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庄司創のブログ

2011-03-27

感情の社会化

私がここ数年で強く印象に残ったニュースに「小女子予告事件」がありました。わざわざ掘り起こすのも関係者に気の毒なぐらいの小さい事件なんですが。

私もとくに深い情報を知っているわけではありませんし、特にこの犯人を擁護する気もありませんから、以下は憶測をまじえた一般論とさせて頂きますけども……もし私が「小女子を焼き殺す」というスレを立てた人間でしたら、それで刑が軽くなるかどうかはともかく、この犯人よりもいっぱい法廷で弁明すると思うのです。

「私は一部の正義を気取った遊び半分の通報者の跋扈を愛国的な観点から憂えていた」「私の動機は殺人予告でないとわかる状況をふまえてもなお殺人予告として通報する人々に対する風刺だった」「小学校をおびやかした真犯人は、本当は殺害予告を心配していないのにあたかもその蓋然性が高いかのように通報した、遵法性を軽んじた通報者である」「私が警察に期待した対応は、見ればすぐに殺害予告ですらないとわかる文面をもって騒ぎを起こす通報者に対して、道徳的で冷静な対応を諭すことであったが、義憤に端を発した私の行動がこのような誤解を招き、真に残念だ」…とかなんとか。

この犯人が、通報者か警察に対して何かしらの反感を抱いていたことは想像に難くありません。でしたらもう捕まっちゃってるわけですから、その思う所を公にしなければ、腹の虫がおさまらないじゃないですか。

でもこの犯人は(犯行の)目的はない*として心境は語らなかったのです。弁護側が周囲が本気でないと判断すると安易に考え、書き込んだ。と言っているので、いたずらだと認めるから減刑してほしいという作戦だったのでしょう。その結果、警察に捕まるか捕まらないかきわどい文章で勝負し、掲示板の反響が見たいという動機は身勝手。*というストーリーで断罪されます。まあ本当にそうだったのかもしれませんけども、私は被告が退廷時に悔し涙をあくびでごまかしたという説をとります。

いろいろ考えられますけど、私にはこの犯人、最後まで誰にも自分の心を表現できなかったように見えるんです。もし動機から紐解いて弁明すれば、「小女子(こうなご)は魚のこと」という言語上の常識を主張するよりも真実に近づけたんじゃないでしょうか。私はこの状況で彼が心を閉ざした事が重苦しく感じられます。ちょっとダンサー・イン・ザ・ダークという映画も連想しますけども、本心にある問題を表に出せない状況はある種の地獄だと思います。そして、この社会に本心を明かす価値はないと被告に絶望されたような気もいたします。

あなたの問題も社会の問題です

人はべつに大災害などなくても、自分の問題をうまく社会化できない(人と共有して対処できない)閉塞に陥ります。しかもご承知のように、いま心を重くする出来事が山のように起きております。困っている方を助けようとする方々にもお疲れがあるでしょう。それを遠くから心配する方、さまざまな余波で困っている方も平常とは違うと思います。

直接被災された多くの方は現在、なんとか前向きになって進もうとされているでしょう。まだ暖房とか、食事とか、回りの人々との交流とか、とにかく気力をはげますものを少しずつ蓄積しながら回復されるしかない時期ではないかと想像します。

この記事を読まれる方の多くは、ほぼ被害がなかったか、だいぶ落ち着いた方々だと思います。ですがそれでも、まだうまく人に伝えられていない苦しい思いがあるかもしれません。いわゆる「被災者」でなくても、いつのまにか苦しみはたまります。そしてお近くの方にお話されれば親身に聞いてくれると思いますが、もしもここで私がお話を伺う事でお役に立てれば、こちらにコメントをください。


要するに「一緒にがんばりましょう」ということを回りくどく言っているだけですが、理屈っぽいほうが伝わる場合もあるかと思いまして…。日銀震災後、経済の下振れ防止のために金融緩和を行っていますが、人に悩みを打ち明ける基準のほうも、この状況では全国でジャブジャブに緩和されてよいのではないか、などと思っております。

(3/28 一部修正)

mx_ex_cxmx_ex_cx 2011/03/29 09:11 やっぱり庄司さんはその底知れぬ知識(+知識欲)の大海を惜しみなくチラ見せしていくのがいいんだろうなと再確認しました。…惜しみなくチラ見せって意味わかりませんけど。
その昔、小説家が担っていた社会的役割を漫画家・絵師が担う時代はもうとっくに来ているのかもしれませんね。(山藤章二あたりから既にそうだろとか江戸時代からそうじゃねとか難しくて私にはよくわかりませんが)

hajime_shojihajime_shoji 2011/03/29 16:52 ああいえいえ、なんだか過分なお褒めを頂いたようでありがとうございます。
惜しみなくチラ見せっていうのはうまいですね。キャラを見てるだけで元気が出ちゃうとか、暗い子もカードゲームで仲良くなろうぜ!みたいなムーブメントを起こせるところが漫画の強みだとは思うんですが、そういうことも意識しつつ、漫画だけど考えた事を字にしちゃってもいいじゃないか読み物なんだから、っていうことはやっていくと思います。

すずすず 2011/03/30 00:06  こんにちは。
 ファンなのでサイトを探して今日初めてここへ来ました。
 リンクにあった「小女子を魚というのが悪質という裁判官とそれを支持する者は、問題が全く見えていない - kentultra1の日記」を、炎上の様子、その後の本文執筆者の執念深い反論含めて、大体のところ読ませていただきました。
 私は長い文章は書けませんが、まわりくどい理屈を並べられても「冗談でも映画館で『火事だ!!』と騒いではいけない」ということは当然だという感想しか持てません。大多数の人は同じでしょう。だからあのような判決になるし、多くの人はそれに異論がないのだと思います。
 理由は、劇場がパニックになれば暗がりの段差で足をもつれさせて、怪我をする人が出たり、将棋倒しで惨事になったりする恐れがあるからです。
 「あとで話を聞けば(タイトル以外の中身を読めば)冗談だと分かる、だから彼は悪くない」とは思わない。それに尽きるので、被告人も被告人を正当化する執筆者も、やはり相当おかしな人だと思います。
 思うように冗談がウケず有罪判決を下された被告人さんは残念に思うかもしれないし、「冗談の分からない社会」や「冗談を認めない社会」や「冗談を言っただけの人間を寄ってたかって袋叩きにした通報屋たち」を恨むかもしれませんが、申し訳ないですが、それは、身から出たサビだとしか言えません。次からは冗談を言う場所や内容を精査してから発言されることをお奨めたいと思います。
 また、あなたの想像のように、あるいはこの被告人は「冗談を冗談として認めない社会の風潮に冷や水を浴びせるために今回の犯行に及んだのだ」と真顔で言うかも知れないですが、それこそ勘違いも甚だしいです。社会の側の要求として「ここでそういう冗談は禁止します」としか言えないのです。「間に入った通報屋たちが悪い」とかいう問題じゃないのです。「文章の中身を(時間をかけてじっくり)読めば冗談だと分かる」という話じゃないんです。劇場に詰め掛けたお客さんは、被告人の冗談(ないし冗談に仮託した政治的主張)に憤っているのです。ヒヤっとするでしょう。文章の原典にあたって中身を精査し冗談か冗談じゃないか判断することを強いられるでしょう。冗談を装った本気…だった場合…を想像し万一のことを考えたら当然愛する我が子を避難させるでしょう。困るんです。社会の側の怒りを正しく理解してください。いけないことをしたという自覚を持ってほしい。被告人は悪いことをしたのです。正当化できないのです。
 初対面で妙な話をしてすみません。気になったものですから。
 以上のことは、とりあえず置いておいて。
 お仕事がんばってください。あなたの作品、「三文未来の家庭訪問」はとても面白かったです。示唆に富んでいて。次回作をいやがおうにも期待してしまいます。お体に気をつけて。では。

小型猛禽類小型猛禽類 2011/03/30 01:26 初めまして。先生のお名前で検索したら、以前は無かったブログにヒットしまして、偶然辿り着きました。最初にコメントするのは畏れ多いので、機を伺っておりました。
現在、震災の被害からの復興の末席(日本経済を動かすことが復興に役立つというレベルより踏み込んだ程度の)で仕事をしている者として、私も(広い意味での)被災者と問題を共有し、少しでも役に立とうと思いました。

話は変わりますが、私、先生の作品が載っている四季賞ポータブルや本誌を、妻の「本は嵩張るから処分せよ」という圧力(但し、妻も三文未来は大好きで、アフタヌーン一般に対する話ですが)に抗って保管し読み返しております。良い加減ポータブルの表紙が傷んできたので、先ずは初期作品の短編集発売を心待ちにしております。今後のご活躍を祈念いたします。(このブログは更新を控えるとの事ですが、先生が比較的頻繁に更新なさる媒体があれば教えて頂けると嬉しいです。)

hajime_shojihajime_shoji 2011/03/30 04:57 >すずさん
こんにちは。ご感想ありがとうございます。
すずさんと私の常識にはそれほど差がないように思えます。
リンクは事件の経緯の説明として張ったもので、私がkentultra1さんのように考えているわけではないんですよ。被害者のほうに実際どういう事が起こったかというまとめは探せなかったんです。
なので、本当はどういうストーリーだったかという点が気になっておりました。あの判決が不当であるとか、犯人を弁護したいという主張のようにお感じでしたら、誤解です。もしご気分を悪くされましたら申し訳ありません。私の自己弁護に関しては、「私ならこのくらい抵抗する」という話ですし、「理由はなかった」で良かったの?という問いに関するものです。
私はあの犯人にこの世界を否定された気分が強いのだと思います。これは自殺のニュースなどに関しても、私は「それだけの人にこの世界を絶望された」という気分になります。
たしかに私は「だれが被害者を本当におびえさせたのか」という点に関してifの観点でモラル的な疑問を持っていますが、犯人の行為が学校をおびえさせる事は十分ありうると思います。
ま、ただこれはすずさんもご同意いただけるかもしれませんが、「◯×小学校の小女子を焼き殺すというスレを立てたら即有罪で当然」とまで考えているわけではなく、犯人の対応によっては別の処遇もあるべきだったと思います。その点は上記リンクの、通報サービスを提供しているロケスタ社長日記さんに詳しく書かれています。で、やはり本心を述べたら良かったんじゃないかという話になります。
いたわりのお言葉、たいへんありがとうございます。ご期待に応えるべく新作ネームを製作中でございます。

>小型猛禽類さん
はじめまして。コメントありがとうございます。まあまあ、こちらこそ恐縮でございます。
ご夫婦で三文未来を読んで頂いてありがとうございます。ご期待に応えるべくネームを…ごにょごにょでございます。
私のネット活動は全体でも活発ではございませんで、いろんなはてなのサービス(id:sugio等)でたまーに何か文を書く程度です。たぶんご期待にそえないかと思いますが、ひとつよろしくお願いいたします。

すずすず 2011/03/30 21:14  こんにちは。
 私の感情的な文章に対し、考えうるかぎり最高の返信をくださり、感謝いたします。(もっと怒られるかと思いました。)あなたの意見に全面的に賛成です。言い訳がましくなりますが、たしかにあなたの仰るとおり「被告人が悪いことは確か(この点ははっきりしておきたい)だが、不起訴処分相当として釈放にしてはいけないほど悪質な事件であったろうか?」と思う部分もありますね。
 あなたの作品にただよう、人間そのものに対する深いやさしさの匂いが好きです。「三文未来…」をそれこそ何十回も読みましたが、何回かに一回は、今でも泣いてしまいます。「絶望する日は今日ではない」。被災地の人に、このようなメッセージを、心の底に響く形で伝える術はないものだろうか。あなたの作品から私が受け取ったように…気がつくと仕事中でもついそんなことばかり考えてしまっています。

hajime_shojihajime_shoji 2011/03/30 23:26 お返事ありがとうございます。いえいえ、きちんとしたご意見だったのでむしろ、すずさんが感情的にご不快だと決めつけたらまずいぞと思っていました。
あとこの記事は前フリでいろんな問題が満載な事件を取り上げたため、分かりにくくなっちゃったなとは思っていたんです。「平和時でも感情の社会化ができず苦しんだ人」の例がですね、そういう人は本心を語らず仕舞いだからかもしれませんが、なかなか思いつかなかったんですよね…。
まあ、何十回も読んでいただいたとは、しかもそんな美しいお心で、恐縮です。恥ずかしー!!

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