ハメット

1982年作品
監督 ヴィム・ヴェンダース 出演 フレデリック・フォレスト、マリル・ヘナー
(あらすじ)
1928年のサンフランシスコ。探偵稼業から足を洗い、小説家に転向したダシール・ハメットフレデリック・フォレスト)のもとへ、ピンカートン探偵社時代の先輩であるジミー・ライアンが訪ねてくる。現在、独立して探偵事務所を営んでいる彼は、失踪した中国娘クリスタル・リンの行方を捜しており、チャイナタウンに詳しいハメットに対し、その捜査に協力して欲しいというのだ….


ダシール・ハメット自身が探偵役を務めるハードボイルド映画。

どうやら、このジミー・ライアン(ピーター・ボイル)なるタフガイが、あの有名な名無しの探偵“コンチネンタル・オプ”のモデルになった人物という設定らしく、そんな二人が協力し合って中国娘失踪事件の捜査に取り掛かろうとする夢のような導入部は、ハードボイルド・ファンにとって眩暈を起こしそうなくらいに魅力的。

彼等がハメットのアパートを出ると、早速、不振な男(=昔なら、間違いなくピーター・ローレが演じていた役どころ)に尾行されるのだが、コンチネンタル・オプにとってみればそんな尾行をまくのは朝飯前。その鮮やかなお手並みを拝見できることを楽しみに見ていたのだが、どういう訳か、これがなかなか期待したようには話が進まず、結局、このライアン君、最後まで見せ場らしい見せ場もないまま、ラストで犯人の凶弾に倒れてしまう。

見終わってから調べたところによると、本作の制作過程において、監督のヴィム・ヴェンダースとプロデュースを担当したフランシス・フォード・コッポラとの間で相当の意見の相違があったようであり、そんな事情を反映してか、脚本は途中からヨレヨレ状態。おそらく、ライアン君の見せ場もそんな中でカットされてしまったのだろう。

まあ、コンチネンタル・オプが木偶の坊になってしまったのはとても残念であるが、だからといって本作が完全な失敗作かというと、そうはならないあたりが映画の面白いところ。おそらく、ヴィム・ヴェンダースがドイツ人であることと無関係ではないと思うのだが、一般のハードボイルド映画とは趣の異なる少々幻想的(?)な雰囲気は、個人的にはとても心地よく感じられた。

ということで、昔から、ハードボイルド映画にとってストーリーは二の次みたいなところがあり、「三つ数えろ(1946年)」にしろ、「ロング・グッドバイ(1973年)」にしろ、一番大事なのはその作品が有する独特の雰囲気。ジョー・ゴアズによる原作の方もいずれ読んでみるつもりです。