一人息子

1936年作品
監督 小津安二郎 出演 飯田蝶子日守新一
(あらすじ)
信州の製糸工場で働く野々宮つね(飯田蝶子)は、息子の良助(日守新一)と二人暮らし。生活は苦しいが、学校の先生の勧めもあって成績の良い良助を上の学校に進学させることを決意する。それから歳月は流れ、つねは立派に大学を卒業して働いている良助を訪ねるために東京へやってくる….


小津安二郎の初トーキー作品。

つねは、一人息子の立身出世を願い、家屋敷を売ってまで彼に教育を受けさせてきた訳であるが、そんな彼女が東京で目の当たりにした息子の生活は・・・っていうストーリーであり、後の代表作「東京物語(1953年)」をちょっと彷彿させるような親子の物語が描かれている。いわゆる“母もの”の系列に属する作品なのだろう。

まあ、期待が外れた母親にとっては悲劇なんだろうけど、そんな親の勝手な期待を重荷に感じ、自分が結婚したことや子供が出来たことを親に話せないでいた息子の方にとっても至極迷惑な話なんだろうと思う。今の俺はこの母親の方の年齢に近いんで比較的冷静に見ていられたが、これを20?30歳くらいのときに見ていたら、結構辛いストーリーだったかもしれない。

しかし、この良助がとても善良なキャラであるという点がこの作品の救いになっており、母親もそれを確認できたことにひとまず満足して信州へと帰っていく。まあ、ちょっと甘いかもしれないけど、これが小津テイストなんだろうし、俺も「日本の悲劇(1953年)」なんかに比べればこっちのほうが断然好きです。

母親役の飯田蝶子は、俺が子供の頃にも存在感のある脇役としてTVなんかで活躍していたけれど、本作では立派に主役の大任を果たしている。また、小津作品の常連である笠智衆が良助の小学校の先生役で出演しているんだけど、これが良助の一生を決める上で相当重要な役割を果たしておきながら、その結果については全然関知しないという“元祖天然キャラ”みたいな役どころであり、いやー最高に可笑しかった。

ということで、戦前の小津作品を見るのは「生れてはみたけれど(1932年)」に続いてこれが2本目なんだけど、やはりなかなかの名作で“母親に対する罪悪感”をいやというほど味あわせていただきました。あっ、ちなみに俺は自分の子供たちにはそんな過大な期待は抱いておりませんので、まあ、自分の面倒は自分でみられるくらいのところで頑張っていただければ幸いです。>長男&娘