太陽を盗んだ男

1979年作品
監督 長谷川和彦 出演 沢田研二菅原文太
(あらすじ)
中学校の理科教師の城戸誠(沢田研二)は、東海村原子力発電所からプルトニュウムを盗み出し、自分のアパートで原爆の製造に成功する。途方もない“力”を手に入れた彼は、以前、自分が巻き込まれたバスジャック事件で知り合った警視庁の山下警部(菅原文太)を交渉相手に指名し、手始めにナイターの試合を最後までTV中継させることを要求する….


先日、某サイトが実施した「邦画オールタイムベストテン」で見事第一位に輝いた作品。かねてからその評判は耳にしていたものの、何故か今日まで見てみようという気にならなかった。

主人公の城戸誠は、かつては教師という職に情熱を持っていた時期もあったらしいんだけど、今や生徒達からも軽く見られているような無気力教師。そんな彼が、ヒマ潰しの延長のようなノリで原爆の製造に成功してしまい、これを使って国家を脅迫する訳だが、無気力な彼にはこれといって要求することが思いつかない。

まあ、モノが原爆だけに、爆発したら物語はそこで終わってしまう(=途中で爆発する訳がない。)ということで、「ジャガーノート(1974年)」みたいなハラハラ感は皆無であり、主人公がナンセンスな要求を繰り返すあたりでは、むしろコミカルな雰囲気さえ漂ってくる。そして、金に困った彼が5億円を要求するあたりから一気に緊迫感は高まって行き、思いきった手を使った警察が遂に原爆の回収に成功!

いや、ここで終わっていれば、なかなか良く出来た青春&犯罪映画の佳品ということになったんだろうが、本作の“素晴らしさ”は実はここから始まる訳で、この後に繰り広げられる主人公と山下警部の闘いは、ご都合主義なんていう甘っちょろい表現は軽く超えてしまっており、「ターミネーター1984年)」もビックリという程の超人的展開をみせてくれる。

さすがに、“伊藤雄之助扮するバスジャック犯の無念(?)を晴らすため、原爆を皇居で爆発させる”という訳にはいかなったんだろうが(=おそらく、皇室の方々は既にどこかに避難していただろうしね。)、脚本&演出ともに凄まじいばかりのパワーに溢れており、本作の人気の秘密が良〜く分かったような気がした。

ということで、まあ、真面目な俺としては、本作を「邦画オールタイムベストテン」の第一位に推そうとは思わないものの、1973年当時、学校の国語の時間に“ストーンズ来日中止の真相”をテーマに作文を書き、教師から呆れられたという経験を持つ者としては、本作の主人公の気持ちも理解できない訳ではありません。

 ハイ・シェラ

1941年作品
監督 ラオール・ウォルシュ 出演 アイダ・ルピノハンフリー・ボガート
(あらすじ)
特赦により8年ぶりに刑務所を出られた銀行強盗犯のロイ・アール(ハンフリー・ボガート)は、かつての仲間から、高級ホテルの金庫に預けられた宝石類を強奪する計画を持ちかけられる。強盗仲間の待つキャンプ場に到着したロイは、そこで彼らが街から連れて来た元ダンサーのマリー・ガーソン(アイダ・ルピノ)と出会う….


先日見て面白かった、同じラオール・ウォルシュ監督による「死の谷(1949年)」のオリジナル。

主要な登場人物やストーリーの大筋は一緒であるが、あちらが西部劇仕立てなのに対し、こっちはギャング映画ということで、本作の方がより現実的に作られている。特に、作品の後半、主人公が官憲に追われる身となってからの展開が、「死の谷」の方ではやや過剰と思える程に感傷的だったのに対し、本作ではとてもクールにまとめられているのがとても印象的だった。

まあ、普通に考えて、この原作を映画化しようとした場合、本作のような作品になるのがむしろ当然のことであり、西部劇だからこそ許される「死の谷」のような感傷的な筋立てを本作で採用していたら、ハンフリー・ボガートのせっかくのパーソナリティが台無しになっていたに違いない。

その、本作が本格的な主演第一作目となるハンフリー・ボガートは、公開当時42歳。彼の演じるロイ・アールは、狂犬と呼ばれる凶悪な銀行強盗犯でありながら、足の悪い純情(そう)な少女に惚れてしまい、その挙句に失恋するというロマンチックな一面を併せ持ったキャラであり、このへんが「マルタの鷹(1941年)」や「カサブランカ(1942年)」に主演する契機になったのかなあ、なんて思いながら見ていた。

ということで、本作がなかなかの力作であることは否定しないが、「死の谷」と比べてどちらが面白かったかと言えば、うーん、やっぱり後者の方かなあ。いや、ジョエル・マクリーは完全なミスキャストなんだと思うけど、それを補うために採用した感傷的な脚色が奇跡的(?)に上手くハマってしまっているんだよねえ。まあ、いずれにしても、一つの原作からこのような二つの優れた作品を生み出したラオール・ウォルシュの手腕は、もう、流石としか言いようがありません。