4コマ表現の可能性の一つがここにある『鳥取砂丘 / G専ラフスケッチ』

近況、血圧が高いです。マジでマジで。


近況はシンプルに。今回はきららでも活躍した鳥取砂丘先生の最新作『G専ラフスケッチ』を紹介。なのさ。

宮本史子は未来のゲームクリエイターを目指し、専門学校に入学。
都会にドキドキ、風変わりなクラスメイトにドキドキ。でも楽しい毎日。
ほっこり、ゆったり、でも少しずつ確かに夢は形になっていくようで♪

どうでもいいですが、このタイトルを考えると『G戦場ヘブンズドア』が浮かんでしまいます。ええ、全く無関係。それにしても『G戦場ヘブンズドア』は名作ですよね。漫画漫画(漫画内で漫画を書く漫画)では最も名作だと思っています。


鳥取砂丘の作家性
最近、4コマ漫画家各々が持つ「作家性」というものを強く意識します。青春であったり、ギャグであったり、エゴであったり、4コマ漫画は4コマとして成立させ雑誌の一部として成り立つように「ストーリー性」が欠如気味であるため、それをフォローするかのように些細なオチであれその作者が表現したいものが色濃くでていると思います。
私は鳥取砂丘先生を"ファンタジーの人"と勝手に思っていました。前作の『境界線上のリンボ』は人種差別やRPG的要素を織り交ぜた高密度のファンタジー4コマであり、特に前例のない作家さんがこれだけ荒削りながら完成された世界観の4コマを書いたことが凄まじいとおう印象を受けていました。
今作は前作にあったような硬派な部分はありません。全体的にマイルドに構成されており、イラストにしても話作りにしても、ゴツゴツした部分や尖った部分は排除されています。nanoエースの読者へ「気楽に読める4コマ枠」を提供するためか、対象年齢も意図的に低めに構成されているのではないでしょうか。角川の4コマは『しるば.』『らき☆すた』と重い部分は排除した4コマが多い印象があるだけに。専門学校生は社会人の予備軍ですから、もう少し大人だったり、現実的な辛さが垣間見えてもいいと思うんですけどね。
桜玉吉の『防衛漫玉日記』の「代々木アニメーション学院にしよう!」の回とか『桜玉吉のかたち』の予備校時代の話を読むと、結構チャラチャラした夢追い人の雰囲気があるので案外そういうものなのかもしれませんけど。
その部分はさておき、これだけ楽しくもおかしい「青春」を書ける作家さんだとは思いませんでした。前作のファンタジーはあくまで世界観に過ぎなかったのだな、と。思えば、前作も作品の根底を支えてたのはフゥ、先生、そして街の人たちとの交流でした。鳥取砂丘先生の作家性を一つ言葉にするなら「人と人との繋がり」なのだと思います。今作でも自主性、独自性の足りない子供たちが、経験を通して大人になる、というのが上手く描かれていると思います。
長期連載でようやく夢とか方向性が提示される4コマありますけど、序盤からその方向性を提示していく4コマが少ないからこそ印象を受けるのでしょうけど。「夢の谷間」を舞台にした4コマが少ないですからね。学園4コマは「卒業」「進学」がゴールでその先を提示しないケースが多いです。進学の意味を提示する『Good Morning ティーチャー』みたいな4コマもありますが。


まぁ、普通に語ろうぜ
今作はひたすらポップでポジティブ。「普通に面白い。」というのが感想です。キャラクターも完成されていて非の打ち所がない。クリエイターを目指すということで、他の漫画だと『美大道』『GA-芸術科アートデザインクラス-』なんかが同系統で浮かびます。方向性は異なるものの山田玲司美大受験戦記 アリエネ』なんかが同系統の空気を感じます。アリエネ面白いですよね。単行本化マダァッァl!!
全体的に漂う「未熟者」感が好きです。ゲームクリエイターを目指す、ということで名字は全て著名なゲームクリエイターから取られています。小島、宮本、堀井、遠藤、湯川…。そのクリエイターの名を持つ主要キャラ達。宮本さんの楽しいものにすぐ飛びついて現実見えてない感、小島さんの厨二病的で現実見えてない感、堀井さんの漠然とした目標しかないからビジョンがボヤけていて現実見えてない感…この漫画現実見えてない人ばかりやないか!!! その歪感が面白いんですけどね! 一番年下の遠藤さんが一番リアリティ主義なのも歪ですよね。



面白い表現なのが、大コマを使うこと。定型的なコマ割以外で表現する、というのは非4コマ誌ならでは。

なにを表現すればいいか分からなかった堀井さんが仲間達の「楽しい」に触れ、自分が表現したい物に気づく、"私の楽しい"の1本では星を見上げるぶち抜きでの表現。4コマ史に残る名表現だと思います。同エピソードでのモノグロでの5人の表現も素晴らしい。こんな芸術的な表現が出来る4コマ作家さんは殆どいないと思うんです。『リンボ』での表現力がこういう形で発揮されるのは素晴らしい。


鳥取砂丘さんは「どんな作品を描くのだろう」というワクワク感が凄い。大人向けの作品も見てみたいです。と、いうわけで今回はここまで。また次回。