トロピック・サンダー/史上最低の作戦

今日は、友達とTVゲームを楽しみたいという娘に我が家の居間を提供するため、妻と一緒に「トロピック・サンダー/史上最低の作戦」を見に行ってきた。

本作については、ベン・スティラーが主演・監督で、ジャック・ブラックも出ている戦争コメディ、というくらいの予備知識しか持っておらず、ネットで鑑賞券を予約するときに初めてPG-12に指定されていることを知った訳だが、それも下ネタのせいだろうとタカをくくって、いざ映画館へ。

で、上映が開始されて間もなく、PG-12というのが、エロのせいではなく、グロのせいだということに否応なく気づかされる訳であるが、何とかこの部分を乗り越えてしまえば後は大丈夫。見終わってみれば、これがなかなか傑作なおバカ映画だった。

特に、予備知識不足が幸いし、あのハゲ頭のプロデューサー役の正体を全く知らないで見ていたため、彼の名前がエンディングクレジットに表示された時には本当にビックリ。終わってから妻にも確認したんだが、彼女も全然信じられない様子で、念のために帰りがけパンフレットまで購入してしまった始末。

一方、過去のベトナム戦争をテーマにした映画のパロディ・シーンも満載だったようなのだが、生憎、俺は「ディア・ハンター(1978年)」のロシアン・ルーレットを見て以降、その手の作品は見られなくなってしまったため、ほとんど元ネタが解らなかったのがちょっと残念。(唯一、「地獄の黙示録(1979年)」だけは見ていたので、途中でCreedence Clearwater RevivalやThe Rolling Stonesの曲が流れたところでは、おもわずニンマリしてしまった。)

ということで、こんなおバカ映画を作るためであっても、これだけの手間暇をかけることを厭わないハリウッド映画の凄さを再認識させてくれた作品。「20世紀少年(2008年)」もこれくらい力を入れて作ってくれたらなあ、と思いながら帰路につきました。

 靜かなる決闘

1949年作品
監督 黒澤明 出演 三船敏郎、三条美紀
(あらすじ)
軍医の藤崎恭二(三船敏郎)は手術中の不注意で小指に傷を負い、そこから患者が罹っていた梅毒に感染してしまう。敗戦後、復員した恭二は父親の病院で献身的に働いていたが、戦時中に拗らせてしまった梅毒はなかなか完治せず、彼を待っていてくれた許婚の松木美佐緒(三条美紀)にも真実を告げることができなかった….


今まで見逃していた黒澤作品を見る特集の第6弾。

「野良犬(1949年)」と同時期の作品ということもあり、題名の印象から勝手に犯罪映画だろうと思い込んで見始めた訳であるが、これが大間違い。“決闘”というのは、(「スピロヘータv.s. サルバルサン」のことでもなく)なんと「性欲v.s.良心」のことだった。

すなわち、主人公の藤崎は、許婚のことを想って戦時中“純潔”を守り続けてきた訳であるが、些細な事故によって梅毒に感染してしまったために、復員してからも、医師としての良心が邪魔をして自らの性欲を発散することができない。まあ、医学の進んだ現在から見れば単なる笑い話かもしれないが、作中で藤崎がこの葛藤を初めて打ち明けるシーンは、三船敏郎の熱演もあってなかなか感動的ですらある。

いや、正直なところ、本作の最大の見所はこの三船の演技(というか存在感?)であるといって良い程であり、見終わってから彼に対する俺の評価がさらに1ランク上がったような気がするくらい。長身の彼が外科医の白衣を纏ったお姿は、俺が今まで映画の中で見た医師としては文句なしに一番カッコ良かった。

他の出演者では、相手役の三条美紀も悪くないけど、見習い看護師役で出演している千石規子の方が儲け役で印象に残る。また、「素晴らしき日曜日(1947年)」のヒロインだった中北千枝子も出ているんだけど、わずか2年で随分と雰囲気が変わってしまっているのは、当時の食糧事情のせいなのかなあ。

ということで、三船が父親役の志村喬と並んで煙草に火をつけるというシーンがあるんだけど、ここでのワザとらしい演出がいかにも黒澤らしくてとても面白かった。地味でちょっと時代遅れなテーマのため、あまり話題になることのない作品であるが、今見ても十分に面白い力作だと思います。