グリーン・ゾーン

2010年作品
監督 ポール・グリーングラス 出演 マット・デイモングレッグ・キニア
(あらすじ)
フセイン政権陥落直後のバグダッド。MET隊長のロイ・ミラー准尉(マット・デイモン)は、本部からの極秘情報に従って市内にある工場の捜索を行うが、何処を探しても目的とする大量破壊兵器を発見することは出来なかった。これで3回連続の作戦失敗となる彼は、次第に情報自体が間違っているのではないかという疑問を抱くようになるが、上官は彼の意見に耳を貸そうとしない….


ボーン・アルティメイタム(2007年)」に続くポール・グリーングラスマット・デイモンのコンビによる戦争サスペンス映画。

イラク戦争開戦の最大の理由である大量破壊兵器の存在が実は“間違い”であったことについては、CIAの情報に誤りがあったことが原因というのがアメリカ政府の公式見解だったと思うが、本作では国防省の高官であるパウンドストーン(グレッグ・キニア)がイラク側の内通者からの情報を故意に捻じ曲げて伝えたためということになっている。

更に、彼はイラク軍を解体し、長年国外に亡命していたズバイディなる人物を起用することによって親米政権の樹立を画策するのだが、これを非現実的と批判し、イラク軍を利用して国内の治安回復を図るべきと主張するCIAと対立。ミラーは後者の支援を受けながら、イラク側の内通者である“マゼラン”と呼ばれる人物の謎に迫っていく。

まあ、大量破壊兵器が最初から存在しなかったということは、2004年10月に提出されたアメリカ調査団による最終報告でも正式に認めており、今となっては常識レベル。ちょっといまさらの感があるのは否めないが、アメリカでは依然としてアルカイダフセイン政権との関係を信じている人が大勢いるそうなので、やむを得ない面もあるのかもしれない。

むしろ、本作で興味深かったのは、ひょんなことからミラーの活動を助けることになるイラン人“フレディ”の存在。娯楽性を高めるためであれば、彼をパウンドストーン側のスパイにするとか、もっと別の使い方があったと思うが、結局、最後まで彼にイラン市民の声を代弁させ続けたあたりに、この問題に対する制作者側の誠実さを感じ取ることが出来た。

ということで、短いカット割や動き回るカメラといったグリーングラス監督ならではの演出は依然として効果的ではあるものの、正直、初めて「ボーン・スプレマシー(2004年)」を見たときに比べれば衝撃度は相当低下しており、次回作ではちょっと違うタイプの作品を見せて欲しいと思います。

 将軍たちの夜

1966年作品
監督 アナトール・リトヴァク 出演 ピーター・オトゥールオマー・シャリフ
(あらすじ)
ドイツ占領下にある1942年のワルシャワ。アパートの一室で売春婦が惨殺される事件が発生し、犯人が将軍の軍服を身に着けていたという目撃証言から、情報部のグラウ少佐(オマー・シャリフ)が事件の捜査に当たることになる。彼は、事件当夜のアリバイがないガプラー、カーレンベルクそしてタンツ(ピーター・オトゥール)の3人に目を付けるが、相手が大物だけに直接会って話を聞くことすらままならない….


アナトール・リトヴァク監督による第二次世界大戦を舞台にした殺人ミステリイ。

あるパーティ会場でようやくこの3人をつかまえたグラウ少佐は、(やや得意げに)彼等が殺人事件の容疑者であると告げることに成功するが、その翌日、彼はあっさりとパリ勤務に“ご栄転”させられてしまい、捜査はあえなく頓挫してしまう。

まあ、このグラウ少佐自身も相当ユニークな人物であり、戦争で多くの人命が失われている時期に、たかが(?)ポーランド人売春婦の殺人事件に我が身の保身も顧みない異常な執着を示し、パリでの第2の殺人事件の捜査では、その過程で明らかになったヒトラー暗殺計画(=例のヴァルキューレ作戦)の方にはほとんど興味を示さずに殺人事件の捜査を続行する。

このへんの彼の内面に関する説明は特に無いようなのだが、俺の勝手な想像からすれば、おそらく彼は戦争やクーデターといった正邪の判断が困難な問題はとりあえず棚上げにしてしまい、善悪が比較的ハッキリしている単純な殺人事件の捜査に没頭することによって自らの正気を保っていたのではないだろうか。

そして、生真面目な性格からそんなごまかしが出来ないままに狂気の世界へと足を踏み入れてしまうのが、英雄と呼ばれるタンツ将軍であり、まあ、ピーター・オトゥールが演じているという時点で真犯人が彼であることは観客にモロバレであるものの、「アラビアのロレンス(1962年)」の4年後という彼の演技は流石に魅力十分であり、レジスタンスを捕まえるためにワルシャワ市内で戦車をぶっ放すシーンは衝撃的であった。

ということで、ミステリイとしての魅力は弱いものの、ドナルド・プレザンスフィリップ・ノワレといった強力な脇役陣の他にクリストファー・プラマーもチラッと顔を見せてくれており、1942年から1965年までの20数年間に及ぶ人間ドラマとして見れば、アナトール・リトヴァク(=公開当時66歳)のベテランの味を堪能することが出来ます。