社説:核燃サイクル 核抑止は論拠にならぬ2012年09月12日<毎日新聞

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社説:核燃サイクル 核抑止は論拠にならぬ
毎日新聞 2012年09月12日 02時32分
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◇全文引用

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 政府が今週初めを目指していた新たなエネルギー・環境戦略の策定が先送りされた。「2030年代の原発ゼロ」を目標に掲げることの是非などをめぐり政府・民主党の最終調整がついていないためだ。野田佳彦首相は週内には方向性を決めるとしているが、説得力のある工程表に基づき将来の「原発ゼロ」を明示するよう改めて求める。

 新たなエネルギー戦略の議論では核燃料サイクルの位置づけも大きな焦点になっている。

 使用済み核燃料からプルトニウムを取り出し高速増殖炉で燃やす核燃料サイクルを完成させることは、日本の原発政策の要となってきた。だが青森県六ケ所村の再処理工場は当初の97年完成予定が18回にわたって延期となり、コストは3倍近くに膨れ上がった。高速増殖原型炉「もんじゅ」(福井県敦賀市)も火災など度重なるトラブルで実用化のめどは全く立っていない。

 将来が見通せない核燃サイクルは実現性、経済性、安全性からいって幕引きが望ましい。東京電力福島第1原発事故を受け長期的に原発ゼロを目指すのなら、維持する必要はいっそうないだろう。

 こうした中で、核兵器を開発・保有する可能性を将来にわたって残しておくためにも、プルトニウムを使う核燃サイクルは維持すべきだとの意見がある。いわゆる潜在的核抑止論だ。しかし、これもまた説得力のある議論ではない。

(2)


 日本が核兵器を持つことは核拡散防止条約(NPT)体制の否定を意味し、北朝鮮のように国際的な孤立を招くことになる。エネルギー禁輸などの制裁を受ければ、資源を海外に頼る日本は生きていけない。狭い国土で核実験は困難だし、核の傘を提供している米国は日米同盟の否定と受け止めるだろう。アジアの核軍拡にもつながることを考えれば、日本の核武装がもたらすマイナスの影響は計り知れない。

 それでも、日米同盟が永続する保証はないし、将来の核保有を選択肢として残しておくだけでも外交カードになる、との主張も根強い。核燃サイクルからの撤退はそうした潜在的な核抑止力を失うことを意味する、という反対論が日本の政治家や外交当局にあることは事実だ。

 ただ、不確定な未来の国際軍事環境に備えることが、核燃サイクル維持の決定的な論拠になるとは思えない。日本は潜在的な核抑止にこだわるより、核保有国にはならないことを明確にして核軍縮を先導する方が世界の信頼を得られるだろう。核燃サイクルの是非は、防衛政策ではなくエネルギー政策の観点で現実的に判断すべきである。



(ブログ)福島原発事故と放射能汚染 そしてチェルノブイリ地方の現状