある。

http://trendnews.yahoo.co.jp/archives/447069/

 「ラブひな」「魔法先生ネギま!」などで知られるヒットメーカーである漫画家・赤松健も、この「きまぐれオレンジ☆ロード」に多大なる影響を受けたと公言しているひとり。そんな赤松と、まつもと泉による対談がこのたび実現。まつもと泉の創作の秘密とは何か、「きまぐれオレンジ☆ロード」が、いかに赤松健に影響を与えたのかなど、クリエイター同士だからこそ分かりあえる、刺激的な話が続々と飛び出した。

まつもと泉の絵柄のルーツとは?

サムネイル
きまぐれオレンジ☆ロードまつもと泉×「ラブひな赤松健 対談


赤松:わたしはこれまで、「どういう作家に影響を受けてきたか」と聞かれると、必ず「まつもと泉先生」と答えてきたんです。絵柄やストーリー展開をとってみても、わたしはまつもと先生の子孫なんです! 先生の絵柄はどこから影響を受けたのですか?

まつもと:おそらく、いのまたむつみさんですね。それから細野不二彦さん。

赤松:ああ、なるほど。

まつもと:あの当時は、少年誌でカワイイ女の子が出てくるラブコメを描いていた人は、江口寿史さんと細野不二彦さん、この2人でした。鳥山明さんは少し景色が違った。僕はもともと吾妻ひでおさんの影響も受けているんです。

赤松:(深く納得した様子で)はいはいはい。

まあいいや。

ほかにも、長寿シリーズ「ガンダム」の絵柄を比べてもわかるような…


その後、やはり「アニメ絵」は、統一されて、これが日本でメインストリームになり、いまやスタンダードになっていった、といってもいいと思う。
もちろん、そうは言ってもアニメ絵の定義からして広すぎるし、何を源流にしてどれを決定的なものにすべきか…、定義しようと思うだけで課題は山積みなのだろうけど。




まー、それもいいや。系譜をたどっていったら追いつかない

とくに自分の過去記事のなかでも

日本漫画・アニメの可能性と限界。いわゆる「アニメ絵」が受け入れられる文化圏の拡大について http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20091002/p5

で語ったテーマなんですけど。

 ……中国文化が広まったりギリシャ・ローマ文化が広がったように、あとはこの文化、この技法で描いた絵を「あーハンサムの絵だ」「あー美少女の絵だ」と納得するような文化圏が広がるか広がらないか、そういう陣取りゲーム、デファクトスタンダード合戦なんじゃないかと。リングか金網かもしかり。賛否や欠点利点を議論するより、デファクトスタンダードの取り合いっこなんだ、ということなんじゃないだろうか。
そういう点で見れば、わが日本発祥??のアニメ絵文化というのも、国内の競争の激しさと天才手塚治虫、そしてそのトキワ荘十二使徒のおかげもあって、この極東小国からの発信としてはなかなか健闘していると思うんだな、これは自国びいきやナショナリズムとは無縁に、客観的に。
ではそれで得た文化圏をどう育て、再生産し、地固めをできるのか。
たとえば鳥山明ドラゴンボールや、ポケモンで大喜びしていた諸国のガキたちは、それが好きだったことをきっかけに、上に紹介したような違和感を無くしていくのか?それともそうでないのか? 国でいえば韓国はウェブトゥーンなどに関し「漫画のスタンダードがアニメ絵」文化圏になるかならぬか?香港は?タイは?
などなど。
逆に日本がアメコミ的な考えを吸収したり、ディズニー長編版に出てくるような、ああいうのをスタンダードだと思うようになるかもしれない。
漫画的表現で、人間を描くときのスタイルのデファクト・スタンダードはどう変わっていくのか?

こう、2009年に書いたのだけども、少なくとも中国で「君の名は。」が記録的なヒットをした…ところを見ると、まずもってこの「絵柄」への違和感が、中国では無くなっているのかもしれない、と。
最初に引用した、普遍的なのが「文明」、特有のものが「文化」だとしたら、少なくともジーンズと同じような意味では、「アニメ絵」も「文明」化したのではないか?と。

少なくとも、人口(物理的な絶対数ではなく「映画を見に行く層」)の大きい中国でそうなれば「文明化」としての意味は大きい。


…もちろん、あらかじめ反論を予想しておく
「日本だって『アナと雪の女王』はメガヒットし、ベイマックスズートピアも人気だった。それ以前からディズニーもピクサーも人気だ。しかし、日本の漫画、アニメがそれらの”絵柄”の影響を受けているか、といえば、ほとんど影響はないのではないか??」
「それと同じように、『君の名は。』という個別の傑作が人気だったというのは、あちらのサブカルチャーの大勢、特に”絵柄”に影響を与えているとは言えないよ」と。
「大体、人気の度合いで測れば、欧州の『グレンダイザー』や『キャンディキャンディ』がすでに70年代にものすごい視聴率を取ったではないか。あれも十分アニメ絵的な絵柄であって、だから欧州はアニメ絵に親和している、とは言えまい?」


そりゃもっともだ。
ただね……

あるいは

中国で既にライトノベルが「軽小説」とまんま訳され「テンプレも共有」してるという…サブカルの世界連帯はあるのか? - http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20160117/p1

で紹介したけどすでに「霊剣山」という作品が中国のネットコミックとして人気になり、日本でアニメ化されたんですよね?


あるいはその記事で紹介した「星尖?」とかいう”中国の初音ミク”とでもいうべきボーカロイド



なんか当然ながら、あっちのでも人気曲が生まれていたり?(視聴回数 35,810 回)

フィギュアができてたりするのよね。


台湾はというと


公共施設や政党などを含めた「お堅い」ところでも、「アニメ絵」的なイメージキャラクターの浸透は、日本以上だともいう。


ふうむ…上記の台湾漫画を紹介する「コミックカタパルト」サイトだけど、逆に全体を通してみると「いやいや、はやり『アニメ絵』はマンガの技法や絵柄としてはそれほど一般的ではない。別の絵柄も相当ある」というふうにも見えるだろう。
https://twitter.com/comic_catapult

結局の所、一般性とマニアの熱狂はまた別のもので、自転車競技でもアイスホッケーでも総合格闘技ムエタイでも、その「クラスタ」に焦点を当てれば十分に盛り上がっているしファンも沢山いる、海外での人気もある…といえるが、それが一般化しているか、といえばまた別なのだろう。


でも、あらためて思えば…日本でだって、それほど主流だとは言えなかった「アニメ絵」がいまや主流の絵柄となり、
それが、どれほどの規模のコミュニティかは知らないけど、海外の各国にそれを愛好するコミュニティ、クラスタが「ある」というだけでものすごいことじゃないか?そのうちの一握りの傑作だけでも、一般的な人気があるだけで大変なことじゃないか?と。
これだけで少なくとも「プチ文明」とはいえると思うのだよね。


これは裏返せば「韓流ブームが終わった」という話にも通じる。今は冬ソナ、チャングム級のヒットはないだろうけど、私の知らないところで、普通に韓流ドラマのワクが確保され(abemaTVは韓流チャンネルがこの前できた)、普通に映画作品の佳品が上映され、普通にドラマが地上波午前中に放送されている。

そういう点で共通している。

絵柄…例えば各国での「『アニメ絵』の浸透度合い」を定量的に調査することはできないだろうか?

だけど、「絵柄」「絵の技法」というのは、なぜか個々にばらばらになるのではなく、時代や地域で一塊になっている。
これは確実。
そこでだ、
ここまで語ってきた、いわゆる「アニメ絵」が、各国でどの程度受け入れられているのか…これを何とかして、学問的、定量的に数字で示すことはできないだろうかね。

Pixvというお絵かきサイトが、日本国内では人気であることは最近理解した(笑)のだけど、各国にそういう、代表的な「お絵かきSNS」はあるのかね?
そういうところからランダムにピックアップし「アニメ絵」的なものをカウントするとか…twitterの「アニメ絵」的絵柄のリツイート数を地域ごとに分類集計するとか…出版点数から見るとか…

ま、そのへんはアカデミズムの人が考えてほしい。
「アニメ絵」というひとつのマイナーなサブカルチャーが、ひょとしたら文明、あるいは「プチ文明」的な普遍性を獲得しているとしたら、その経緯は研究するに値する気がします。
(了)

追記 参考