Planet Moustache ---Review

スイスのバーゼルを中心に広がるスケートボード・シーンを、DIY精神あふれる創造力で撮影・編集した映像作品、Planet Moustache。この作品を制作した監督の名前はAlex Pipoz。彼はスケートフッテージのみならず様々な映像や写真などの活動を続けている31歳の青年だ。彼はPlanet Moustacheについてこう語っている。「ただのスケートビデオにはしたくなかったんだ。トリックだけが延々と続くようなね。それよりアートとスケートボーディングをいかに結びつけるかということに興味があった。」


彼の言葉通り、Planet Moustacheはスケートシーンだけでなく美しく切り取られたランドスケープのイメージ、街で生活する人々のショットなどが効果的に織り込まれ、デジタルとフィルムを見事に使い分けながら観る者の知覚を心地良く刺激する映像作品だ。そしてその映像と絶妙に重なり合う音楽。新旧、国境、ジャンルを問わず、自由な感覚で選曲された音楽が作品の幸福な雰囲気を盛り上げるのに大きく貢献している。スケーターのみならず幅広い人々にアピールする作品に仕上がっていると言えるだろう。


こういう風に書くと、スケートボーディングをネタに、おしゃれなイメージだけをコラージュした抽象的な映像作品のように取られる恐れがあるかもしれないが、もちろんこの作品の主人公は生き生きとした滑りを見せてくれるスケーター達だ。僕はヨーロッパのスケートシーンに詳しくないので良くわからないのだが、ヨーロッパの色んな国のスケーター達がここに現れていると思う。アグレッシヴなトリックを決める者、スマートな滑りで魅せる者、様々なスタイルのスケーター達がここに収められているが(レアなフリースタイルの大会まで)、ヨーロッパのストリートならではのユニークなバンクやアールを攻めるシーンが多いのが印象的だった。(もちろんステアやレイルをダイナミックかつクリーンにメイクするシーンも見逃せないが。)


なによりも、スケーター達が、自分達のペースでスケートを楽しんでいる姿が伝わってくるが良いと思う。競争が激しくて、派手なトリックばかり求められるアメリカのシーンでは見失いがちになっているかもしれないスケート本来の魅力がここに詰まっている。


そしてこの作品で特に必見なのが、バーゼルにあるブラック・クロス・ボウルでのセッション。これは元アンビリーバーズのポンタス・アルヴが設計した変形ボウルなのだが、恐らくPlanet Moustacheは、ここに集まってくるスケーターやアーティスト達が中心になって制作されたものと思われる。このボウルは行政や企業によって運営されているのではなく、スケーター自身によって管理されていて、補修や掃除なども自分達でやっているようだ。彼等にとってはDIY精神の象徴のような場所なのだと思う。



乗りこなすのが難しそうなクセのあるボウルだが、スケーター達は楽しそうに技を競い合い磨き合っている。いつもはバンドやバーベキューを用意してスケートパーティーを繰り広げているらしく、スケーター達にとって最高の遊び場であり、尚且つ現在のヨーロッパシーンにおいてもユニークなスケートカルチャーを発信する重要な場所になっているのだろう。蹄状の棺桶のグラフィック、黒い十字架というデザインも最高にクール。 (このボウルはヨーロッパのみならずアメリカのスケーター達の注目も集めているようで、スラッシャーのSHOTGUNやFoundationのCataclysmic Abyssでもこのボウルを確認することができる(Cataclysmic Abyssでは「Yeah Pontus!」という文字だけの画面まで現れる))。


今までのスケート作品に例えて言うなら、トランスワールドの映像クオリティにインディペンデントな心意気で挑戦し、トイマシーンのサファー・ザ・ジョイなどにも通じるアート感覚をヨーロッパ的な洗練さで体現している、と言えるかもしれない。全体に渡るスケートと音楽の融合による幸福感はエンジョイのバッグ・オブ・サックにも負けていないだろう。そして、やはりこの作品は、ポンタス・アルヴが昨年「Strongest of the strange」で切り開いた新しい地平で、自由な精神で自分達の表現をやるという意思を引き継いでいるものだと思う。


そしてその表現というのはスケートボーディングや映像のみならず、様々な形で現れてくるのではないだろうか、と今後のバーゼルのシーンに思わず期待してしまう。


最後に、この作品に出演しているスケーターや使用されている曲のクレジットを以下に記したいと思う。この選曲リストだけでも作品の面白さが少しは伝わるのではないかと思う。(まさか今コモン・ピープルで盛り上がるとはなぁ!Stereo Totalも久しぶりに聴いちゃったよ。それがまた良かったし(笑)。あまり知られていないけど素敵なヨーロッパのアーティスト達の曲がいくつかあり、音楽的興味も促進されました。Yup, スケートボーディングは色んなカルチャーを刺激する、というベーシックで良いサンプルがここにまたある、というわけ。)


Planet Moustache

Filmed and Edited by Alex Pipoz

Additional camera by Jean Feil Yves Marchon Chris Shenton


Artwork by Alex Pipoz


PINUTZ FILMS
presents in cooperation with
Carhartt
Emerica
Element


Intro:
The Pirats from Mars/ Planet Moustache


Mike Malinouski:
Rush/ Seven and Seven
Apparat/ Not a Good Place


Danny Lorenz:
Jenny Wilson/ Love ainユt just another four letter word


Jo Lorenz:
Jesse Cook/ Gypsy Soul


Eric Antoine
& guest
Igor Ruza
Andrea Brunner
Manu Witmer
Flo Linden berger
Mehran Yusefi
Richard Flood
Pontus Alv
FOS:
William Shanter/ Common People


Ruedi Matter:
stiller Has/ Was Isch?
The art of Noise/ Dragnet Theme


Patrick Lauper
& guest
Wilko Gruenning:
Andy Cummings/ Hapa Heole Hula Girl
She Wants Revenge/ Tear you apart


Flo, Stephan, Patrick:
Yann Tierson/ Les Jours Tristers
Nouvelle Vague/ Dance with Me


Christoph Merkt:
Frank Black/ Holiday Song
Stereo Total/ Musique Automatique


Bowl Part:
La Grande Sophie/ Egoiste


Oli Buergin:
Devo/ Gut Feeling


Dan Matter:
album Leaf/ Hungry for a holiday
Grauzone/ Traeum mit Mir


Alessandro Magnami:
Sophia/ Oh my love


Outro: Stiller Has/ Faederliecht


トレイラーもどうぞ。