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旋律的 林巧公式ブログ このページをアンテナに追加

2007-06-25 ラムチョップ(林襲)

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銅鑼湾(コーズウェイベイ)の居酒屋“一番”


「ラムチョップっていうのはね、私の名前なの」

 鬼沢はますますわけがわからなくなって女をみた。とにもかくにも日本人であるらしいことが、救いだった。

「ラムさん?」

「ええ。香港ではね。日本ではハヤシシュウ。森林の林に、襲うって字。広東語読みをするとね、林襲(ラムチョップ)なの。だから、香港では私はラムチョップ」

「じゃあ、日本人なんですか?」

「そう。もう香港暮らしが永いけど」

 ラムチョップは手酌で日本酒を猪口に注ぎ、カッパ巻をつまみはじめた。彼女は常連客らしく、カウンターの内側にいる美形の男の子とも顔見知りで、広東語でお喋りをはじめた。そうしていると、まるで香港人のようにもみえた。鬼沢はしばらくひとりでぽつんとカウンターの向こうを眺めていた。ラムチョップのお喋りがひと段落したところで、鬼沢はふと思いついて、彼女に訊いてみた。

「あの、ポッカイって、わかりますか?」

「ええ。でも、どうして?」

「ここへ来る途中、ポッカイって、罵られたんです」

「まあ、PKされたの? かわいそうに」

「ピーケー?」

「そうよ。ポッカイの頭文字。ええと……」

 ラムチョップはカウンターの内側の男の子に広東語で何かいった。すぐに彼は紙とボールペンを持ってきた。その紙を受け取ると、“仆街”と美しい字で書いた。

「これがポッカイ」

 鬼沢はしげしげとその漢字をみたが、意味はさっぱりわからない。

「仆はね、倒れ死ぬ、ってこと。街はね、ここじゃ道って意味で、いってみれば道端ってことなの」

「道端で倒れ死ぬ?」

「日本語なら、くたばりやがれ! とか、野垂れ死ね! って、まあそんな感じの呪いのことばね」


……「亜洲魔鬼行」より