暗黒街の弾痕

1937年作品
監督 フリッツ・ラング 出演 シルヴィア・シドニーヘンリー・フォンダ
(あらすじ)
弁護士秘書のジョーン(シルヴィア・シドニー)は、刑務所で服役中の青年エディ(ヘンリー・フォンダ)と知り合いになり、彼の純粋さに惹かれた彼女は周囲の反対を押し切って、出所した彼と結婚する。しかし、前科者のエディに対する世間の風は冷たく、勤め先も些細な理由でクビにされてしまう始末。そんなとき現金輸送車が襲われるという事件が発生し、現場に残された車の中からエディの帽子が見つかる….


フリッツ・ラングの渡米第二作目。題名からハデなギャング映画だとばかり思っていたのだが、実際は犯罪者の更正をテーマにした意外に真面目な作品だった。

長らくサイレント映画を撮っていた癖がラングに残っているせいか、ストーリー展開がちょっと強引な印象を受けるが、そんなところがかえって一種独特のスピード感を生み出しており、観ていてダレるところが全くない。これは、以前、「M(1931年)」を観たときにも感じたことであり、“詩情”なんかとはまるっきり縁がないものの、これがラング作品の魅力なんだろう。

ただし、本作では最後の最後でちょっと宗教的(?)になってしまっているのが非常に残念であり、まぁ、時代の限界なのかもしれないが、ここは最後までスパッと即物的に割り切って欲しかったところ。

主演のシルヴィア・シドニーは初見であったが、一時代前の美人顔であり、こういうのをコケティッシュっていうのかなあ。どことなくカエルに似ているなぁって思っていたら、画面に本物のカエルが出てきたのはちょっと愉快。まぁ、とにかく最初から最後までエディ君を一途に愛し続ける彼女の姿は、そんなラング作品のヒロインとして誠に正しい姿なのでしょう。

一方のヘンリー・フォンダは、犯罪者ながらある意味とても“真面目”な青年役であり、「怒りの葡萄(1939年)」のトム・ジョードに通じる役どころ。冤罪により死刑判決を受けたエディが、面会に来たジョーンに「銃を持ってこい」と迫るあたりのシーンは、死を目前にした若者の思い詰めた感じが良く出ており、流石に上手いもんである。

なお、原題は「You Only Live Once」であり、ラストのほうでのジョーンの「あなたとなら何度でも生きてみたい」というセリフに対するちょっと皮肉な答えになっている。