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2004-03-17

長い読みの漢字?

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.問題の所在

かねがね気になっていたのだが,漢字を扱ったサイトで,しばしば「最も長い読みの漢字は何か」という記事を見かける。

これらの記事はすべて*2,「ほねとかわとがはなれるおと(砉)」と「まつりのそなえもののかざり(裋)」を最長の訓と結論づけている。これが疑問である。

端的に言えば,「ほねとかわとがはなれるおと」とか「まつりのそなえもののかざり」などの「長い訓読み」は,「漢字の読み(字訓)」ではなく「漢字意味(字義)」に過ぎないように思えるのである。

.字義と字訓

ここで「字義」とは,中国語である漢字日本語翻訳・解説したもののことである。これに対して「字訓」とは,そのような「字義」を前提に,その漢字の読み方として日本で使われるようになった読みを言う。例えば,「磨」の意味は「砥石で擦る」であるが(字義),これを日本語として読むときは簡単に「みがく」などとなる(字訓)。

そして,「字義」というものは,漢字の解説なのであるから,いくらでも長くすることができる。例えば,「犬」という漢字の「字義」は,単に「いぬ」とされることが多いが*3,「食肉目イヌ科の哺乳類で,古くから家畜化され,多くの品種がある」としてもいっこうに構わないのである。

また,「字訓」にしても,法律で決まっているものではないから,各人が勝手気ままに作ることが出来る。実際,平安時代の字書『類聚名義抄』などには,「行」という字の「古い字訓」として,「ゆく。やる。いてまし。ありく。あるく。さる。めぐる。つらぬ。おこなふ。つとむ。わざ。しわざ。」などが載せられており(古訓),合計39の古訓を紹介する辞書もある。そして,さらに私が,「ウォーキングする」という「字訓」を作り出したとしても,間違いとは言えないのである。

したがって,「最も長い」を云々することに意味があるのは,「字訓」のうち,時代の淘汰を受け,一般的に認められるようになったもの,すなわち「定訓」に限られる。現在一般に「訓読み」と呼ばれているのも,この「定訓」のことである。

.『大漢和辞典』の「字訓索引

それでは「ほねとかわとがはなれるおと」というのは「定訓」,そうでないとしても「字訓」なのであろうか。これが甚だ疑わしい。このような訓読みを行っている史料存在しないように思う。

確かに,『大漢和辞典』という権威ある辞書の「字訓索引」には,「ほねとかわとがはなれるおと」という項目があり,前掲の各記事も,これを根拠とするようである。

しかしながら,『大漢和辞典』の「字訓索引」を,「字訓」の根拠とすることはできなない。なぜなら,同索引の凡例には,以下のような注記があるからである。

又,くだにまいたいと・くちをうごかす・くろいくちびるのうしの類も字訓として此の中に収録した。

これは要するに,字訓と呼べない類も,検索の便宜上,字訓として扱うということであろう*4

このように『大漢和辞典』の「字訓索引」には,通常は「字訓」と呼ばないもの,すなわち「字義」に過ぎないものが混じっていると考えられるのである。

そうすると結局,「ほねとかわとがはなれるおと」は「字訓」ではなく,大漢和辞典の編者が説明・検索のために作り上げた「字義」に過ぎないという結論になる。

そして,先述のように,「字義」というのは,単なる解説・翻訳に過ぎない以上,別に「骨と皮が離れる音」である必要はなく,「骨から皮が剥がれるときの音」でも「骨と皮膚が離れるときの音」でも何でも良い。

したがって,その文字数を云々するのは全くナンセンスなのである。

(追記・2006年6月4日) ちなみに,『大漢和辞典』を発行している大修館書店のサイトには,「漢字Q&Aコーナー」というものがあり,「Q2034 漢字の読みの中で、1番長いのはどんなものですか? 」という問いに対して,「そもそも訓読みというのは、その漢字意味のことですから、意味を細かく規定しようとすれば、どんどん長くなりえます。」と答えた上,「漢字の1番長い読み、これは終わりのない問題なのです。」としている。この解答は,この記事に示した私の考えを別の角度から表現したものといえ,併せて参照されたい。

(追記・2005年4月4日) ところで,fourthcape氏は「最も長い読み(篆書字典)」で,木耳社刊・城南山人氏篇『説文解字 篆書字典』を根拠に「さいただけでまだふしをとらないたけ」(17字)を最長としている。しかし,これも「字訓」ではなく「字義」に過ぎない。というのも,同書の前書きを読めば分かるように,同書において「訓」とは,「漢字の読み」を示すためのものではなく,「漢字意味」を説明するためのものと位置づけられているからである。そのため,同書も認めるように,「訓になりきってないもの」(p7),つまり「字義」に過ぎないものも,「訓」として掲載されてしまっているのである。

*1:追記:「曉に死す」さんは,この記事に答えて,新たな記事を書いてくださっています。

*2:なお,「さいただけでまだふしをとらないたけ」を最長とする見解については4月4日付の追記を参照のこと。

*3:この場合,「字義」も「字訓」も,同じ「いぬ」となることになる。

*4:もっとも,同凡例には,「訓の無いもの」は「字訓索引」に載せなかったかのような記述もある。しかし,これは「字訓と呼べない類も,検索の便宜上,字訓として扱」っても,なお「字訓」とすべき言葉が無い場合を指すと考えるべきであろう。

f 2005/12/30 22:17 『ほねとかわとがはなれるおと』は『砉』、『まつりのそなえもののかざり』は『裋』とネットで表記できるらしいです。
(表記できないパソコンもあるかも)

hakurikuhakuriku 2005/12/31 12:52 情報ありがとうございます。初出の場面に書き添えることにしました。

ウエダウエダ 2006/01/07 11:46 なるほど参考になりました。トラックバックさせていただきました。

さとじゅんさとじゅん 2008/06/23 23:15 一番読みの長いのは、門偏に人って書いて、「ものかげからきゅうにとびだしてひとをおどろかせるときにはっするこえ」の33文字です。

大谷かな大谷かな 2008/06/24 21:58 骨と皮が離る音って想像できませんねさとじゅんさん

さとじゅさとじゅ 2008/06/25 21:30 そうですね大谷君痛そうですな
べりべりバリバリッ

さとじゅんさとじゅん 2008/06/26 21:32 おい大谷ここは雑するとことちゃうからここではなそ

さとじゅんさとじゅん 2008/06/26 21:35 http://www.kakiko.cc/bbs/index.cgi?mode=view&no=2152】←ここ
皆さん迷惑(?)かけてすいませんでした

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