いつも何か勘違いして生きてる
自分の身の程は思ってるほど大きくない。
見た目も中身も他人にとっても大きくない。
だからいつも妄想期待また妄想で勘違いしてしまう。
醒めなきゃ幸せでいられるのにね、幸せで可哀相。
可哀相なことが悲しいのではなくて可哀相だと自覚して哀れむ自分の冷たい目が悲しくて悔しくなるだけで
今日もまたもやもやとしたものを抱えて寝るほかなし。
しなる竹。
朝からずっとまっすぐな雨が降っているので御隠居に会いにいく。
御隠居は二階の掘が見える窓の手摺りにもたれて煙管をぷかりとふかして右手はひと枝の、しなる竹を弄んでいた。
ほの青い外を向いたまま今日も左次はきたのかい、と言った。
御隠居の向かいに腰を下ろして来たよ今日も、傘をやっぱり借りてった、と答えた。
雨が降ると左次が傘を借りにくる、そっと御隠居はつぶやくように言った。
変な人、でも今日も左次さんのかんなの音がするね。
あいつはいい職人だよ、かんなの音が澄んでる、この竹も左次に釣り竿にしてもらおうきっといい竿になる。
御隠居はそう言って竹を掘に向けてしならせて見えない釣り糸をたらした。
いい竿になるね左次さんがつくるから、そう言って聞こえてくるかんなの音をもっと良く聞こうと耳をそばだてた。
雨はまだ降り続けている。