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2004-02-01

青色LED訴訟地裁判決の批判の仕方

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今回の地裁判決は多方面で驚きを以て受け止められているようである。批判的な意見も少なくなく,私自身も検討の余地はあると思うのだが,判決を批判する場合着眼点について職業病的な指摘をしておきたい。一言で言えば,立法論とは区別した批判をすべきということである。

  • 単独で存在する技術などあるわけない。金にならない多くの基礎研究実験技術に支えられて成立する訳で、儲けた金すべてがその特許研究に直接関わった方だけではなく、それを支えた基礎の部分を考慮に入れなかった裁判所の判断には疑問を抱かざるを得ない。gobbledygook・1/31

確かに今回の青色LEDに関する特許も,多くの基礎研究に支えられていたであろう。しかし,特許とはそもそもそういう制度なのである。いかに先行技術恩恵を受けようと,特許権を得た者がその恩恵を独占するものなのである。現行制度上は,特に重要な貢献をした人物が共同で特許権者になり,特に重要な先行研究が先行特許として保護される限度で,恩恵の分配に預かれるのである。

したがって上の議論は,今回の判決に対する批判ではなく,特許制度自体に関わる立法政策の問題を提起するものであるように思える*1

これも上と同じことである。ニュートンアインシュタイン理論とて,それが特許という形で存在すれば,中村氏も対価を払わざるを得ない。しかし,残念ながらこれらの理論特許権は認められない。ゆえに,現行法上は,中村氏に対価を支払う理由はないと言わざるを得ない。

そもそも,中村氏のみならず日亜も,ニュートンアインシュタインに対価を支払っていない。つまり上の批判は,中村氏に対する批判としても失当であると言えよう。

この点は,確かに他でも良く指摘されることであり,一般人感覚としても違和感があり,産業政策としても議論のあるところであろう。しかし,何故か現行法は「発明してしまったらそれは自分だっていう」ことにしてしまっているのである(特許法35条)。

したがって,中村修二氏の請求は現行法上の正当な権利行使と言わざるをえず,この点に対する違和感判決の問題ではなく立法論として解決すべきものである。

ちなみにこの点はよく誤解されるところで,以下のコメントもこれが特許法35条の問題であることを認識していないのであろう。

文系社員のこのような主張は現行特許法35条が認めるところではなく,この判決とは全く関係ない話なのである。


以上のように,引用の批判が立法論を含むものであれば*2,これは判決批判としては筋違いになる。なぜなら,裁判は現行法に基づいてなされるのであり,仮に悪法であったとしてもそれに則った判決を出さざるを得ないからである*3悪法に対する批判は国会に対してなすべきものなのである。

そして判決に対する批判は,法解釈論か事実認定の観点からなすべきである。今回の場合事実認定が肝である思われる*4。すなわち,判決は「相当の対価」を以下のように算定している*5

(1) 平成9〜22年の青色LEDの推定売上高   1兆2086億0127万円

(2) 当該特許により増加した売上高   (1)×0.5

(3) 当該特許を他社にライセンスしたと仮定した場合実施料率   20%

(4) 当該特許を独占した事による利益   (2)×(3)=1208億6012万円

(5) 当該特許に対する中村氏の貢献度   50%

(6) 相当の対価   (4)×(5)=604億3006万円

しかし,(1)はともかく,(2)や(5)の根拠は何であろうか*6業界の方であれば(3)の数値が妥当かという点もチェックできるであろう。あるいは,そもそもこの算定式自体が合理的なのか。

こういう点をチェックするのが正当な判例批判と言うべきであろう。おそらく,200億円だとか600億円だとか,数字を一人歩きさせているマスコミ姿勢にも問題があるのであろうが。


(追記1) 注釈中で指摘しておいたことなのだが,この点も誤解が多そうなので本文に格上げして指摘する。

これに限らず,裁判所原告の主張以上の価格を認定したという誤解が散見する。しかし,原告の主張する「相当の対価」は3357億5300万円であり,そのうちの200億円をとりあえず請求しているに過ぎない。つまり,判決原告の主張を,その6分の1しか認めていないのである。



(追記2) id:akisaito氏からレスを頂きました。

はい,おっしゃるとおりです。私が早合点した点もあるようで,筋違いな批判になっていたら申し訳ありません。

ただ,上の文章を書いた主要な動機は「立法論により判例批判をすること」に対する非難ではなく「立法論と判例批判を区別しない思考」に注意を喚起したかったということにあります。その点では,akisaito氏も認めていらっしゃるとおり,なお意味のある意見であると考えています。

いや,職業病みたいなものなので勘弁して下さい(^^;.



(追記3) id:adramine氏からレスを頂きました。

  • いやだから、基礎研究で大儲け出来るような特許というモノは非常に希有な存在で、そちらの方に金が廻らなくなるような今回の判決は一研究者として疑問というか懸念というか、イロイロ考えるところがある。gobbledygook・2/2

いえ,私はadramine氏の上のような意見の内容自体に反対している訳ではないのです。私の議論の趣旨は「そのような批判は判例批判でとしてはなく,立法論としてなすべきではないか。あるいは少なくとも両者を区別すべきではないか。」というものなのです。

つまり判例批判としては,レスの中でadramine氏が実際になして下さったように,下のようなツッコミを期待しているわけです。

  • が、やはり算出式に疑問を抱かざるを得ない。・・・(中略)・・・という算出式全てに於いてツッコミが入る。・・・(中略)・・・つまり、算出式が理解できないわけですよ。gobbledygook・2/2

おっしゃるとおり,判例どんぶり勘定です。これは改善すべき点でしょう。ただ,ではどうすれば良いかというと,これが難しい。金額を立証できない以上,立証責任の分配法理に従い請求棄却と言い切ってしまうのも現実的でないですしね(特許法105条の3参照)。

あと,一応,以下の点を指摘しておきます。

職務発明場合特許法35条が強行法規として適用されるので,契約を交わしておいてもあまり意味がありません。そのため,特許法35条を改正すべきとの立法論が出てくるわけです。



(追記4) 2005/1/11 控訴審和解したようである。

項を改めて検討するつもりはないが、和解による解決の是非を別にすれば、「和解についての当裁判所の考え」の第4項以下の計算式と地裁判決計算式のどちらが妥当かという問題になろう。

*1:もちろん,後で示すように,その特許に対する寄与度が何%かという議論は必要である。

*2:以上の議論のうちいくつかは「特許法35条の判例解釈は不当な結論を導くから,これを制限的に解釈すべきだ」という法解釈上の主張として読むこともできるかもしれない。しかし、いずれにせよ論点を明確にすべきであろう。

*3:確かに,裁判所立法を制限的ないし拡大的に解釈することにより正義を実現する場合もある。しかし,本件では「正義」の内容に政策的な議論があり,また公害訴訟のような弱者救済の問題も生じないのだから,裁判所が敢えて政治的判断をすべき場合ではないであろう。

*4:法解釈はとしては,従来の通説・判例からみて特筆すべき点はないであろう。

*5:ただし,中間利息等,細かい計算は省く。

*6判決文には,いちおう考慮事項が並べてあるが結局は裁判所裁量である。

YoshinobuMimuraYoshinobuMimura 2004/02/03 22:04 このページにリンク張らせて頂きました。問題あるようならご連絡下さい。

yoseyose 2004/02/07 13:30 勉強になりました。

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