『水域』 椎名誠

水域 (講談社文庫)
椎名誠の出す本の殆どはそれこそもうトイレで鼻をほじりながら左手で書きましたという感じにやる気のなさが見え見えの垂れ流しでありわざわざあんなのをお金を出して買う人の気持ちなどさっぱりわからないと言うかそもそもそんな人はいないと思うのだけれどなぜか本屋にはむやみに沢山並んでいるからやはり買う人は買うらしい。わからん。そんな椎名誠が何かの拍子にうっかり書いてしまった傑作が三つあり、その中でも評価の高いのがこの作品。世界はどういうわけか一面水に覆われていて、主人公ハルは一人小舟で旅をする。まるでウォーターワールドじゃないかと言う突っ込みにはウォーターワールドの方が水域を真似たんだと言いたいが実際どっちがどうなのかは不明。

  ヨコハマ買い出し紀行

ヨコハマ買い出し紀行 12 (アフタヌーンKC)
世界はどういうわけか水に覆われつつあって、主人公アルファは客の来ない喫茶店で一人マスターの帰りを待つ。などと書くと冷たくシュールな気配がするけれど実際はあくまで朗らかな手触り、一種ユートピアなのである。とは言え『水域』と同じく舞台となる世界は何らかの終末後なので生き残る人々はごく少なく、加えて水位はなおもじわじわと上昇を続けているから、世界は間もなく海に沈むだろう。ロボットのアルファは歳を取らないままに、人の世界の終焉を見取る定めにある。そんな彼女を取り巻く朗らかな日常はとても幸せで、だからいつもどこか切ない。