子犬の目をした小僧の本気


【行商人編】魔力さえあれば・・・




ウツロは走る・・・




試しに剣を振る・・・スパッと大きな木の幹が斬れた・・・
かなり魔力を込めて撃ったのに・・・
もう、魔力が満タンに戻っている・・・



ヤバい・・・今日は負ける気がしない・・・



心なしか・・・足まで速くなってる気がするッ





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目が覚めると・・・縛られて運ばれていた・・・




周りは夜の森だった・・・
枝葉の隙間から、小さな三日月が見えた・・・


エルフ貴族のお坊ちゃんは暴れて抵抗したが・・・
彼らは容赦なく、腹を蹴り上げた・・・
「ぐふっ・・・痛い・・・痛い・・・」


「お前は人質だ、大人しくしていれば・・・命までは取りはしない」



「・・・はん・・・あの厳格なお父様が・・・僕を助けるためにお金を払う訳がないだろう・・・」



「・・・くくく・・・はははははははは・・・」
4人の部下とリーダーらしき男は大笑いする。



「あれだけ『たくさんの護衛』に守られておいて・・・よく言う・・・お前は余程大事にされていて・・・余程弱いと思われているんだろうさ・・・」




・・・
今まで気づかないふりをしていた・・・
わかっていた・・・
お父様は・・・自分の事を・・・



涙がポロポロ流れ出していることに気づく・・・



悔しい・・・力のない自分が・・・悔しい・・・



「こいつ、めそめそと泣き出したぞ」
「ははははっは・・・」



・・
・・・
・・・・



「ッ・・・・ぎゃあああ、痛ぇ・・・足が・・・足が・・・」



盗賊のひとりの悲鳴とともに
乱暴に地面に叩きつけられるのを感じた。


剣を抜く、盗賊たち・・・



戦っているのはたった一人だった・・・
あれは・・・行商人の女の後ろに居た・・・『子犬の目をしていた弱そうな男』・・・ウツロとかいう名前だったか・・・


一瞬で、4人の部下の足を傷つけて行動不能にした・・・



リーダーの男イビキは・・・じりじりと間合いを測る・・・



組み合う剣・・・体格の差を利用してイビキが相手を突き飛ばす・・・
距離が離れた瞬間、鋭い風切りがイビキを捉える・・・寸でのところで『魔法障壁』を展開して防御する・・・


ニヤリと笑う・・・ウツロ・・・


2発ほど風切りを撃ちこむが・・・魔法障壁を突破できない・・・


ウツロ(へぇ・・・魔法の盾みたいなものかな?・・・今ならこれも斬れそうな気がする・・・いや・・・斬るなんて面倒だな・・・)





もっと・・・すごい魔法・・・あの盾を『すり抜けるような風切り』が撃てればいい・・・





イビキ(くそ・・・もっと魔法障壁を中央に集中させないと割られてしまいそうだ・・・あと少し・・・あと少しで・・・左手の『睡眠魔法』を発動できる・・・これで・・・俺の勝ちだッ)





ウツロが剣を振る・・・
その風切りは魔法障壁をすり抜けて・・・イビキの肩口をバッサリ切り裂いた・・・





ぐああああ



上がる悲鳴をよそに、
エルフの男の子はウツロに抱えられ・・・その場から一目散に逃走したのだった。

ウツロ 続かない会話

夕食と続かない会話




ウツロとミラは小料理屋で夕食を食べる・・・




今日は任務帰りで遅くなったので・・・周りの客は まばら であった。




無言・・・




疲れていることもあってか・・・
お互いの食器の音だけが周囲に響く・・・



ミラ「・・・」
ミラは静かに立ち上がり・・・ウツロの傍までやってきた・・・



ウツロ「?」



そして・・・ウツロに抱き付こうとした・・・
ウツロはミラの肩を抑えてブロックする・・・




ウツロ「いきなり、何をする」
ミラ「ウツロ先輩・・・この『無言の空間』に耐えられなくて・・・つい」





『食事中の無言』は恐ろしいことです。
私のトーク力が試されるというか、私の話ってそんなにつまらない?
と恐怖になるというか・・・


ウツロ先輩と会話が続かない・・・


あああああ・・・


もう私には・・・『ハグ』しか残されていないッ
という結論に至りました・・・





ウツロ(なんで、『夕食を食べるだけ』なのにそんなに追いつめられてんだよ・・・)





ウツロ「いいか、ミラ・・・俺は、話すのは面倒だから、無言は嫌いじゃないんだよ」



ウツロ「さらに言うなら・・・俺は他国にいた時が長いから言えることなんだが・・・」




クラスティア王国の食事は・・・とても美味しいんだ・・・



ミラ「?」

肉とか魚とか1日1回は食べれるとか、それなんて天国と思ったほどだったし
行商団の普段の食事とか・・・本当に不味かったな・・・
ああ、思い出したくない、忘れたい



ウツロ「この美味しい食事は『静かに』味わって・・・食べるべきだろう」




ミラ「・・・」




・・・




ミラ「・・・この魚、脂がのってて、おいしいですね」
ウツロ「・・・ちょっと一口もらってもいいか」


そして、なんとなく続く会話









さらに相手が『魔法の書』など片手に暇つぶししてきた日には・・・





・・・



ミラ「・・・私は・・・会話をするのが苦手です・・・」
ウツロ「それで?」




・・・




再び席につく二人




「お兄さん、嬉しいこと言ってくれるねぇ」
周りから沸き起こる歓声・・
く、恥ずかしい



再び食事を食べるふたり・・・
ミラは黙って食事をしていた・・・


ウツロ「・・・」
騙されやすくて・・・助かるな・・・





ミラの力は強い・・・
ウツロは負けそうになるがなんとか押し返す。







私は、こんな時、おしゃれな会話を楽しみ
優雅な男女でいたいんです・・・
でも、なんかいっぱいいっぱいですし・・・