これ僕.com:行動分析学マニアがおくる行動戦略

意図と行動のギャップから生じる「不自由さ」への挑戦。果たして僕たちに自由はあるのか?

システムシンキング

エンジニアマインド Vol.3

エンジニアマインド Vol.3

再びエンジニアマインド。次はシステムシンキングについて。エンタープライズアジャイル化計画の次にこの記事がくるのが秀逸すぎ。エンタープライズアジャイル化計画がWhat、システムシンキングがHowじゃん、みたいな。

ロジカルシンキング

要素分解

まずはロジカルシンキングから。ロジカルシンキングは、因果関係を中心に物事を考える。つまり原因と結果の相関関係や時間的順序。何かの問題を取り扱う場合、対象の要素分解を行う。記事の例をそのまま使うと、

2002年の東京の法人タクシー市場は約4400億円で、約2万8600台のタクシーが稼働している。
利用者は年間3.5億人。タクシーは二人の運転手が交代で運転し、その稼働時間は1日当たり約20時間。

であり、要素分解してみると

売上高4400億円
 |
 +--> 台数2万8600台
 |       ×
 +--> 1台当たり売上1552万円
         |
         +--> 日数365日
         |        ×
         +--> 1日当たり売上4万3000円
                  |
                  +--> 稼働時間20時間
                  |       ×
                  +--> 1時間当たり売上2150円

となる。ただ、これだけではあくまでも事実の分析。ここから論理的に思考を進めていくことになる。

演繹・帰納的思考

演繹的思考とは、「観察された事実」と「一般論やルール」に基づいて結論づける考え方。帰納的思考とは、複数の事象の中から共通の性質を見つけ出し、一般論を導く考え方。これらを駆使して、事実から論理的に推論を導いていく。

MECE思考

演繹的思考と帰納的思考を組み合わせて、課題に抜けや漏れがないかチェックする。これをMECE思考という。

3Cと5Force

課題発見の方法として有効なのが3Cと5Force。戦略について考察するなら3C。3Cとは、

  • 顧客分析
  • 競合分析
  • 自社分析

である。業界の競争の構造について考察するなら5Force。5Forceとは、

                    新規参入の驚異
                          ↓
仕入れ先の交渉力  → 既存競合の力関係 ← 顧客の交渉力
                          ↑
                     代替品の驚異

のように、業界の構造が大きく変わるときは「業界の力学」に作用するような「5つの力」のいずれかが働いているときである、とする考え方。

課題発見に使えるロジカルシンキング

以上のように、ロジカルシンキングは課題の発見には有効である。しかし、課題の解決に使うには少々問題がある。

システムシンキング

記事の例では、タクシー業界の問題は「乗車率の低さ」にあり、それは「運賃体系」と関連があるところまでを、ロジカルシンキングで導き出しています。となると、考えられる対策は主に2つ。

  • 料金を上げて、実車率が低くても売上が高くなるようにする
  • 実車率を上げるために値下げをする

しかし、これらの対策には矛盾がある。料金を上げれば乗車率が下がるかもしれないし、逆に値下げをして乗車率が上がっても、それに見合った売上になるとは限らない。あるいは乗車率が伸びてくるのに時間がかかるかもしれない。これらはロジックツリーからは見えてこない、「時間」という要因の影響である。この「時間」という要因を考察の対象に入れるのに適した考え方が、システムシンキングである。

7つの学習障害

「時間」という要因を考察の対象にいれることができなければ、対策は近視眼的で短絡的なものになる。企業は短期的な考え方を元に行動を決定し、そして多くの失敗を残しているにもかかわらず、学ぶことができないのは何故か。7つの原因があるらしい。

  • 自分責任範囲にしか興味を示さない
  • 敵は外部にあり
  • 「積極的に対応することは良いことだ」という幻想
  • 出来事のレベルに囚われる
  • ジワジワした変化には気づかない
  • 原因と結果が離れている場合には「経験から学ぶ」ことが難しくなる
  • 経営陣は全て有能であるという誤解
3つの課題

7つの学習障害は、3つの課題に集約できる

  1. 問題を捉える視野の狭さ・不適切さ
    • 自分責任範囲にしか興味を示さない
    • 敵は外部にあり
    • 経営陣は全て有能であるという誤解
  2. 事象や現象のみに囚われた対応
    • 「積極的に対応することは良いことだ」という幻想
    • 出来事のレベルに囚われる
  3. 「時間」の考察不足
    • ジワジワした変化には気づかない
    • 原因と結果が離れている場合には「経験から学ぶ」ことが難しくなる

これら3つの学習障害に対処するのに、システムシンキングは有効である。

システム

システムとは

相互に作用しあう要素(部分)の集まりであって、全体としての機能をもつもの

である。例えば、

  • モチベーションは積極的な行動の原因になる
  • 積極的な行動はモチベーションを強化する

という好循環を生むが、一方で

  • 積極的な行動が過剰になると疲れが出て、モチベーションが低下する

という連鎖反応が起きる。この連鎖反応全体を「システム」と呼ぶ。

因果ループ図

システムシンキングでは、このシステム全体を「因果ループ図」で表す。


まずリンク。リンクとは、2つの要素の因果関係を表すもので、矢印を使って表記する。原因と結果が同じ方向に動く場合は、単に矢印でつなげるだけ。反対方向に動く場合は、矢印にマイナスをつける。

原因 ----------------> 結果


モチベーション -------> 積極的な行動

                   −
疲れ ----------------> 積極的な行動 


で、拡張フィードバックループ。互いに連鎖し、強化しあう関係がループ全体に循環している状態。ホントは矢印がグルッとRの周りを回っているような記号で表す。

+-->モチベーション -------+
|                         |
|          (R)            |
|                         |
+-------- 積極的な行動 <--+


で、バランスフィードバックループ。お互いの要素の変化方向が、互いを打ち消し合うように作用する状態。ホントは矢印がグルッとBの周りを回っているような記号で表す。また、変化が到達するまでに時間がかかる場合は、"||"で「時間の遅れ」を表す。

     −
+------>      
|   +-->モチベーション -------+
|   |                         |
|   |          (R)            |
|   |                         |
|   +-------- 積極的な行動 <--+
|                  |
|       (B)        |
|                  |
+------ 疲れ --||--+
因果ループ図のメリット
  1. 複数の因果関係を扱うことができる
    • ロジックツリーによる要素分解では扱いにくい
  2. フィードバックを扱うことができる
    • 結果が原因にも作用する状況を示すことができる
  3. 思考に「時間」の概念を取り入れることができる
  4. 事象を含むモノゴトの全体像を4つの階層に分けて考察できる
    • 「事象」のレベル
      • 目の前で起きている現象のこと
    • 「パターン」のレベル
      • 事象が時間と共にどのような変化を示すのか
      • システムシンキングを実践する際の起点となるパターンが幾つかある
    • 「構造」のレベル
      • パターンから見えてくるシステムの構造
    • 「メンタルモデル」のレベル
      • 上記3つの基礎概念
      • 私たちが暗黙の内にもっているモノの見方や考え方
      • 知らず知らずのうちに行動に大きな影響を及ぼす

ここから先

雑誌上の記事では、この後、典型的なシステムの型が3つ紹介されている。型を使うことで、3つの学習障害のタイプに対処しやすくなるらしい。また、システムシンキングを一歩進めて、シナリオシンキングというのも出てくる。希望的観測を排除して、なるべく客観的に未来を洞察し意志決定に役立てるというもの。これらも面白かったので、興味があれば是非一読されることをオススメします。図がいっぱい出てくるのでBlogでは書きづらい・・・。