幸田文ーおとうと
第23冊目は、幸田文に戻って、「おとうと」を紹介します。
この「おとうと」ですが、木村拓哉でドラマ化もされたそうですね。私は見ていませんが・・・
不仲な両親の間で、少しずつ親離れしていく思春期の弟と弟を見守る強い姉を描いた作品です。
不仲な両親は再婚した実の両親、姉は幸田文がモデルになっていると思います。
この「おとうと」ですが、人物描写に関する文章が素晴らしいです。例えば、主人公の姉の性格を述べる文章。
『きょうのことが無事に済んでしまえば、ほっとしてあすのことには思い及ぼさないのんきなところがあった。げんはそこが利口なようでばかな娘なのだと云われていた』
そして、弟が話す台詞。
『平凡だよね。平和だよね。どこにも感激するような事件というものはない。でもね、そういう景色、うっすらと哀しくない? え、 ねえさん。おれ、そのうっすらと哀しいのがやりきれないんだ』
『ねえさんはほんとにお人好しだから、抜けてるところがあるにはあるよ。でもおそろしく頑固だよね。だからお人好しのところをひっこめておいて、頑固だけ出していれば、きっとうまく行くよ』
物語は弟がいろいろな事件を起こし、姉がはらはらし、カタストローフへと続いていくのですが、途中でたびたび二人しかいない姉弟を実感するのです。
人が変わるという伸びしろ、芯のところはぐっと固いけれど、周りの殻がうにょっと伸びるのはこんななのかと思わされる小説です。
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