『牙狼 -紅蓮ノ月-』(スペシャル・第一〜四話)

スペシャ
 番組全体の予告編として作成・放映された回である。
 キャラクターデザイン担当の桂正和氏が総監督雨宮慶太氏の大学の後輩である事などが明かされていた。
 過去の牙狼シリーズのおさらいの部分もあるのだが、これを見ていて気付いた件があった。過去の牙狼には必ず"GARO"というアルファベットが添えられていたが、今回はそれがない。シリーズの伝統に背いてでも「和風」を貫こうとする強い意志が感じられた。
第一話 陰陽
 魔戒法師の星明と魔戒騎士の雷吼が都の外で素体ホラーの大軍と戦う場面がある。
 公式サイト(http://garo-project.jp/ANIME2/)によると今回のホラーは「火羅」と書き、登場するゲートは「迎門」と書くそうなので、以下では私も原則としてそれに従う。
 ちょうど『炎の刻印』における素体ホラーのデザインが、原型を重視しつつも物語の舞台となるヨーロッパにおける悪魔のイメージを取り入れていた様に、今回の素体火羅は日本における餓鬼のイメージを取り入れていた。
 舞台は平安時代であるが、眼鏡や金平糖といった当時には存在しなかった物品も敢えて登場させており、「時代考証はしません!」という強い宣言がなされている。
 初回の敵は純慶という有名な仏師が火羅化した「閻剛」であった。そして「芸術家は契約によって火羅と融合する事が多い」というシリーズの伝統は、今回も活かされていた。
 純慶との戦いを通じて、雷吼の魔導輪と鎧が普段は封印されている事や、それを星明が解くと本来の実力を出せる事や、火羅達の背後に蘆屋道満がいる事などの、様々な設定が語られていた。
 予告編は『炎の刻印』と同じく鵜殿麻由氏によって語られていた。これは今後も伝統になりそうである。
第二話 縁刀
 期待通り、鵜殿麻由氏が神官を務める番犬所が登場する。
 但し平安京近辺の番犬所でありながら、「東の番犬所」となっている。当時の「東国」が事実上の異世界であった事を勘案して、「近畿こそ日本の東部」と見做したのだろうか?
 京を一歩出ると物の怪の領域という設定も語られる。これはこれで、かなり当時の世界観を反映していると思われる。
 かつて雷吼は京を一度は追い出されて火羅の大軍に囲まれるも、牙狼の鎧に守られたり、その状態が100秒以上続いても何故か心滅しなかったり、星明や金時に救出されたりと、様々な偶然が重なって生き延びたらしい。
 そして今回の雷吼の敵は、それとほぼ同じ立場であったが奇跡が作用しなかったせいで順当に火羅「怒蜘羅」になってしまった人物であった。彼との対比を通じて、設定や使命等が確認されていった。
 またこの戦いの夜は、満月であった。
 藤原道長左大臣藤原公任検非違使別当であるという設定も登場する。これを重視するならばこの物語は西暦でいえば996〜1000年頃という事になるが、前回の眼鏡や金平糖の件もあるので、おいそれと決めつけるわけにはいかない。何しろ、後に和泉式部と呼ばれた人物が登場し、なおかつ和泉に下向する前としか思えない設定であるというのに、もう「和泉式部」と呼ばれているのであるから。
第三話 呪詛
 藤原道長を呪う連中がいるという話になり、在野の陰陽師が大量に捕まる。
 これは甥の藤原伊周の立場を悪くするための道長の自作自演であったのだが、蘆屋道満はこの機会を利用して意図的に捕縛され、鉄壁の光宮の内側に迎門を作る事に成功する。
 今回の雷吼の敵は、道満によって量産された火羅であり、後世の天狗のイメージを持った者達であった。
 黄金の鎧を着て戦う雷吼を見た源頼信は、「黄金の鎧はこの源家に代々伝えられしものの筈」と父の多田新発意を問い詰める。
 多田新発意が存命中という事は、997年中旬以前という事になるが、この設定もどこまで信じていいものか、疑問ではある。というのは、1005年に准大臣となる藤原伊周が、既に准大臣と呼ばれている場面があったからだ。
 また「源家に代々」という表現もいささか奇妙である。源頼信の先祖が臣籍降下をして源氏になったのは祖父の源経基の代であり、経基が黄金の鎧の所持者でそれが息子の多田新発意に譲られたとしても、継受の歴史は僅か一代である。
第四話 赫夜
 前回までの視聴で本作の世界観を「西暦1000年前後の平安時代をある程度適当に混ぜた世界」と決め込んだのだが、今度はいきなり西暦700年前後を舞台として想定していたと思われる『竹取物語』の世界を取り込んできた。これはかなり意表を突かれた。
 このため、石上氏出身の公卿が皇子に対して横柄に接するという、西暦1000年当時ならありえない場面もあった。
 戦いの後、赫夜は竹取物語よろしく空中へ去っていったが、エンディングの映像にレギュラー扱いで登場しているので、ほぼ確実に再登場しそうである。
 こうした古風な世界が演出される一方、検非違使庁が自立駆動型の二輪車を多数所持しているという設定も明かされ、ファンタジー色が更に強まった。

竹取物語 (岩波文庫)

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