民法733条改正について

どれほどいるかわからないけど、よく読んでくださっている方からすると「ああ、またか」という民法の話題です。今日閉幕した今国会において、女性にあった再婚禁止期間というのが変更になりました。
【いままでの733条および772条について】

733条
1.女は、前婚の解消又は取消しの日から六箇月を経過した後でなければ、再婚をすることができない。
2.女が前婚の解消又は取消の前から懐胎していた場合には、その出産の日から、前項の規定を適用しない

民法733条というのが有ります。この条文があるので現行法では男性は配偶者と離婚した次の日から再婚が可能なんですが女性はできませんでした。離婚から6ヶ月を経過した後でなければまずいのです。2項にあるように離婚成立前から妊娠していた場合や離婚成立後6ヶ月以内に出産した場合には生まれた子の父親が前夫であると推定されるため、出産後はいつでも再婚することができます。でもって

772条
1.妻が婚姻中懐胎した子は、夫の子と推定する。
2.婚姻の成立の日から200日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から300日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する。

ここらへん民法772条が関連してきてて現行民法では離婚(死別ってのもありえます)の日から300日以内に生まれた子は前夫の子と推定され、再婚の日から200日を経過した後に生まれた子は、再婚した夫の子と推定されます。現行法にのっとれば1月10日に離婚して再婚可能となるのは7月10日以降、また11月6日までに生まれた子は前の夫の子です。離婚後再婚前に妊娠してもそうなります。で、ややこしいのですが7月10日に再婚して200日以内で出産した場合に11月6日までの子は前の夫の子ですが、11月10日にうまれた子は当然には後の夫の子では無いけど200日が経過してなくても市役所に再婚した夫に出生届を「父届出」として出してもらえばそれにより民法上の認知行為がされたとして嫡出子として戸籍に記載されます(父親の認知があるので嫡出子なのですが、ちゃんとかくと可能性としてもしかしたら父親の子供ではないかも、と法律上みなされます)。なお出生が離婚から300日経過していれば、少なくとも前夫の戸籍には入りません。
【問題の所在および経緯】
さてこの733条と772条がないと、女性が離婚後すぐに再婚して子が生まれた場合、可能性として生まれてきた子が前夫の子、再婚した夫の子、どちらにも推定されちまいます。再婚禁止期間を設けることによって前婚と後婚の推定期間を重ならないようにするために意義がありました。子の父親が分からないという事態を避けることができます。前にも書いたのですが6ヶ月というのは民法制定時の明治時代において、もしくは戦後すぐはいまほど鑑定技術が無かったはずで、女性が外観上妊娠しているのがわかるには6ヶ月あればなんぼなんでも判るだろう、という趣旨です。
前からこの再婚禁止期間については議論がありました。女性だけなぜ再婚に制限があるのか、憲法違反じゃないかというものです。民法第733条は憲法第14条1項(法の下の平等)などに違反するのではないか、という点です。で、最高裁

「合理的根拠に基づいて各人の法的取扱いに区別を設けることは憲法14条1項に違反するものではなく、民法733条の元来の立法趣旨が、父性の推定の回復を回避し、父子関係をめぐる紛争の発生を未然に防ぐことにあると解される」
「女性のみが懐胎するという生理的な理由に基づき立法されたものであり、父子関係の確定の困難を避けることを趣旨とするものと解され、医学の進歩によって、妊娠の事実や父子関係の確定に関する科学的な技術等が進歩していることを前提としても、この6ヶ月間という再婚禁止期間に、明白な合理性がないとまで判断することはできない」
(最三小判平成7年12月5日判例時報1563号81頁)。

とし、憲法違反とまではいかないとしていました。ただ近年、片方の性のみの婚姻禁止期間に関しては人権機関からの勧告もあり、法改正しないのは立法府の怠慢である、という意見も根強くありました。でもって去年、最高裁大法廷は婚姻禁止期間についての裁判で弁論を開き原告被告双方の当事者の意見を訊く機会が与えられ、今までの判例を変える方向に動き、12月に
「計算上100日の再婚禁止期間を設けることによって、推定の重複が回避される」「出産時期を起点とする明確で画一的な基準から父性を推定し父子関係を早期に定めて、子の法的安定を図る仕組みが設けられたという趣旨からすれば、一律に女性の再婚を100日制約することは合理的な立法裁量の範囲を超えるものではない。よって、100日の再婚禁止期間を設ける部分は、憲法14条1項に(中略)違反しない」「100日超過部分については必要な期間ということはできない。医療や科学技術が発達し、再婚禁止期間を父性推定が重複することを回避するための期間に限定せず、一定の期間の幅を設けることを正当化することは困難」(毎日新聞2015年12月17日付判決要旨)として半年の禁止期間が「結婚の自由に対する過剰な制約で、100日を超える再婚禁止期間は憲法違反だ」としました
【100日について】
これも民法772条に関係してきます。説明がくどいかもですが間違いをしたくないのでお付き合いください。民法772条は、1項で婚姻中に懐胎すると夫の子であると推定されるとしていますが婚姻届を出してすぐに出産したとしても、婚姻中に懐胎したというのは難しいでしょう。それが夫の子です、とは事情を知らない場合に誰もが納得しないはずなのです。で、2項において、婚姻中の懐胎とするためには原則として出産から200日前に婚姻が成立していなければならないとしています。また離婚届を出した数日後に出産した場合には、再婚相手の子を懐胎してない可能性が高い(建前として貞操を守る義務が夫婦にはあるはず、というのが民法の世界です)。で、2項ではもうひとつ、婚姻解消から300日以内に生まれた子は、離婚前の婚姻中に懐胎したものと推定するとしています。仮に再婚禁止期間をやめてしまって離婚直後に再婚が可能とすると772条を残した場合に離婚後300日以内で、再婚成立200日以降の子が生まれる可能性があります。1月10日離婚、1月15日再婚、10月25日出産といった場合などです。父が誰だか判らなくなる。それは避けたい。再婚禁止期間はやはり必要で、ただ計算上再婚禁止期間は6ヶ月もいらず、100日あればいいことになります。それを追求したことにすぎません。離婚後101日目に再婚した場合、離婚後300日が経過して婚姻後200日目がやってきます。1月10日に離婚して5月1日以降に再婚可能として、11月6日以降の子は後の夫、それ以前は前の夫とすればいいわけです。
でもって最高裁の補足意見の中に
「法律上の父が確定していない子も行政サービスを受けられるのであって、子の利益や福祉が損なわれる社会的状況はない。本件規定は(←733条のこと)、父性推定の重複を回避する必要のない多数の女性に対し、再婚禁止期間を設けていると解さざるを得ず、違憲性の度合いが一層強くなる。規定は全部違憲であると考える(鬼丸判事)」というのもあって、昨今の状況を考えると傾聴に値するかなあ、とも思います。
【新条文】
最高裁の判断のあと、戸籍実務の現場では離婚後100日経過した女性の婚姻届受理という運用がなされていましたが、最高裁の判断に合わせて条文も今国会で改正となりました。

733条
1.女は、前婚の解消又は取消しの日から起算して百日を経過した後でなければ、再婚をすることができない。
2.前項の規定は、次に掲げる場合には、適用しない。
一 女が前婚の解消又は取消しの時に懐胎していなかった場合
二 女が前婚の解消又は取消しの後に出産した場合

という具合です。
なお「民法第733条第2項に該当する旨の証明書」という
○本人が前婚の解消又は取消しの日であると申し出た日より後に懐胎していること
○同日以後の一定の時期において懐胎していないこと
○同日以後に出産したこと
のいずれかについての医師作成書面が必要になります
【雑感】
これ、40代のおっさんである私が現役の学生のころからあった問題で、なんどか法改正が国会内で議論されつつも挫折し、最高裁の判断を受けて今回一応のけりがついたわけですが、明治の条文を現代ににしたことになるのですが、やはり長かったなあ、という気が。