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半熟-更新日記 このページをアンテナに追加

2017-07-23 遠隔事始 その4 このエントリーを含むブックマーク

遠隔診療についてつらつらと書いてきた。

遠隔事始 1 当院での導入のきっかけ

遠隔事始 2 診療所と病院、どちらがいい?

遠隔事始 3 遠隔診療が導入された場合の影響:移動診療室および遠隔専門医師の存在?

ちなみに、保険診療の遠隔診療については、いわゆる特定疾患加算とかそういうのはとれない。

ではメリットがないのではないか、と思うのだが、これを「選定療養費」という形でカバーするというビジネスモデルをとっている。

* *

「選定療養費」という言葉は非医療者にはなじみがないが、めちゃくちゃざっくりいってしまうと、自由診療保険診療とのグレーゾーンに対する緩和措置みたいなものである。医療においては自由診療保険診療の混在は認められていないのだが、そうはいっても人の世のことだし、ここはソ連でも東独でもないのだから、超富裕層生活保護の方も、全く分け隔てなく同じだと、何かといろいろと具合が悪いわけである。例えば、入院の際に「個室」だと個室料金を取られるが、これは選定療養費の代表的なものだ。

 ここ最近では、大きな病院の外来を紹介状なしに受診すると、選定療養費と称して余分にお金を取られたりする事が多いが、これも「選定療養費」という形だ(これははっきり言ってしまうと受診抑制のためだ)。

遠隔診療は、アクセスを容易にし、完全予約制であるので「選定療養費」をとる、という理屈になる。その分、受診コストは上がると考えられる。

ちなみに診察料含め、支払いはクレジットカード登録をしておき、自動引落しになる。

医療機関にとっては、未収金の発生リスクがおさえられ、またクレジットカードを持てない層のアクセスを遮断する形のメリット(メリットと言っちゃっていいのかどうかわからないが、経営的なことを言うと「上客」が来やすい方が、そりゃいいわけです)がある。

逆にいうと遠隔診療は、すべての患者さんにアクセスしやすい環境ではない。最もターゲットになりうるのがホワイトカラー層、さらにその上のエグゼクティブ層だろうと思われる。

また、ワーキングプアの方々にとっても、平日の受診時間調達コストが高い場合(「休めない」という)は、これはあまりいい状況ではないが、コストベネフィットに見合うのかもしれない。

* *

遠隔診療が普及した場合に、診療を受ける患者側にはどのような変化が訪れるだろうか。

* *

個人的に思っているのは、採血の間隔に対して、自覚的になる可能性が高い、ということだろうか。定期通院している患者さんの場合、採血するかどうかは、実は結構あいまいな根拠で決められている。「今日は採血しておきましょうか」「今日は前回もよかったしやめときましょうか」みたいな感じだが、採血間隔については、ガイドラインなどでも慎重に言及が避けられていて、医師裁量に委ねられている。

現実的に、がっちり毎月採血をされる先生もいるし、驚くほど採血をしない先生もいる。

私は、高血圧や脂質異常の一次予防であれば、年に3−4回の採血でいいのではないかと思うが、この辺のところ、患者さんも、医者に言われるままになんとなく採血したりしなかったりすることがほとんどではないかと思う。

遠隔診療であれば、採血をするかどうかで、患者側の行動が全く変わってくる。遠隔だと在宅で終わるものが、採血があるなら病院にいかなければいけない。つまり採血のハードルが上がる。であるから、医療者としても「なぜあなたに採血をこの間隔で採血をしなければいけないか」ということをきちんと説明しなければいけなくなってくるだろう。

院内で、採血の間隔に関するガイドラインをもうけたり、統一、標準化される流れに向かうだろう。

* *

もう一つは、説明に関するハードルも、多分上がる。

例えば、診察室での対面診療で、資料もない状況であれば、医者・患者間の関係性は、今でも医療側の方が優位にある。

遠隔診療だったら、相手はスマホの画面越しに見えている存在なわけで、権威としての後光は失われるであろうと予想される。本当のイルカには声援を送るが、Windowsのヘルプのイルカがどれだけぞんざいに扱われているか考えるとわかるはずだ。

それに、診察室だったら患者は手元に情報をもてない。でも遠隔診療だと、患者さんだってスマホでやりとりしながらデスクトップのPCで当該領域のガイドラインを読むことだって可能だ。「先生のその決定、ガイドラインと違うじゃないですか」とか言われてしまうことは、多分ありうる。

* *

 上記2つは、いずれも、現在の医療に横溢している、情報の非対称による医療側の優位性を減弱する効果がある。

 それがどれくらいのインパクトがあるかわからないが、普及次第によっては受診行動のスタンダードがかわる可能性があるよなあと思っている。ろくに説明もせずパターナリズムで外来をやっている先生、なんとなく毎月採血してがっつりもうけている診療所に対する淘汰圧が強まるのではないかと思っている。

 だからこそ遠隔診療に対する政策がどのような政治決着をみるのかには多少興味があるのだ。

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2017-07-20 遠隔事始 その3: このエントリーを含むブックマーク

 遠隔診療の本質として、患者さんはどこにいても診察を受けられるというメリットがある。

そして、それを拡大すると、医療側の方も、どこにいても診療を行うことができるかもしれない、ということになるだろう。

 これは現時点では議論されていないが、今後、かなり問題になってくるのではないかと思う。

* *

 遠隔診療については、2017年7月の現時点においては「実際の対面診療を補完するものであり、一度は「対面を診察をしなければならない」という縛りをもうけられている。

 ただ、これも、禁煙外来については「最初から最後まで遠隔診療でいい」という通達も出されたわけだし(その2巻末参照)今後緩和されてゆく可能性は十分あると思う。ただ、それはおそらく「遠隔診療 2.0」みたいなフェイズにおいてではないかと思う。

 私も古い人間ですから「最初から最後まで遠隔」はやはり抵抗がある *1し、自分としてもそこを業務として拡充していくつもりはない。「最初から最後まで遠隔」は、やっぱり現行の医療のあり方からいうと違和感がありすぎるから。

 今回は、対面診察と遠隔診療を混合させた診療形態について考えたい。

 が、現行の法整備でも、幾つか抜け穴が気になるところがある。

医師Aが、B診療所で対面診察をするという形態をとる。遠隔診療の時、医師本人は診療所におらず、院外から遠隔診療デバイスで患者と交信する。診療報酬請求診療所Bで行う」は是か非か。

これが疑問その1。

また「医師Aが、B診療所でリアルな対面診察をする。その後フォローアップの遠隔診療はC診療所で行う」という形態をとることは是か非か。診療所Cで報酬の請求ができるか。

これが疑問その2である。

もちろん、十分な情報共有ができることを前提としてで、ですよ。

 遠隔診療そのものは、ノートパソコンがあればできる。電子カルテとつながっている必要はない。クラウド型のネット接続の電子カルテもあるが、メジャーどころの電子カルテスタンドアローンで、ネットと接続していない事が多い。

 ちなみに、診療所の電子カルテへの記載はDAによる代行入力で多分問題なさそうだ。

* *

 疑問その1については、現在も手広く行われている「往診」という概念を拡大解釈すれば、問題がないのではないか、と考えられる。もちろん往診は患者の利便性を増すし、国の望む診療であり、診療所での診察よりも手厚く報酬がつけられている。「疑問1」の事例については、患者側にはメリットは発生しないので、この遠隔診療は多分優遇はされないだろう。ただ、報酬が認められない、というのは考えにくい。

 もしこれが許されるのであれば、考えられるのは、まずは、自宅にいながら遠隔診療を行う「引きこもりドクター」であろう。請求業務は、事務員にさせればよい。全く問題がない。遠隔診療の事務員用のアカウントに、内容を記載すれば共有はできる。

 そんなの得にならないじゃないか?と思われるかもしれないが、それは個人診療所は一人でやるもんだという先入観があるからだ。例えば診療所に在籍する医師が5人だとしよう。診療所で対面診察を行う日は日替わりで分担を決める。

 もしそうなら、診察室は一つしか作らないで5人の外来診療ができる。残りの日は自宅で遠隔診療をしてゆけばよい。

 シェアリング型の診療所であれば、固定費が劇的に下がり、開業のハードルがさがる。

 診療所の経済学が根底からひっくり返る可能性がある。

 さらにいうと、診療の場を自宅に限定する必要もない。さすがにスターバックスはオープンなのでだめだろうが、コワーキングスペースのブースを借りて、遠隔診療をしたって悪くないと思う。

 僕なら、学会出張のホテルの部屋で遠隔診療をしたい。これも、可能だろう。

 やや極端ではあるが、生活習慣病のフォローを行うDr.で、特に運動勧奨を行うような外来であれば、敢えてオートキャンプ場とかサンシャイン池崎のような格好のスポーツサングラスをしたドクターが、ランニングの途中にスマホから遠隔診療をする(そして松岡修造ばりのアツい指導を行う)みたいな「エクストリーム診察室」みたいなトリッキーな診療が人気を博す時代さえくるかもしれない。 *2

* *

 現行の法制度というのは、医師が勤務する場所は基本的に固定されている前提で法整備されている。遠隔診療はその他の業種でのビジネスデバイスと同じく「ノマド系ワーカー」を可能にする可能性があるが、現在の法制度では、そういう就業形態はフォローできていない。 *3

* *

では疑問その2「医師Aが、B診療所でリアルな対面診察をする。その後のフォローアップはC診療所で行うという形態をとることは是か非か」という話はどうか。

 これは、さらに状況をややこしくするが、もしこれが可能であれば、例えば、僻地診療所の医師も、月に一度だけ東京コワーキングスペース的な診療所に赴き、遠隔診療用の初診外来を行う。その後のフォローは僻地から遠隔診療で行う、という形態のビジネスが可能になるだろう。

 また、マーケット的にペイしない疾患の専門医であっても、ローコストの診療所を開設し、遠隔診療をメインとする(なんなら自宅でもいい)。対面診療は複数のエリアの診療所と契約し、順繰りに巡回する。基本的に対面診療診療所を間借りして行うけれども、フォローアップの外来は遠隔診療で自院で行えばよい。専門に特化した外来の自分の顧客集団を抱えることが可能になる、なんてことも可能だ。

 さらに希少疾病の専門科でなくても、マンションの一室を遠隔診療室として開業する、というのがビジネスモデルになる可能性はある。えーと、まあ、「デリヘル」ドクター、ですね。言葉のイメージが悪いが「ヘルス」そのものですからな。

こういうのが当たり前になると、どうしても、医師の外来のパフォーマンスと報酬を連動させざるを得なくなってくるだろう。今は医師の外来診療の報酬は、時間枠でいくら、という形が多いが、遠隔診療となると、医師個人事業主的な振る舞いを要求されることになる。1人いくらの報酬体系を導入せざるをえないし、間借りする診察室も、場所提供代と、診療報酬分をわけて考える時代になってくると思われる。

つまり、診療報酬の取り分が、場所、医療機関ベースではなく、個人の水揚げベースでみる時代になるだろう。かなりあからさまな形で。

*1:80年代の懐かしのキャラクター「マックス・ヘッドルーム」を思い起こさせる

*2:現在は診療側はPCが必要であるが、技術がすすめばスマホでできるようになるだろうと思う

*3:私は個人病院の院長をしつつ、週に1度基幹病院の専門外来を今も続けているが、これも法律的に多少想定外であることを身をもって体験している

2017-07-16 遠隔事始 その2: このエントリーを含むブックマーク

前回の続きである。

遠隔診療という形態は、病院と診療所なら、診療所の方が向いている。

なぜか。

* *

医療法では、病院の場合、入院人数と外来人数によって医師配置基準が算定されており、それを満たす必要がある。

リンク→<医師の配置標準について

簡単に言うと、入院にしろ、外来にしろ、人数を増やせばそれに応じて勤務する医師を増やさなければいけない。つまり、外来を増やせば、それに応じて医師を増やさなければいけない。要するに、病院の外来診療は、それに見合う単価を保証する必要があるということだ。

診療所なら問題ない。院長一人いれば、100人診ても200人診ても配置を増やす必要はない。3分診療にはなるだろうが、それはまた別の問題だ。繁盛しているから医師を増やすのは、当然ありうる。が、あくまで配置義務はない。これはコスト競争的にかなり有利だ。

遠隔診療は、少ない時間で数多くの患者さんを診察する、という「薄利多売」に向いている。アホほど外来をこなして回してゆくという形態に近い。だから病院では向いていない。構造的にペイラインに乗らないと思う。遠隔診療では単価はなかなかあげられないから。 *1

* *

当院の遠隔診療は、基本的には受診通院をしている人に付帯するサービスとして、という形で考えている。要するに、遠隔だけで完結する診療については想定していない。そういうことをするのであれば、診療所を別に設定し、外来機能を外出しにしてやるほうがいいだろうと思う。

* *

このCLINICSというアプリで検索すれば、いろいろなの遠隔診療の形がみてとれる。

最初から最後まで遠隔診療で完結するようなものも散見される。多くは自費診療だったりする。保険診療外で(つまりは自費診療禁煙治療、AGAの治療薬、バイアグラなどのED改善薬などの販売については、問診と診察で済む。バイアグラシアリスなどは病院に出向くのに抵抗があることも多いので、遠隔診療の強みであるとは思う。

自費診療禁煙外来は5万くらいだそうだ。 *2

* *

最初から最後まで遠隔診療で完結するようなものに関しては、エリアの束縛がなくなるので、シビアな価格競争が今後生じてくる可能性がある。

イケダハヤトではないが、僻地に住んでいれば、生活コストを下げられる分、価格競争でいえば六本木に構えたオフィスより優位にあるだろう。まあ僻地診療は高報酬でもあるから、例えば開業の頭金を捻出するため、子供を私大医学部に通わせるために、僻地に赴き、診療のかたわら合間に自費診療の遠隔診療でお金を稼ぐ「医療界のマグロ漁船」みたいなビジネスモデルもでてくるかもしれない。

遠隔診療というと、都市部の医師医療過疎の僻地の患者さんを診療する、みたいなイメージがあるけど、田舎に住んでいる医師が、東京サラリーマンバイアグラを処方する未来が来るかもしれない。

* *

当院でも「遠隔診療」を立ち上げるからには、自費診療禁煙外来とかやってやろうとも思ったが、下手に値頃な価格でやっちゃって、めっちゃエントリーきてもしょうがないのでやめた。

外来のボリュームは有限だ。他の地域の医療リソースを分配する意味は、全くない。僕は「遠隔診療」がやりたいのではなく、自分の外来の患者さんがより便利になればいいと思っているだけだから。

ただ、もし人生をやり直すなら、遠隔診療を中心に行う診療所をやるのも悪くないとは思う。

* *

※追記(7月19日)

この記事をエントリしたまさにその夜、厚生労働省通達で、「禁煙外来の遠隔診療、初診から再診まですべての診療を遠隔で行ってもよい」という通達が出された。

http://www.chunichi.co.jp/s/article/2017071501001706.html

ただ、3月にこの手の噂がでたわけだが、6月にはこのような記事もでている。

https://mainichi.jp/articles/20170630/k00/00m/040/103000c

これをみるかぎり、上記の「最初から最後まで遠隔診療で完結」というのは、まだGoサインがでていなくて、今回の通達で初めてOKになったようですね。少しフライングでした。ただ、この通達がでて、上述したことが現実のものになるわけです。遠隔診療単独で完結できるようになると、楽天のネット通販と同じで地方の小売店にチャンスが出たように、僻地の先生に商機がでてくるように思います。

ED治療剤やAGA治療などに関しては現在は「一度は対面をするように」という通達になっているようですが、これについては、おそらくなし崩しに変わっていくように思いますが、どうでしょうかね。

結構大事なことですが、例えば、A診療所で対面を行った医師が、B診療所で遠隔診療を行うことを是とするか、非とするか、というのが多分保険診療上の焦点になろうかと思います。

*1:遠隔診療外来患者数を外来患者数の中に算定するのか、という問題はある。が、病院の勤務する医師リソースの適正配置という観点から考えれば、算定するのがまあ筋だろうとは思う。

*2保険診療であれば自己負担は13000円〜20000円程度。ただし、要件が厳格であること、呼気CO濃度測定が必要なので、遠隔診療では保険診療の「禁煙外来加算」がとれる診療はできない。

2017-07-15 遠隔事始 その1 このエントリーを含むブックマーク

唐突であるが、今度遠隔診療をすることにした。

うちは、80床の地域密着型の中小病院である。とりたてて外来の人数は多くはなく(少なくもないが)目立った個性はない(と、自分では思っている)。集客については、今後の医療トレンドを考えるとそうそう楽観視はしていられない。

* *

きっかけは、メディカルジャパンとかのITフェアーで、遠隔診療のデモをみたことだ。

デモをみると、スマホで、Skype的なインフラを使って行う診療は、スマホ世代には抵抗なく受け入れられるだろうと確信できた。だってSkypeFacetimeGoogle Hangoutとかと全くおんなじような感じだ。書き言葉はLINEチャットのような形で残すことはできる。検査結果の画像ファイルの共有もできる。どうみても便利なのである。

* *

以前から、勤労世代は仕事に穴をあけて平日に受診しにくいという問題は少なからずあった。「受診したいんですけど、もう有給がないんです…」とかいって、ドロップアウトする人も少なからずいる。

*1

遠隔診療を何が何でもしなければいけない、とは思っていないが、おそらく、今後外来診療の一定数が、遠隔診療に切り替わる可能性はあると思ったし *2、先んじて使ってみることにより、問題点の抽出もできるであろうと思って、メドレー社の「CLINICS (クリニクス)」というインフラを使ってみることにしたのである。

契約は終了し、現在詳細を設定中である。

地方都市にある風采の上がらない病院としては、早いほうだと思う。

ちなみにメドレー社から営業やサポートの人は当院に一度も来ていない。メールとGoogle Hangoutで担当者といろいろ協議している。サポートとか設定はこれで全部済みそうである。

ま、いわゆるテレビ会議ですよね。これも個人的には初めての経験だったので、結構圧倒された。

世の中進んでるんだねえ……

そりゃまあ遠隔診療を売るなら、遠隔での対面でいいよなあと思う。そりゃそうだ。

* *

 今回私が導入する遠隔診療は、勤労世代スマホ世代用のインフラであって、離島などの僻地診療とも、高齢者の在宅往診の補完用でもない。多分、これはこれで別のインフラを必要とするだろう。

* *

 ただ、個人的な事情を言えば、今現在自分の外来は完全に飽和しており、新たに遠隔診療を行う余地はあんまりないのである。外来、入院、院内の様々な会議で、今僕は自分の時間を切り売りしてなんとか仕事を回している。

 だから、今回新たなマーケットにアクセスする手段を得たが、現実的に応需する力は乏しい。

 かといって、院内の他の医師は、あまり遠隔診療に興味はないのも現状である。うーん、どうしよう。

*1:よく、ネットには「病院とか平日に行けるわけないじゃん!なんで休日やってないの?」みたいな書き込みが定期的に出現し、ものわかりのいいはてな民が「医療わかってねーなー」的なブクマコメントをつけてくださったりするが、単純に消費者側の都合を言えば、まあ無理もない意見ではあるとは思っている。勤労状況は、やっぱりいろいろシビアだもん。

*2アメリカではめちゃめちゃ普及しているらしい

2017-06-09 応召義務のスマートな回避方法 このエントリーを含むブックマーク

「先生と呼ばれるほどの馬鹿でなし」なんて言葉もありますが、医師は「聖職者」というくくりで認識されていることが多いわけです。

 医師に本当に聖職性があるか?と問われると口ごもる私ですが、ただ、普通の職業と違うんやで?という一端として「応召義務」というのがあります。皆さん、応召義務って知っていますか?医師法で決まっているわけですけれども、

診療従事する医師は、診察治療の求があつた場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない。

医師法第19条第1項)

 要するに普通の仕事の場合は、「あーつかれた、もう切り上げます。閉店です」という形で、業務を終了することができるわけなんですけれども、医師は、応召義務で、こちらの理由で業務を終了できない、という、ちょっと考えると恐ろしいルールなわけです。

 これを拡大解釈すると、電通なんてめじゃないブラック労働環境が容易に生まれてしまう。

「応召義務」があるかぎり、医師は、プロレスラーのように相手がかけた技は一旦受けてから返さなきゃいけない。よけちゃダメなんですよね。

 ちなみにアメリカには「応召義務」なんてありません。

* *

 勿論、どんな人間だって、 40時間くらい診療を続けることが常態化すると、ぶっ壊れます。また、休日が全くない状態でフルタイムで半年働き続けても、ぶっこわれます。ですから、本音と建前っつーものがありますね。中にはプロレスラーよろしく、一切技をよけないストロングスタイルの医師もいます(特にメジャー科)が、愚直に「応召義務」に準じていたら身がもたないですから要領よく休息をとっているのがまあ実情。 *1

 ただ、仕事を切り上げようとしているところで「診ろいや診ない」みたいな押し問答になったとして「応召義務があるじゃないか」みたいに葵の御紋のように持ち出されると、議論するのも面倒くさいので、おそらく多くの臨床医はため息をついて診療することを選ぶでしょうね。そういう「建前」上は最強のカード、それが応召義務です。 *2

患者が貧困であるという理由で、十分な治療を与えることを拒む等のことがあってはならない。

 医師法第19条にいう「正当な事由」のある場合とは、医師の不在又は病気等により事実上診療が不可能な場合に限られるのであって、患者の再三の求めにもかかわらず、単に軽度の疲労の程度をもってこれを拒絶することは、第19条の義務違反を構成する。

 医師が第19条の義務違反を行った場合には罰則の適用はないが、医師法第7条にいう「医師としての品位を損するような行為のあったとき」にあたるから、義務違反を反覆するが如き場合において同条の規定により医師免許の取消又は停止を命ずる場合もありうる。

休診日であっても、急患に対する応招義務を解除されるものではない[3]。

休日夜間診療所、休日夜間当番医制などの方法により地域における急患診療が確保され、かつ、地域住民に十分周知徹底されているような休日夜間診療体制が敷かれている場合において、医師が来院した患者に対し休日夜間診療所、休日夜間当番院などで診療を受けるよう指示することは、医師法第19条第1項の規定に反しないものと解される。ただし、症状が重篤である等直ちに必要な応急の措置を施さねば患者の生命、身体に重大な影響が及ぶおそれがある場合においては、医師診療に応ずる義務がある

厚生労働省通達より)

 ほらね。相手が金持っていないことが明らかであろうが、休診日であろうが、専門外であろうが、診療は拒否できないんです。なかなかしょっぱいルールだと思いませんか? *3

 ただこれがあまり問題にならないのは、前述のとおり、医者はいろんな意味でタフで要領がいいので、うまいこと休んでいるというのが一つ。(それでも研修医で鬱で休職とか自殺というのは結構な頻度で発生している)

 もう一つはこの「応召義務」のデメリットをまともにかぶっているのは、田舎の赤ひげ先生みたいな、僻地とか地域医療の先生なんですけれども、大体は事業主を兼ねているから、被雇用者としてのブラック労働には該当しないから。被雇用者の労働は労働基準法で規定されますが、事業主の労働というものは、制限されません。なぜなら事業主には業務裁量権があるからです。ブラックなのは好きで働いてるからやんな?みたいな解釈で。

でももっと大きい枠組みの「応召義務」には労働裁量権を認めてないわけで、これってやはり矛盾よね。

 というわけで、疲れている時にその言葉を聞くと、死神に心臓をぎゅっと掴まれたような気になる。それが応召義務。

 普段、スマートにひらりひらりと仕事をしていても、その言葉ひとつで、右の頬を打たれたら左の頬を差し出せ精神、攻撃はよけずに受けなきゃいけないという呪わしき運命を思い起こさずにはいられない、それが応召義務です。大げさだけど。

* *

 最近私の住んでいる地方都市広島県福山市。人口40万人)でも、同年代の先生で、最近開業された先生が何人かいらっしゃいますが、例えば岡山に居を構えて、そこから通う、とか、そういう方が何人もおられます。

また、診療所そのものはまあまあ辺縁地区にあるのだけれども、自宅は駅前のタワーマンションにある、とか。

 職住近接ではないパターンが最近多いわけです。

 最初は「うーん、お子さんの教育のこともあるしなあ」と思っていたんですが(地方都市であれば、学校の選択肢が限られるため、教育熱心な奥様は、住みたがらない)、診療所に住み込まずにオフタイムには帰宅するなら応召義務に応じることは現実的に不可能。つまり応召義務を免責できる。そのメリットははかりしれんよなあと気づきました。

 昔ながらの地域診療は、診療所と自宅を併設するのが当たり前でした。それは地域社会に溶け込む点では意義深いとは思います。地元の名士を目指すのであれば今後もこのスタイルでしょうね。ただ「応召義務」は職住近接に潜在的リスクを抱えることになる。

 職住をわけると、地域との一体感というのはなくなりますが、昼間の診療で、親切でしっかりした診療をしていれば、患者さんは来るわけで、それで十分経営が成り立てばそれでいいんでしょうね。

ただ、地域の医師会へのコミットは、どうしても薄れる。大都市圏における医師会の参加率の低迷も、こういうことが要因の一つになっているんでしょう。

私は、地元に帰って父の病院を継いだので、そういう選択肢を検討すらしなかったわけですが、職住を離す選択をされた先生は、どうなんすかね?そういうことについて意識的なんでしょうか、無意識下に最適な選択をしているんでしょうか。

*1:医者っていうのは受験強者なわけで、まあどっちかというと要領がいいし、要領がよくないと潰れる。医者の学会なんて、単位とったら、結構する会場離れて割り切って観光したり、っていうのもまあまあ見るけど、看護とか栄養士学会とかって、医者では考えられないほど真面目で、会場も溢れんばかり、誰もサボらない。

*2:もちろんそういう言い争いに長けた医師もいますが、大抵そういうやつは口先ばっかりで仕事ができないので、超過の仕事を割り当てられません。医療も他の業界と同じく、仕事のできるやつに不公平に仕事は割り振られるものです

*3:ここには専門外ルールは明記されていませんが、専門外であっても初療を行い、診療可能な医療機関を紹介する、という義務が発生する、と何かに書いてありました

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