妖婆の家/セス・ホルト監督
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ロバート・アルドリッチ監督『何がジェーンに起ったか?』、『ふるえて眠れ』同様、ベティ・ディヴィスが妖しげな女性を演じている。
イギリス上流階級のある家庭。その十歳の息子ジョーイは、幼い妹スーザンを溺死させた疑いで、二年間ある施設と入れられていた。彼は、年配の女性を異様に毛嫌いする。実家で彼を待つ、「ばあや」を特に。この「ばあや」、ジョーイの母親の代から彼らの家に仕えてきた老女で、ジョーイも、スーザンも、この「ばあや」に育てられた。
しかし家に帰ったのち、ジョーイの悪戯は洒落ですまないほどにまでエスカレートしていく。そしてジョーイはしきりに主張するのだ。「ばあや」がスーザンを殺し、自分の生命も狙っていると。しかし「ばあや」はあくまで使用人の立場を崩さず、ジョーイにも礼儀正しく接する。その様子は、優しく完璧であればあるほど、観客の目にはうさんくさく感じられるのだ。
さて狂っているのは、ジョーイなのか、作中でほとんど名前を呼ばれることのない「ばあや」なのか。
一九六六年に制作された映画で、現代人から見ればストーリーもおとなしいほどだが、なかなかの迫力がある。特に「ばあや」が本当に狂人なのか、あるいは粗暴な少年ジョーイの妄想なのかという一つのネタで、良く引っ張る。
結局のところ、「我が子の面倒を見る時間を削って、他人の子の面倒を見て生活をたてるしかなかった階級の女性が、主人達の目を盗んで我が子の亡骸を見に行ったとき、主人の娘が溺死してしまった。そしてその罪を隠すため、身分が上のものたちに牙を剥くという階級闘争の物語」という恐ろしく、哀れな物語である。最後がやや尻切れトンボな印象を与えるのが残念だった。
原作は早川書房ハヤカワ・ポケット・ミステリから『バニー・レークは行方不明』が出版されているイヴリン・パイパー。あれも全編不安感と緊張感に満ちた、よい作品だった。もっと翻訳されて欲しかった、イヴリン・パイパー。
- 作者: イヴリンパイパー,嵯峨静江
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