サクラ大戦スーパー歌謡ショウ『新・青い鳥』

 サクラ大戦の歌謡ショウの第3・4・5回を観終えた私は、スーパー歌謡ショウへと進んだ。最初に観たのは『新・青い鳥』である。
 DVDを入れると、大神一郎がゲームにおけるLIPSを模倣した選択肢一覧を提示し、本編全再生かチャプター選択かを聞いてきた。これはいきなり嬉しいサプライズであった。しかも、三種類の日替わりゲストもそれぞれ映像化されており、選べた。こういったものは無印歌謡ショウの最終作である『海神別荘』にも無かった特典である。流石は「スーパー」歌謡ショウである。
 本編を再生し始めると、ちょっと不気味な道化が客席をうろついていた。「こんなの、原作に居たっけ?」と疑問に思ったが、劇中劇『新・青い鳥』は原作のイメージを活かしたミュージカル形式のものになっていたので、それを観た後には、これはこれでありという気分になった。
 原作の『青い鳥』は、人類の文明の進歩によって苦しんでいた動植物が「青い鳥」を人類が得て益々力を蓄えるという事態を防ごうと努力したり、その動きにチルチル・ミチルの御供の猫が密かに通謀していたり、人類滅亡後に地上を支配する次の知的生命が登場の日を待っている場面があったりと、絵本の表紙とオチぐらいしか知らない人には驚くべき重々しさの話なので、そういった「陰」の部分を不気味な道化という形に象徴化したのは、一つの英断であると思われる。
 第一幕の最初の場面は、大神が三人の同期生と酒を飲んで歌うという内容になっていた。肩章をしっかり見ると、大神だけが中尉で他は少尉である。しかし同期生達は大神の階級や巴里留学の経歴を羨んだり妬んだりするどころか、大帝国劇場勤務という立場を寧ろ憐れんでいた。おそらくかなりの確率で、階級は直ぐに追い付ける程度の差しか開いておらず、巴里留学はこの時点では未だ行われていなかったのであろう。以上によりこの時点は、かなりの確率で1926年3月頃であると思われる。
 しかしその後の場面では、既に大河新次郎が紐育にいた。こうなると大神が大尉になっていなければおかしい。首を傾げながら観続けた所、結局三人の同期生はその後も全く登場せず、何の伏線にもなっていない事が判明した。よって冒頭の酒場の場面は新曲披露のために作られたものであり、本編とは別の時期の出来事と見做すべきであると思われる。
 さて、本編の時期であるが、米田一基の家庭菜園で茄子が収穫されていたので、7〜10月頃と思われる。年については、大河が紐育にいるので1928年以降である。
 私は1929年夏の可能性が高いと思う。
 1928年である可能性が低い理由としては、第一にレニ=ミルヒシュトラーセが大河の活躍は『サクラ大戦V』に描かれていると語っている事が挙げられる。ややメタ発言ではあるものの、1928年の戦いは既に終わっているものという事になる。また大河が「女性ばかりの華撃団」と言っている場面がある。『サクラ大戦V』では、大河は九条昴の性別を特定出来ずに悩み続け、昴エンディングを迎えた場合ですら特定出来ないままであった。1928年にこんな発言をするとは到底思えない。加えて、李紅蘭がスターを見学するため紐育に出張している場面があるのだが、後に発売された1929年春を描いた『サクラ大戦 君あるがため』では、紅蘭は紐育華撃団と初対面の雰囲気を出していたし、大神もそれを前提にして紐育華撃団に紅蘭を紹介していた。
 1930年以降の可能性が低い理由としては、ベロムーチョ武田を含むダンディ団が銀座をうろつく場面で、彼等がリトルリップシアターの存在をまだ噂でしか知らなかった件が挙げられる。というのも、『紐育レビュウショウ 歌う♪大紐育♪2』では、1929年に初渡米の大河双葉と同日同刻に武田が紐育に到着しているのである。
 今回の見所は根来衆を率いる根来幻夜斎である。風貌も話し方も歌もそれぞれ素晴らしかった。霊力もイリス=シャトーブリアンを軽く上回っていた。また南光坊天海の部下であり、その遺志を継いで全ての西洋文明を滅ぼそうとしているという設定は、シリーズ第一作への原点回帰的側面を持っている。ただし黒之巣会の残党ではないらしく、敵である帝国華撃団の構成すら知らないという状態で登場した。おそらく、つい最近まで封印されていたのであろう。
 幻夜斎は、最終目的達成のためには一時的な西洋文明との同床異夢も辞さない。陸軍において首都防衛任務の主導権を帝国華撃団から奪還しようとするゴウダ少将率いる勢力と、幻夜斎は組んでいたのである。
 このゴウダ少将は宇佐美少佐を通じて、藤枝かえでの配置転換を目論む。
 この配置転換につき、かえではかなり乗り気であった。陸軍で思い切り努力してみたかったらしい。
 この気持ちは良く解る。かえでは登場以来、ずっと副支配人の中尉である。そしてかつては帝国歌劇団においても帝国華撃団においても部下であったモギリの大神少尉が、今では上司である支配人の大神大尉なのである。よりやり甲斐のある仕事を提示されれば、さっさと異動したくなるのも当然であろう。
 また、かえでは自分が消えても米田が復帰すればそれで良いと思っていたのであるが、ゴウダ達は米田の暗殺まで目論んでいたのである。
 幻夜斎が地下からの華撃団への襲撃を目指し、ゴウダが地上において華撃団の弱体化を目指すという、見事な役割分担が出来ていた。この剛・柔両面からの攻撃というのは、『サクラ大戦2』を思い起こさせる。
 根来衆及び復活させた脇侍まで率いた幻夜斎と帝国華撃団との死闘では、ゲームにおける「作戦」や「必殺攻撃」や「合体攻撃」も再現されていた。この戦いは見ていて実に興奮した。
 因みに幻夜斎が復活させた脇侍は、上京したての真宮寺さくらでも瞬殺出来た最弱の「足軽」と似た色であったが、足軽とは思えない程強かった。復活する際には黄色く輝いていたので、おそらく精鋭である「近衛」であると思われる。
 なお、再開した神崎すみれと桐島カンナが、稽古場でふざけて「お宮」と「貫一」の掛け合いを再現する場面があった。彼女達にとって、『愛はダイヤ』は二人の代表作なのであろう。
 『サクラ大戦 奏組』の第2巻185ページで稽古場から「宮さん」と「貫一さん」の対話が聞こえてきたというだけでは、奏組が1923年を描いたものだとは決め付けられないという、数日前の私の主張(http://d.hatena.ne.jp/gureneko/20130822/1377174441)は、これで益々強固になった。
青い鳥 (岩波少年文庫)

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