FAIRY TALE

ハンドルネームは八尾の猫です。耽美と翻訳ミステリが大好きです。旧ブログはhttp://d.hatena.ne.jp/hachibinoneko/、メールアドレスはaae22500@pop21.odn.ne.jpです。

ロルドの恐怖劇場/アンドレ・ド・ロルド

 アンドレ・ド・ロルド『ロルドの恐怖劇場』という作者名と著作名を眺めていると、字面が似ているせいか、ロアルド・ダールの名アンソロジー『ロアルド・ダールの幽霊物語』がふと脳裏によぎる。
 アンドレ・ド・ロルドは20世紀初めのパリで人気のあった恐怖演劇グラン・ギニョル座の劇作家だ。この著作と『ロアルド・ダールの幽霊物語』とは恐怖を描いた短編集だということは共通しているが、ただし作家の国籍は違い、趣はだいぶ異なる。『ロルドの恐怖劇場』はその名前の通り、幽霊ばかり出て来るが、『ロルドの恐怖劇場』は超常現象を扱った話はほとんどない。
 血なまぐさく、人生の不条理さを描いたものが多く、そしていかにもフランスらしく恋愛をシニカルに描いたものも見受けられる。洋の東西を問わず、恐怖を扱った創作物の舞台に選ばれやすい病院物も多いのは、作家の父親が医師だったというところから来ているようだ。
 平岡敦はあとがきの中で、ロルドの経歴を紹介するため、『怪奇文学大山脈』三巻の荒俣宏の文章を引用し、医師だったロルドの父が息子を同じ医師にしようと、「死体を見ても動じない子にするため、勤務する病院の死体置き場に連れていった」というエピソードを挙げているのだが、このエピソードそのものが結構な恐怖譚のように感じられる。息子は死や死体に動じないばかりか、魅せられ、血と悪夢を描く劇作家となった。
 上質の酒のような味わいを持つ恐怖物語集。後味の悪いお話ばかりである。

↑傑作アンソロジー。色んな幽霊小説が読まめますよ。