ザ・ロード

2009年作品
監督 ジョン・ヒルコート 出演 ヴィゴ・モーテンセン、コディ・スミット=マクフィ
(あらすじ)
文明の終焉を迎えた近未来のアメリカ。名も知れぬ男(ヴィゴ・モーテンセン)が、未だ幼い息子(コディ・スミット=マクフィー)を連れ、ショッピングカートを押しながら荒廃した大地を南へ向かって歩いている。絶望的な程の食料不足から、生き残った人間の一部は人肉を喰らう“悪しき者”へと堕落していったが、この父親は息子に対して“善き者”で在り続けなければならないと繰り返し言い聞かせる….


「ノー・カントリー(2007年)」の原作者であるコーマック・マッカーシーのベストセラー小説の映画化。

破滅の原因は最後まで不明のままなのだが、割と短期間に起きているらしいことから考えて、巨大な隕石が地球の反対側あたりに落っこちたのかもしれない。いずれにしろ、昼間でも空は分厚い雲に覆われたままであり、薄暗い日光の下では穀物は育たず、森の大木でさえ枯死してしまう有様。

実際にこういった境遇に直面した場合、従来の善悪の基準にしがみつくのはナンセンスのような気もするのだが、信仰といったものをお持ちの方々はなかなかそう簡単に割り切る訳にもいかないのだろう。仮にあのような状況があと100年間も続けば、きっとその状況に合った新しい宗教が生まれてくるんだろうけどね。

まあ、この父親にしても、口では“善き者で在れ”と説きながら、廃屋とはいえ他人の家屋に押し入って食料を盗んだり、空腹で倒れそうな老人を見捨てようとしたりする訳であるが、考えてみれば理想と現実が一致しないのは現代社会でも良くある話であり、特に自分の子どもが絡んでくるとその傾向が著しくなる。

そして、そんな矛盾を抱えながらも理想を子どもたちの世代に託そうとする父親の気持ちは、無神論者の俺にも十分理解できるところであり、それが“心の火を運ぶ”ということなんだと思う。あのちょっと甘すぎるラストにしても、そんな父親の願いを表しているのだと考えれば、まあ、あれ以外のエンディングはちょっとあり得ないのだろう。

ということで、本作を見てみようと思ったのは、スティーヴン・キングが2009年の映画年間ベストテンの第3位にこの作品を選んでいたからなんだけど、そんな彼があの映画版「ミスト(2007年)」の商業主義的エンディングを本当に気に入っているとは、俺には到底信じられません。