自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【59冊目】ロバート・F・マーフィ「ボディ・サイレント」

ボディ・サイレント (平凡社ライブラリー)

ボディ・サイレント (平凡社ライブラリー)

腫瘍が原因で身体麻痺となった人類学者が、その進行の経過を振り返りつつ、現代の社会(特にアメリカ社会)における身体障害というものの意味や位置付けについて考察した本。

通常、人類学者や社会学者は、自分以外の「客体」である存在(例えば未開の民族、異国の風習等)を研究対象とする。そこでは、研究対象は自己とは別にあり、切り離されているのがふつうである。

ところが、本書は自分自身の身体障害が対象となっており、いわば自分自身が主体であって客体である。研究者としては非常に難しい立ち位置を強いられているといえる。 しかし、その中で著者は、単なる主観的な身体麻痺の体験記録にとどまらず、身体障害というものの社会的本質にするどく迫っている。

著者は、いっさいの自分の感情を隠そうとしていないが、それでいて安易な感傷に浸ることはなく、研究者としての冷静な視点を決して失わない。いわば、主観と客観が見事に融合しているのである。

現代社会における身体障害というものの困難性、身体障害者の方々が直面しているであろう疎外感と被差別感について、われわれは頭では理解できても、実感として認識することは難しい。彼らはわれわれの隣にありながら、未開のジャングルに住む少数民族に匹敵するほど遠い世界に住んでいるのである。本書は、その世界の住人による格好のガイドブックでもある。特に障害者福祉に携わる自治体職員、身内や友人に身体障害を抱える人をもつ方にとっては必読の名著といえよう。