ヴェルディ「ファルスタッフ」について

そもそも私はオペラが好きといっても、どちらかとうと喜劇が好きである。しかし実は「喜劇は悲劇より難しい」とは、俳優、演出家をはじめ演劇関係者でもよく言われることであるが、オペラでも同様で、オペラの喜劇の傑作は悲劇ほどは多くない。ワーグナーも喜劇は1つだし、ヴェルディも事実上この「ファルスタッフ」1つといって過言ではない。(手元にあるオペラ紹介の本には約170のオペラが紹介されているが、喜劇は一割強である)
しかしこの作品のなんと見事な事か。80歳の彼が、それまでの自身の音楽技術の粋を集めたといっていい出来栄えで、それまで、ワーグナーに対する対抗意識と影響から、いわゆる伝統的なイタリアの番号付きオペラを改革してきた彼の最終的な完成作と言える。美しいメロディ、喜劇的内容にあった音楽展開、(いわゆるどんぶりまである)重唱の複雑な絡み、最後はなんとフーガで締めくくられる。

ヴェルディ歌劇「ファルスタッフ」

二期会公演(1982)NHK放映
小澤 征爾指揮 新日本東京フィルハーモニー交響楽団
ファルスタッフ」といえば忘れられない映像がある。NHKで放映されてTV音源をテープに落としてよく聴いていた、日本語翻訳による上演。基本的に私は原語派だが、この公演はメロディに合うように実にうまく翻訳されており、喜劇という事もあって大変おもしろかった。やはり重唱になると日本語は意味をなすために音節が多く必要なので、聞き取れない部分もあったのだが、1幕のドタバタ騒ぎなど、日本語だとめちゃめちゃ面白く、よく口ずさんでいたものだ。日本語オペラもそう悪くないな、と思ったものだった。当然映像発売などないんだろうな。ちなみにそのテープはもう手元には無い(涙)
ちなみにうろ覚えだが1幕のセリフ
医者のカイウスが、ファルスタッフと従者のバルドルフォとピストーラが屋敷をあらし、その上酒場で自分を酔いつぶして金をとった、とねじ込んでくるシーン。
ファ「だ〜が女中は無事だ」
カ「そうでしょうよ、あんな、ばあさんだからな」
中略
ファ「ピストーラ」
ピ「へい大将」
ファ「こちらの金をとったのは、おまえ〜か」
カ「どちらか〜だ」
中略
バ「中略 へべれけーに酔いつぶ〜れ、机のした〜で見た夢〜を、話してるんじゃねえでしょうか(笑)」
ファ「どうだ、おわかり〜かな、真実はいささ〜か、ちが〜うようで〜すな。おひきと〜りを」
カ「わかった!
  これから酒を飲む時に〜は、まじーめで、じょーひーんで、きよーい、ひとーーーーーーを、えらーーーーーーーぶ」
バ&ピ「アーーーーーーーーーーメン」
ファ「シ!
   教会じゃないんだぞ、賛美歌なぞよせ!」

うーん、やはり音楽と映像が無いと伝わらないな。